613、幹部グルド・ロタカ
中は冷んやり。冬なのに外より寒いじゃん。それに臭いな。
「んん? お前あん時の寄生ヤローじゃねえか。いや、魔王なんだったか?」
おお、素材の買取窓口にいたおっさんか。こいつが解体部門の責任者グルド・ロタカだな。
「まずは魔物の話からだな。こいつをきれいに解体できるか?」
私が魔力庫から取り出したのはコカトリス。仕留めた時は番だったが片方はノルドフロンテに置いてきたからな。
「こ、こいつぁ……」
「見ての通りコカトリスだ。こいつの軟骨が食べたいんだができるか?」
ギルドなんだからできて当たり前なんだけどね。今回は一応相談って建前があるしね。
「そりゃあできるけどよぉ……他は納品でいいんだな?」
「ああ、構わんよ。いい値段付けてくれ。」
「分かった。コカトリスか……初めて見たな……」
ヒイズルには生息してないのかな?
「さて、それは後でいいとして、別に話がある。お前の奥さんについてだ。」
「ああ!? アルワナがどうしたってんだ!」
あの主婦はアルワナって名前だったのか。そういえば聞いてなかったっけ?
「はっきり言うがお前らが住んでるあの家、ハンダビラの持ち物だったのは知ってるな? もっとも奥さんはお前に隠しておきたいようだったけどな。」
「てめぇ……どっから嗅ぎつけやがったぁ……」
おっ、解体ナイフを抜きやがったな? よく切れそうじゃん。『金操』はい没収。
「んなっ!?」
「奥さんは自分があの家を守ってるつもりみたいだがな。話を聞いてピンと来たぞ。ハンダビラが本当に欲しいのはお前だな? ギルドの幹部であるお前との繋がりだな。」
だいたいただの主婦から手に入る情報なんてたかが知れてるよな。それこそ百ナラーで売れるペサタ程度の情報だろうよ。ペサタの奴、ドロガーが来てからビビりまくりで一言も喋らないでやんの。どうでもいいけど。もう用は無いから帰すべきだったな。やはりどうでもいいけど。
「それを知ってどうする気だぁ……」
「お前ならハンダビラの奴と連絡が取れるだろ? ここに呼べ。もしくは住処を教えろ。そうすればお前ら夫婦はこれからも安心して眠れるだろうぜ? なんせお前んちの秘密は俺が知ってしまったからな。すぐにでもハンダビラから刺客が来るんじゃないか?」
「それだけか?」
「ああ、簡単だろ? 金も払わなくていいしギルドの情報を流す必要もない。お前はただ知ってることを話すだけでいいんだ。」
「わ、分かった……まずは俺が知ってる住処だが……」
えらく素直だね。
「待て。話す前に約束してくれよ。正直に話すってさ。そうすりゃコカトリスの代金全部お前にくれてやるぜ?」
「…………待て……話す相手はお前だけだ……傷裂どころか、そっちのファベル野郎なんざにゃ聞かせるわけにゃいかん……」
『消音』
「ほれ。これでドロガー達には声は漏れないぞ。試しに大声で叫いてみろよ。」
「うおおおおおおっ!」
『金操』
解体ナイフが一本だけだなんて思ってないさ。大声に紛れて殺しにきやがったか。だが無駄だな。私が油断なんかするはずないだろう。そしてこいつは大当たりのようだな。
『水壁』
『消音解除』
「見てたぜぇ。鮮やかなもんじゃねぇの。普通接近戦ってなぁナイフの方が早ぇもんだけどな?」
「なかなかやるだろ。魔法使いってのは発動の速さも武器だからな。それよりドロガー、拷問を頼むわ。頭がおかしくならない程度に痛めつけてやってくれ。」
「ギルドの倉庫で職員を拷問たぁよ。無茶させてくれるぜ……つーわけでグルドよぉ。あんたとはそれなりに長い付き合いだ。俺も無茶ぁしたくねぇ。あんなかわいい奥さんがいるんだしな? 大人しく魔王の魔法を受けとけよ。抵抗するだけ損だぜ?」
「お前、傷裂ともあろう者が……なぜこんなガキに従う……? 闇ギルドを敵にまわして生きている者はいないんだぞ……」
「そんなもん魔王の方が怖ぇからに決まってんだろ。それに魔王と動くとおもしれぇからよぉ。遊びに行こうって誘われてのこのこ行った先でエチゴヤ潰しなんてさせられたんだぜ? やれやれだぜ。」
「エチゴヤを……それがなぜハンダビラを狙う! ハンダビラは数少ないエチゴヤに対抗しうる組織なんだぞ!」
このおっさんまで騙されてやがる。ハンダビラってのはよっぽど演技が上手いのかねぇ。
『解呪』
あらま。意外にも契約魔法がかかってない。てことは正気のくせにハンダビラを信じてるってことね。
「俺がオワダでエチゴヤを潰した話を知らないのか? アラキ島の件は知らなくても仕方ないとしても。今回の件もイカルガのエチゴヤ勢力を潰すためにやってるだけなんだけどな。まずはファベルを一本にまとめてな。」
「そ、それが本当だという証は……」
「だからさぁ。オワダでの出来事知らねーのかって。知らないなら勝手に調べろよ。半年も前の話だぞ?」
どいつもこいつもハンダビラを正義の味方とでも思ってるのかねぇ? そんなわけないじゃん。闇ギルドはしょせん闇ギルドだぞ? あ、蔓喰のヨーコちゃんは別かな。
「ハンダビラは……エチゴヤに対抗するために生まれた闇ギルドだ……あいつらの横暴ぶりは目に余る……だが、背後に天王がいるって噂だけで誰も手が出せない……」
「天王がいなくても青紫烈隊や深紫はやばいだろ。対抗できるのは騎士団かドロガーたちぐらいだろうな。で、何が言いたい?」
まあいくらドロガーとキサダーニでも数で囲まれたらアウトだよな。
「エチゴヤを潰してくれるなら……話してもいい……」
やっとか。
「本当は拐われたローランド人を全員助けたいだけなんだけどな。そのためにはエチゴヤを潰す必要があるだろ。元を断たないと何度も同じことしやがるからな。おまけにローランドの者に手を出した落とし前だって必要だしな。」
「分かった……話すっつおおおおおっおごぉ……」
やっとかかったか。あー疲れた。
「待ってください!」
おや、誰か近付いてるなーと思えば受付の姉ちゃんじゃん。今さら来たってもう遅いけどね。こんな臭くて寒い倉庫に何の用だい?




