617、番頭の足掻き
とりあえず院長室の奥を探ってみる。
ちっ、普通に扉があるな。むっ、この魔力は……
『水壁』
つまらん罠だ。ここを通ろうとすると爆発する仕組みか。こいつらって本当に爆発させるのが好きだな。そんなの効くかよ。
むっ! 今、銃声が聴こえた!
この先だ!
「待てやカンダツ!」
「ギャワワッ」
いた!
大番頭の野郎、コーちゃんと対峙してやがる! バカが! コーちゃんに銃弾なんか当たるわけないだろ!
『榴弾』
「効かん!」
ちっ、全身ムラサキメタリックに換装しやがった。さすがにいいもん持ってるよな。
「くくく……魔王なんて大仰な名前の割には、魔法が通じない相手には手が出せないか?」
「知ってたのか。じゃあやはりお前がカンダツ・ユザってことだな。大番頭ともあろう者が孤軍奮闘か。寂しいなぁ?」
ドロガーは向こうの部屋に置いておこう……
「オワダではラウミが世話になったようだな。おまけにアラキ島でも。賞金が二十億ナラーでは安過ぎるな。」
ふん。賞金のことまで知ってるのか。当たり前か。ラウミってのはオワダを仕切る番頭だったか。
「頭悪いな。ローランド王国の白金貨二十枚、つまり二十億イェンをそのままナラーに換算するなよ。国力差ってもんを考えろ。つまり二百億ナラーってとこか。その賞金だれが払うのかは知らないが、せいぜいローランドに手を出したことを後悔するんだな。」
『身体強化』
『螺旋貫通峰』
「ふっ、その程度か? 達者なのは口だけのようだな?」
この野郎……盾を上手く使いやがる……
真正面から受け止めたら盾ごと貫通してただろうに。
「ほぅれ死ね死ねぇ!」
危ねっ! くっそ……痛ぇなぁ! 銃弾が耳や頬を掠めていく……だが、いくらムラサキメタリックでも私の籠手には勝てまい。
「ほう? どうにか頭だけは守ったか。みっともなく隠れおって。だが腹はがら空きだぞ?」
奴の銃が私の腹に狙いをつける。バカが!
『徹甲弾』
「ぐむっ!」
吹っ飛びやがれ。ダメージはほぼないだろうけどな。
だが、さっき分かった。こいつ銃の扱いに慣れてないな。腹狙いが見え見えなぐらいだからな。
ちっ、それでも銃は落とさなかったか。いや、手首に何かで固定してやがる……生意気な。
「院長!」
「院長どちらに!」
「こっちだ!」
ちっ、雑魚かよ。悪いけどコーちゃん頼める?
「ピュイピュイ」
可哀想だが狂い死にしてもらおう。私はこいつの相手で手一杯だからな。
「ふん!」
カンダツが何かを地面に叩きつけると、見る見る部屋を暗雲が覆っていく。無駄だ。
『烈風』
ちっ、ほんのわずかの間にまた逃げに転じるのかよ! だが今度は見えてるぞ。そっちか!
『徹甲弾』
壁ごとぶち壊して追いかける。
「もらったぁ!」
『鉄壁』
私が来るのを待ち構えてたな。そのぐらいお見通しだっての。だが、やばかったな……鉄壁すら貫通しかけてるし。
「ローランドの魔王などと呼ばれるだけあるな。なかなか見事な魔法を使うではないか。だが、こんな所でのんびりしてていいのか?」
『渦巻く波濤』
知るかボケ。
「ふっ、そのような魔法など効かんんんんんんっむぅぅぅ!?」
確かに効かんだろうよ。だが水流の影響は完全には無視できまい? 本来なら数十メイルの範囲を丸ごとぶん回す魔法だが、カンダツの周囲三メイル限定でかけてやった。洗濯機の中のようにぐるぐる回りやがれ。
なにっ!?
この野郎……自分の目の前で魔石爆弾を爆発させやがった……
その威力で私の魔法をかき消しただと?
「くくく……この鎧の前には貴様ら田舎者の魔法など効かん。それにしても人の話が聞けんとはどこまでも田舎者だな。貴様らの宿は今ごろ赤兜の大軍に囲まれている。あの女どもも捕まっている頃だろうて。くくく。」
『紫弾』
「おごっ!?」
お前の話なんか聞いちゃいないんだよバカが! ようやく手首ごと銃をぶち壊せた。これまでだ!
『身体強化』
不動を振りあげ、頭部に振り下ろす。今のこいつは隙だらけ、あっさりと命中。終わりだ。
『螺旋貫通峰』
肩を貫通。そして不動を通して……
『拘禁束縛』
やっとだ……
やっと大番頭カンダツ・ユザを捕まえたぞ。
マジで疲れた……
殺さないよう注意しながら、建物にもある程度配慮しながらだったもんなぁ。
さて、ここからどうしよ……こいつって拷問しても吐かないんだろうなぁ……
その前にどうにか鎧を脱がせないとな。せめて頭部だけでも。
「さあて大番頭。終わったな。何か言い残すことはあるか?」
「くくく……殺すなり拷問するなり好きにするがいい……どの道貴様らの行き先は絶望しかない……」
『永眠』
殺すわけないだろ。そして拷問もしない。クロミなら上手いこと吐かせる魔法を知ってそうだしお任せといこう。それにしても宿を赤兜が取り囲んでるだと? 嘘だな。それに囲まれたって問題ないしね。
コーちゃん終わった?
「ピュイピュイ」
「えしぇっしぇしぇひぇおー」
「ひひっひっひひっひひひぃ」
「ごにっにっんんんっぴぴっ」
あーあ。可哀想に壊れちゃってるよ。お前らもエチゴヤなんかにいるからこんな目に遭うんだぞ?
『風斬』
可哀想だからトドメを刺してあげよう。
それよりコーちゃん。ここにはもう子供たち以外はいないかな?
「ピュイピュイ」
あっちに何かあるって? 行ってみようか。カンダツが逃げようとしてた方向とは逆だな。とりあえずドロガーにはポーションをかけておいてと。まったくもう。今からがドロガーの腕の見せどころなのに。
よし行こうコーちゃん。




