591、ジノガミのマダラ
子供に連れられてスラム内をてくてく歩く。さすがにこうやって道案内がついてると誰も襲ってこないんだな。意外な仁義でもあるんだろうか。
「兄ちゃんここまでだよ! ここから先はまじで危険なんだから! 本当に行くのかい?」
「ああ。ありがとよ。じゃあな。」
一万ナラーを渡す。スラムでは下手に金を持ったせいで早死にするパターンもあるらしいが、やはり私の知ったことではない。
「この道をまっすぐ行ったら黒い建物があるから! そこにマダラさんがいるはずだよ!」
「ああ。大事に使えよ。」
子供と別れて細く汚い道を進む。裏路地か。人一人とすれ違うのにも苦労しそうだ。こんな道にまでゴミが散乱してやがる。
「おーっとぉ見ぃーたぜー?」
「ひっひっひ、どこのお貴族様かぁ知んねぇがよぉー?」
「この辺歩くときゃあ俺らに挨拶がいるぜぇー?」
狭い道を抜けたら早速絡まれた。何を見たんだろう?
『風球』
さすがにもう相手にするのも面倒だからな。問答無用ってやつだな。
おっと『風球』
時間差で現れやがった。芸が細かいのか、それとも単に別口なのか。
結局マダラとやらの黒い建物に着くまでに同じことが四回あった。スラムあるあるだよなぁ。
うーん、黒い建物っていうか……これ焼け焦げてない? 幸いなのか珍しく石造りなせいで住むのには問題なさそうだが。
扉は……問題なく開くね。建て付けは悪くない。中には数人の人相の悪い男たち。服装も汚らしいな。外も臭けりゃ中も臭いな。ドロガーは来なくて正解か?
「なんじゃあてめぇあ?」
「こんにちは。マダラはいるかい?」
「てんめぇー! 誰の名ぁ呼び捨てにしてやがる!」
「仕掛屋にしちゃあおかしいぜぇ? どこのガキだぁ?」
「とりあえずてめー誰よ? 名前ぐれぇ名乗れや?」
おお……正論を言われてしまった……
だがそれなら私だってこんにちはって言ったんだから、こいつらだってこんにちはって言えよな。
「俺はカース・マーティン。ローランドの魔王って言えば通じるか?」
シューホーの神が他の神経由でアナウンスしたはずなんだからさ。
「ぷっ、ぷぷっ! うひゃひゃひゃひゃーー!」
「ひぃーひっひっひ! まじかよこいつ! 魔王だってよぉーー! ひぃーひひひ!」
「ごふっ!ぶふっ、ふふふっ、てめーさては正気じゃねぇな? あっ、分かった! 薬が切れたから買いにきたんだろ! だーめだぜぇ? 粗悪品なんかやってたらよぉ? うちのお薬は純白混じりっ気なしの極上モンよぉ。一つまみでたったの一万ナラー! 今ならひと嗅ぎサービスキャンペーン中だぜ?」
一つまみ一万ナラーってめちゃくちゃ安いじゃん。どこが極上モンだよ。まあ、こんなところに住んでる奴らだもんなぁ。
つーか、笑われてしまった。別にいいけど。
『水壁』
三人のうち二人は頭まで閉じ込めて、一人だけは頭を出しておく。
「お前らってエチゴヤと関係あるんだろ? マダラはエチゴヤの幹部だったりするのか?」
「て、てめぇ……」
「話してくれないなら他の二人が死ぬぞ。溺死って苦しいらしいな。お前らって溺死させるのは得意そうだけどさ。」
「なっ……なめんじゃねぇ!」
「効くかよバカ。」
珍しい。口から火の魔法を撃ってきやがった。魔法の名前も言わずに撃つなんてマナー違反だぜ?
「なっ!? ど、どうやって……」
「俺としては揉める気はないぞ。ただ話が聞きたいだけなんだけどなぁ。いいのかなー? そろそろ死ぬんじゃね?」
水壁の中でもがいてる男が二人。お前らの魔力や装備では私の水壁は破れまい。
「分かった……何を話せばいい……」
意外と素直だな。闇ギルドらしくもない。
「じゃあ約束な。俺の質問に正直に答えてくれたらお前ら三人を助けてやるよ。いいな?」
「わ……わかったっとぁねゅね!? い、今のは……」
「知ってるだろ? 毎度お馴染み契約魔法だよ。お前らにとっては馴染み深いと思うがなぁ。」
『水壁一部解除』
「ぜはっ! ぐっはぁはぁーはぁーはぁー……」
「がぶぁはぁ! はぁーふぅーふぅー……」
「では質問。マダラはこのスラム、えーっとファベルって言ったか。ここのボスなんだな?」
「ち、違う……確かにマダラさんは俺らのボスだけど……ファベルを仕切るまでには至ってねぇ……」
いきなり話が違うじゃん。まあ、子供の言うことだしな。
「エチゴヤとの関係は?」
「ねぇ……むしろ敵対してる……」
あれ? なんだよエチゴヤさぁ。こんなスラムも仕切れないのかよぉー。だめな奴らだなぁ。
「ファベルの状況や力関係を教えてくれ。だいたいでいい。」
「あ、ああ……」
ふむふむ。
ファベルには三つの闇ギルドがあるのね。
こいつらの組織『ジノガミ』と日和見組織『ハンダビラ』。そしてエチゴヤか。
勢力はエチゴヤが八に対してジノガミとハンダビラが一と一、風前の灯じゃん。よく今まで生きてこれたな。
あーなるほど。エチゴヤにもこいつらを潰さない理由があるのね。どうでもいいけど。
しかしファベルにエチゴヤの幹部なんかは住んでないと。ここにいるのは下をまとめる程度の奴だけなのね。なんだよ、やっぱ天都の中にいるんじゃん。どうせそんなことだろうと思ったけどさ。
「じゃあエチゴヤの場所ぐらい分かるんだろ? 案内しろや。」
「そ、それは……」
「断れる立場だとでも思ってんのか?」
「い、いや、なっ!? 誰だてめぇら!」
ん? いきなり扉が吹っ飛んだぞ。今は私が尋問してるんだから邪魔しないで欲しいなぁ。
「見ぃーたぜー! てめぇやっぱジノガミのモンだったんかよぉ!」
「ぎゃははぁ! ウチであんだけ暴れてただで済むなんざ思ってっだらねぇよなぁ? おお?」
「せーっかくジノガミは生かしておいてやったのによぉ? よけーなコト考えるからよぉ? あーあー」
エチゼンヤの奴らか。つけて来たのか、それともスパイでもいるのか。それにしても、この状況で私がこいつらの仲間に見えるとは……どんな目と頭をしてるんだろうなぁ。見たいものしか見えないってやつだな。
『風斬』
「かひゅ……」
「はっひょ……」
「ひらっぼ……」
首を刎ねた。即死だ。そして嫌々ながら収納っと。後で捨てよう。
「さて、話の続きをしようか。ちなみに今の奴らはエチゼンヤの者だな。さっき寄ったもんでな。」
「なっ……エチゼンヤにまで……」
「お前らがエチゴヤと敵対してるってんなら生かしておいてやってもいい。エチゴヤは皆殺しって決めてるけどな。」
エチゴヤが仕出かしたことを思えば誰だってこうするよな。あいつらは外道すぎる。
「なんだぁこの騒ぎはぁ!」
また新たな乱入者か? 話が進まないぜ……
「おかえりなさいやし!」
「おす!」
「おっす!」
なるほど。ボスか。
「てめぇらなぁに呑気に水風呂入ってやがる? こいつぁ何モンだぁ?」
「お前がマダラだな。俺はカース・マーティン。ローランドの魔王って言えば分かるか?」
分からないって言ったら殺そう。
「傷裂と一緒に迷宮を踏破したとかって野郎かぁ? それがてめぇって言うんか、おお?」
「ああ。ちなみにそこに少し付いてる血はエチゼンヤの奴らのな。」
首を刎ねて少ししか血が吹き出ないなんて、さすが私。その気になれば乾燥の魔法だって同時に使って全く血が出ないようにもできるんだぜ?
「その魔王がウチなんぞに何の用だってんだ、あぁ?」
やれやれ。これでようやく話が進みそうだ。
「なぁに、大した用じゃない。お前らが儲かる話さ。」
さて、どうなることかな?




