621、大番頭の身代わり
さて、再びファベルのジノガミ事務所に到着。でも事務所ってより詰所って感じかな? どうでもいいけど。
ただいまコーちゃん。カムイも元気にしてるか?
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
元気なわけないって? さっきの今だもんな。
「クロミ、カムイを診てやってくれない?」
「もちろんだし。」
ほぉ、本格的だ。カムイの目を開いたり口の奥を見たり。額と腹に手を当てて魔力を流してみたり。やっぱクロミは頼れるなぁ。
「んー……確かに毒じゃないっぽいんだけどぉー。なんてゆーかぁー。食べた後で毒になった感じ? でも毒じゃないから解毒できない的な? この感じだとしばらく体調悪そうだけど治ると思うよー?」
食べた後で毒になる? アレク達と同じものを食べた……
アレルギー? それとも何かの中毒か? 確かタマネギは犬に食べさせてはいけないって聞いたことがある。たまたまカムイが食べた料理の中にそれがあったってことか? 何でも食べるカムイにまさかの弱点があったとは……
カムイ、次から何を食べたらマズいか分かるか?
「ガウガウ」
たぶん分かるって? 私たちに分からない以上カムイが自分で気をつけるしかないもんな。
「ガウガウ」
どうせ二度と効かないって? おぉさすがカムイ。免疫ができた感じなのかな。アナフィラキシーショックとか嫌だぞ。大丈夫だよな?
「さぁてと。そんじゃあ情報の整理でもすっか。そこに寝てるエチゴヤのモンを叩き起こしてなぁ。」
ドロガーめ、張り切ってるのか?
情報源は二人。
一人は大番頭と入れ替わったムラサキメタリックの男。
もう一人はカムイを連れ去った赤兜だ。
「アレク、こいつから起こしてくれる?」
「ええ、分かったわ。」
『覚醒』
ムラサキメタリックの鎧はすでに外してある。
「ううぅ……」
「やあおはよう。お前ってカンダツ・ユザの身代わりなんだな。大人しく情報を吐くならこっちも拷問とかしなくて済むんだけどなぁ?」
「ふん……」
だろうね。
「ドロガー、頼むわ。頭が狂わない程度にな。」
「ったくよぉ……つーわけだエチゴヤぁ。俺がなぜ傷裂って呼ばれてんのか教えてやんよ。面倒な話だがよぉ。いやーほんとに。」
おっ、少し顔色が変わったか。おっと『麻痺』
顎だけに使った。自殺なんかさせないぜ?
「喋りたくなったら適当に合図しな。顎が動くようにしてやるよ。」
「あが……がぁ……」
ドロガーが取り出したのはナイフ。業物っぽいな。解体用かな? それで奴の前腕をひと掻き。
「あああおおおぁああおおおぁぁおおぁぁーー!」
痛い時に顎を食いしばることができないってのは辛いもんだな。
「どうだぁ? 痛ぇだろ? ちっとしか切ってないのにその痛みだぁ。てことはよ? こいつをずっぽり突き刺したら……どんだけ痛ぇんだろおなぁ? 後で教えてくれや。おめーが喋れるうちによぉ?」
おお、ドロガーが拷問モードに入ってる。
「あがががあああああががががぁぁぁぁががががががぁぁぁぁーー!」
「おっとぉ? 痛ぇのは刺した時だけじゃねえんだぜぇ? 抜くときぁもっと痛ぇんだぜぇ? どーよおめぇ? ゆっくり抜くかスパッと抜くか。好きな方を選ばせてやんぜぇ? んん?」
「はあっあっあぁぁあががっあぁんがぁぁがががあはぁあっ!」
「てめぇ……選べって言ってんだろがぁ! 舐めてんのかよぉ! この傷裂ドロガー様の話ぃ聞いてねぇのかよ! 舐めてんだなぁ? おう!? そんじゃあ仕方ねえ。抜くのはナシだぁ。今度は左手にサービスしてやんぜぇ? 右手とどっちが痛ぇか教えてくれや、んん?」
おーおー。ナイフを踏んでぐりぐり。えげつないねぇ。
「あぁぁっがっああああががっあぁぁーー!」
次のナイフが出てきた。こっちは戦闘用っぽいな。分厚さが違う。
「ん? おぅ魔王よぉ……こいつもしかして喋りてぇんじゃねぇか?」
「そうか? おい番頭代理。そうなのか? 違うだろ? お前は死んでも口を割らないタイプだろ? な?」
「ああっああっあっあがっがががっあああっ!」
さかんに首を縦に振っている。
「だよな。やっぱお前って口を割らないタイプだよな。敵ながらあっぱれだ。お前こそヒイズルの勇者かも知れんな。じゃ、ドロガー続きを頼むわ。」
「んんんーーー! んんっ! あぁぉおおぁぁがっがっあ!」
あれ? 今度は首を横に振ってる。
「喋りたいのか? 仕方ないな。喋らせてやるから正直に言えよ? 約束な。」
「ああっあああああががががががががっっっっ!」
おっ、効いた効いた。なんだよ。喋りたかったのか。それなら早く言えってんだ。
『麻痺解除』
代わりに手足に『麻痺』
「はぁっ……はぁ……はぁーはぁーーおっごぉぼ……」
「では質問だ。お前はさっき大番頭カンダツ・ユザと入れ替わり俺と戦った。逃げたのはカンダツで間違いないな?」
「違う……あれは第一番頭ベッジョウ・セイロだ……大番頭なんて会ったことすらない……」
「第一番頭と言えば東の街クマーノにいるはずね。それがなぜイカルガにいるの?」
おお、さすがアレク。例の名簿をばっちり覚えててくれたのね。
「し、知らん……招集がかかったとしか……」
てことは他の番頭、第二と第四もいるのかな? 第三はオワダで仕留めたアガノ・ラウミだったよな。ところで東の街クマーノってどこだろう。地理的にはイカルガがヒイズル最東端のはずだが。
「で、その第一番頭はどこに逃げた? 地下通路で逃げたんだろ?」
「し、知らん……あれは幹部以外通ることを許されていない……」
はぁ。いつも思うがエチゴヤってマジで情報統制がしっかりしてるよなぁ。あんまり統制しすぎると仕事に支障が出そうなもんだけどなぁ。
「孤児院以外のエチゴヤの拠点はどこだ?」
「ひ、東の孤児院もだ……」
あー、そりゃそうか。孤児院って一つだけじゃないわな。
「他には?」
「し、知らん……」
はぁ……こいつは孤児院担当って感じか? 今さら他の孤児院に行っても遅いんだろうなぁ。子供ごと証拠を消しててもおかしくない。うーん、どうしよう……
もう少し聞いてみるか。
「お前や第一番頭があの孤児院にいたのはいつからだ?」
「三日前……」
私達が天都に来た翌日か。偶然なのかどうなのか。
「お前は第一番頭とはどんな関係だ?」
「ただの護衛だ……」
「ただの護衛にしちゃあえらく命懸けで戦ったもんだな。あいつはそんなに忠誠を誓う価値があるのか?」
「違う……人質がいる……故郷に残した両親が……ぐっ……」
くっ、これはずるいぞ。そんな話を涙ながらに語られたら。
あれ? でも……
「契約魔法はかけられてなかったのか? エチゴヤみたいな外道は喜んで使う手口だと思うが。」
この発言はブーメランか?
「かけられていた……だが、イカルガに来る前になぜか解かれて……代わりに両親の話をされた……」
ん? エチゴヤはなぜそんな面倒なことを……せっかくかけた契約魔法をわざわざ解くなんて。
「契約魔法を解かれた理由は知らないんだな?」
「し、知らない……」
「分かった。とりあえずお前はしばらく俺に絶対服従な。その間は多少は身を守ってやるよ。どうせエチゴヤは潰れるんだから両親のことは気にするな。」
「あ、あり……がとおおっおおっおぼど……」
そんなに泣かれるとなぁ……でもこいつもエチゴヤなんだからな。いくら契約魔法をかけられてたからって無罪放免なんて真似はしないぞ。
えーっと、他に聞いておくことは……
「いつ、第一番頭と入れ替わった?」
「暗幕球を使った後だ……」
あれか。そういやあの煙玉みたいなのを使う前までは顔が見えてたもんな。あのあたりから顔までムラサキメタリック装備に換装したんだっけな。むしろあそこしかタイミングはないわな。
ちっ、僅差かよ。コーちゃんに雑魚の相手なんか頼まないで私と一緒に戦ってもらっていたら……コーちゃんなら入れ替わりに気付いたろうな。ムラサキメタリックに覆われてるから魔力はさっぱり分からないにしても、逃げる奴の気配を逃すはずがないもんな。
つまり私の采配ミスか……今回はやらかしまくってるな……ミスだらけだよ。あーあ。
まあいい……最後の質問だ。
「短筒って言ったな。あれはどこで手に入れた?」
「知らん……あの時、入れ替わった後に持たされた……あと一回だけ使えると……」
なるほどね。どうせ最後の一発だから入れ替わりついでに渡したわけか。
「使い方は知ってたのか?」
「ああ、使ったのは初めてだったがな……」
こんなところかな。もう少し聞くことはあるが、もう一人を吐かせてからだな。
「アレク、とりあえずそいつも起こしてくれる?」
「ええ。」
『覚醒』
さて。次は赤兜か。




