597、女たちの選択
「お待たせして申し訳ありません。決まりました……」
決まったか。先ほどの女が代表して言いに来た。隅っこに座って錬魔循環してたもんでね。
「そうか。どうなった?」
「まず、あの十二人はここで自由になりたいそうです……」
約半分か。
「いいぞ。」
「それから残った者はテンモカを希望しております……」
「いいぞ。」
よし。楽園行きの希望者はなしか。面倒がなくてよかったような、少し残念なような。
「最後に私ですが、ローランド王国に行ってみたいです……」
あら……残った者って自分以外にってこと? うーん……面倒だなぁ……まさか選ぶ者がいるとは……
人間ってのは選択肢が二つしかないと、無理矢理選ばされたと思ってしまうそうだし、四つ以上あるとバカな奴らは迷って決められないと聞いたことがある。だから楽園を入れて三択にしたってのに……
まあいいか。リリスも助かるだろ。
「分かった。お前の名前は?」
「シバノ・フシオガミと申します……十五歳です……」
女たちの中で一番歳上ってわけでもないのに、よく代表して話してくれたもんだよな。しっかりしてるわ。逆にここで自由になることを選んだ者は大半が二十歳をすぎてるっぽいな。降って湧いた大金ゲットでウハウハだね。
「俺はカース・マーティン。ローランド人だ。もう少し詳しく説明しておくぞ。行き先なんだが……」
しっかり説明したぞ。楽園は魔境のど真ん中なんだからさ。私って親切だなぁ。
「……というわけだ。それでも行くか?」
「はい……無理に娼婦をやらなくていいというところも魅力的に思えましたので……」
その分稼ぎは悪くなりそうだけどね。具体的にどうかは知らない。リリスが判断するだろう。
「そう思うならそれでいい。ローランド行きはしばらく後になると思うから、それまではのんびりしてな。」
「の、のんびりですか……」
こいつはそれでいいとして、他の女だよ……とりあえずテンモカに連れて行くか。いや、でもその前にシバノを安全な場所に連れて行って……
あー! 無理! やめやめ! 一つずつ片付けよう。
「そっちのお前ら! 並べ! 金を渡すから。受け取った者から好きにしていいぞ。」
おお、今までで一番俊敏な動きを見せたではないか。
「一応言っておくが、ファベルを出るまでは全員で行動した方がいいと思うぞ。それから武器になるような物を拾っておきな。」
比較的まともな武器は私が全て没収したが、この建物内を探せばまだまだいくらでも出てくるだろう。
あ、だめだこりゃ。誰も話を聞いてない。喜び勇んで外に出ていっちゃってるよ。さすがにもう面倒は見切れないぞ。
「よし、それじゃあ今からテンモカに行くぞ。とりあえず建物の外に出ようか。」
「い、今からですか?」
さすがのこいつも理解が追いついてないな? まあ着けば分かるだろう。
外にはもう誰もいなかった。さっきエチゴヤの下っ端どもがぞろぞろと出たもんで他の奴らは逃げたんだろうな。
『氷壁』
「これに乗りな。」
「は、はい……さっ、みんなも……」
理解が追いついてなくても率先してまとめてくれるのは助かるね。いい子だ。
よし、乗ったな。
『風壁』
『隠形』
『浮身』
えーっと……太陽があっちだから……テンモカは……だいたいあっちか。羅針盤がないと不便でいけないな……
「こ、これは……まさかテンモカまで飛んで行くのですか……?」
「その通り。別に心配しなくても途中で落ちたりしないさ。一時間もすれば着くから、のんびり景色でも見てな。」
「えっ、は、はぁ……」
誰一人として暴れないのは助かるね。事前に説明してないのに。お互いに顔を見つめ合ってざわざわしているだけ。それにしても、自由に生きられるのに生きられないってのは悲しいもんだな。たぶん帰っても仕事がないんだろうな……だから口減らしの意味もあって売られたってところか。
今思えば、オワダからカゲキョー洞窟に行く間で立ち寄った村でも自分で身売りした女とかいたもんな。どうせ売られるなら少しでも条件のいいうちに売ってしまった方がいいとでも考えたんだろうか。だからってあの決断の早さは見事だったよな。女衒が来た翌日には決断してたんだからさ。
「あの……魔王様……質問してもいいですか……?」
「ああ、いいよ。あれ? 俺魔王って言ったっけ?」
言ってないよな?
「迷宮を踏破されたことは聞こえました……ローランドの魔王って……で、カース様はローランドの方と言われてましたので、もしかしてって思ったもので……」
だからってよくそこが結びついたな。まあ別に間違えても誰も困らないから呼んでみただけってとこか?
「その通り。よく分かったな。それで質問とは?」
「いえ、質問というかお願いというか……この子たちのこと……どうか、どうかいいところに連れていってあげて欲しいんです……故郷を追われた私たちなんです。だからせめて、少しでもまともに生きられるように……」
「約束はできないが蔓喰の奴によく言い聞かせることはできる。確かに蔓喰にも外道はいるが、エチゴヤに比べたらかなりマシさ。安心しておくといい。」
ゴッゾなんか弱った女で遊ぶのが好きって奴だったもんな。外道だわ。
「ありがとうございます……そ、その、お礼になるかどうか……分からないですけど……私のことは、そ、その、魔王様の、お好きなように……何でもしますから……」
「悪いな。間に合ってる。俺にはローランド王国一の美女がいるんだよ。だから気にするな。俺は俺の事情があってやってることだしな。礼なんかいらないさ。」
だいたいこの後で楽園に行くんだからさ。そこで働くってことは私のために金を稼いでくれるってことなんだからさ。
「し、失礼しました! 私なんかが……出過ぎたことを……ごめんなさい!」
「いいっていいって。お前みたいに他人のために体を張れる女はきっと幸せになれるさ。でもたまには自分のことも考えるんだぞ?」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
おー、今度は素直だな。まだ十五歳なんだからそこまで全員の面倒見ようとしなくたっていいさ。
おっ、見えた見えた。だいたい一ヶ月ぶりぐらいかな。少しだけ懐かしきテンモカ。アラキ島の件はどうなったんだろうなぁ……




