602、汚職騎士ルピタ・ウシジス
城門を抜けた後、宿とは違う方向へと向かう。通りを細い方へ細い方へと。
さぁて、誰かついて来るのだろうか? 今のところそんな気配はないが……
うーん、ルート選択が悪かったかな? 完全に住宅街って雰囲気だ。スラムってほど雰囲気が悪くはないが、明らかに貴族街でもない。普通に平民が住むエリアって感じかな。これじゃあ闇ギルドの奴らはおろか、腐れ騎士だって尾行もしにくければ襲撃もしにくいだろうな。仕方ないから帰ろう。
あ……宿の位置が全然分からない……
面倒だが来た道を帰るしかないな。まあいっか。散歩したと思えば。
それにしても、上から見ればフランティア領都より小さいが実際歩いてみるとそれでも広いよなぁ。建物の密集具合からすると領都より人口が多くてもおかしくないかも。
ん……?
「こいつだぁ! 見つけたぜぇ!」
「こいつっすか! ルピタさんを舐めやがった野郎は!」
「おおーっとお! 逃がさねぇーぜぇー?」
先ほどの腐れ騎士とチンピラが数人。私を探していて、ようやく見つけたってところか。なんとまあ……私が引き返さなければ見つけることすらできなかったわけか。なんて無能な騎士なんだ……
「てめぇこの前からえれぇ舐めた真似ぇしてくれたなぁ? どうせてめぇなんざ傷裂がいねぇとなーんにもできねぇ金魚の糞のくせによぉ? おらぁどうした? 呼んでみろよ。ドロガーさん助けてぇーってよ!」
金魚のフン……ここらでは金魚を飼ってる奴がいるのか。ローランドでは見たことがないのに。
『風斬』
「なっ!」
「がっば」
「いぎっ……」
「はぐぁ」
「しゅ……」
チンピラに用はないんだよ。私が来て欲しかったのは腐れ騎士ただ一人。
「てっ! てめぇ! やりやがったな! 俺ら天都イカルガの御用を担う赤兜に逆らってただで済むと『消音』
そして『闇雲』
おまけに『暗視』
くっくっく。何も見えないし何も聴こえないだろ? いくらムラサキメタリックに換装しても暗闇が見えるわけでもないし、音が聴こえるようになるわけでもない。おっと、闇の中をそんなに走り回ると……『氷壁』転んでしまうぜ?
足元に段差を付けるためだけの氷壁。ムラサキメタリックで蹴られると一瞬で砕けてしまうが、相手も転ぶからおあいこだ。
『氷壁』
『重圧』
上から氷の塊をぶち当てた。普通ならペシャンコになって即死だがこいつにはあまりダメージはないだろう。せいぜい衝撃が少し響く程度ところか。
だが、顔を下にしたまま地面にめり込んでしまったなぁ? 苦しいんじゃないかぁ? んん?
『消音解除』
「苦しいか? そろそろ息も限界だろうな。ムラサキメタリックの装備を解除すればいいんじゃないか? ほーれ、集中集中。」
「ふっ……ぶっぐふ……んああああーーー! ふぅーふぅーふぅー……」
「はーいよくできました。」
『浮身』
『氷壁』
ここからはいつも通り。赤い鎧すら纏ってない状態で氷壁に捕らえた。こうなると換装って一気に使いにくくなるんだよな。
「さてと、感覚で分かると思うが今のお前は顔と両手だけが氷から出ている状態だ。お前の命を助ける条件だがたった今、魔力庫にしまったムラサキメタリックの装備を出せ。一分だけ待ってやるからせいぜい魔力を振り絞ることだな。」
「だだ誰だてめぇ! ここここから出しやがれれ!」
「誰って俺以外いねぇよ。そんな都合よくドロガーなんかが来るわけねぇだろ。おっと、ちなみに一分経ったらお前をこの場に放置して帰るからな。すぐに冷たくなるんだろうさ。」
「あぁがががが……ふふふざけんなぁ! 殺す! まままじ殺すからなぁ! ああ赤兜騎士団なめんなぁぁぁぁ!」
「あと三十秒。」
『火矢』
しょぼ。効くわけないだろ。
「この状態で手から魔法を出すなんてなかなかやるじゃん。でもアウト。その右手、没収だな。」
『風斬』
「いぎゃああ……あああれ? いい痛くな……」
「おやおや、あんま痛くないってことはお前もう手遅れなんじゃん? 最後の力を振り絞って外に出ないとそのまま氷漬けだな。ほーれがんばれがんばれ。」
それでも意識がまあまあはっきりしてるところは褒めてやろう。
「そ……そそそんな……」
「ほーらがんばれ。あっとすっこし、ほーれあっとすっこし。ムラサキメタリックを全部出したらこの場で暖かーい風呂に入れてやるぞ?」
体が極限まで冷えた時っていきなり熱い湯に浸けるのはよくないんだっけ? 特に私の氷壁ってかなり低温だもんな。
「ぐっ、くっ……」
おっ、出た出た。無事な左手からムラサキメタリックの装備が続々と。
「剣も出せよ?」
「おっ、ぐうっ……」
よし。見た感じ全部かな。
『氷壁解除』
『水壁』
ほぉーら。水壁ならぬお湯壁だよ。あったかいんだぜ。
「あぁ……おっおおぉぉ……」
この場の命だけは助けてやるさ。後のことは知らんがね。
『火球』
死体もきっちり燃やしてと。
『闇雲解除』
「あぁ……おぉぼぼぼ……どびどぉ……」
おやおや、目が飛んでるね。虚空を見つめてブツブツ言っちゃって。そんなに怖い目に遭ったのかな? あーあ、右手が落ちてる。今なら余裕でくっ付くんだけどなぁ。間に合うといいね。がーんば。
さてと、最後に大仕事だ。
落ちてるムラサキメタリックを一つずつ手にとって……
『収納』
ふー……やっぱこれが一番疲れる……
パーツが多いなぁ……でも全部まとめて収納するよりは一つずつの方がまだ楽だし。
もう少しがんばろ。
それにしても思い通りに腐れ騎士が来てくれて助かった。ムラサキメタリックが欲しかったんだよ。やっぱ切り札は多くないとね。




