573、露出事案
やって来たのはギルド。
どうせドロガーが昼間っから飲んでるはずだからな。
「ニンちゃんここ何ぃー?」
「酒を飲むところだな。たぶんドロガーもいるぞ。悲しい時には酒を飲むのが一番だからな。」
「ニンちゃんも飲むのぉー?」
「一杯だけな。」
なんせカムイの早くブラシを買えオーラがすごいからさ。
「ゲヒャヒャヒャヒャぁー! おらぁてめぇーらも飲め飲めぇー! 俺の奢りだかんよぉー! お? まおーじゃねぇか! 来たんか! 飲め飲っ、クロミ!? クロミぃー来てくれたんか! こっち、ここ座れ! なっ! 座れ早く座れここ!」
入ってみるといきなりご機嫌なドロガー発見。ギルドの酒場は大盛り上がりだ。テンポはステージで何やら歌ってるし。誰も伴奏しないのかよ。
「ほらクロミ、そっちに座れよ。」
「もぉーニンちゃんのバカぁ!」
でも座るくせに。
「てめぇらぁ! この女こそシューホー大魔洞で何度も俺らの命ぃ救ってくれた大魔法使いクロノミーネハドルライツェンだぁ! さすがに魔王にゃあ敵わねぇが天道魔導士どもじゃあ相手にならねぇぐれぇやべぇ魔法使いなんだぜぇ!」
マジかよドロガー! クロミの本名ちゃんと覚えてるのかよ! 私の知る限り一回しか名乗ってないはずなのに。すごいな。
それより天道魔導士って何だ? ローランド王国で言うところの宮廷魔導士かな?
「ほう? お前がそこまで言うほどか。」
おっ、キサダーニもいるし。
私も一杯だけ飲もう。昨日飲んだやつ、えーっとマゾエ村の酒でスゴウ・ゼミョウって言ったかな。琥珀色の味わい深い酒なんだよなぁ。甘いものを飲み食いした後に強い酒、悪くないね。
ぷふぅー。よし、帰ろう。
「あんだぁ魔王ぉ? もぉ帰るってのかぁ?」
「ああ、悪いな。その代わりクロミを連れてきてやっただろ?」
「おう、あんがとよ!」
「いつまでイカルガに居るんだ?」
キサダーニはそこまで酔ってないようだ。ドロガーより遅く飲み始めたからかな。
「だいたい一週間ぐらいだな。それ以降は用事が済み次第ってとこかな。」
「そうかよ。次はじっくり飲みたいもんだな。」
「ああ、またな。」
「えー? ニンちゃんもう帰るのぉー? やだやだぁー!」
「ドロガーがいるだろ。」
「そうだぜクロミぃ! 楽しく飲もうぜなぁ! ほれほれ! 黒く美しい肌に乾杯だぁー!」
「えっ、えっ!? ウチ黒い? 本当に本当に!?」
「当たり前だろぉ! 今まで見たことねーぐれぇ黒くて美しいぜぇ!」
「えへへへへぇー! ウチも飲むしぃー!」
黒いと言われると喜ぶのがダークエルフあるある、ドロガーもすっかり覚えたようだな。それとも本心からそう思ってるのかな?
まあ私から見ても黒真珠のように美しい肌だとは思うけどね。
よし、カムイ待たせたな。帰ろうぜ。
「ガウガウ」
ん?
「何か用か?」
ギルドを出たところで三人組に囲まれた。さっき甘味屋の前で絡んできた奴らじゃん。
「いよぉー。聞いたぜてめぇ? ドロガーさんに金払って迷宮に連れてってもらったらしいじゃねぇかよ?」
「それでよくでけぇツラぁできたもんだよなぁ? おぉ?」
「どうやってキサダーニさんを騙したんかは知んねぇけどよ? 俺らまで騙せっと思ってんじゃねぇぞ?」
あらら。キサダーニのおかげでせっかく無傷で終わったのに。わざわざ絡んできやがるとは。一応キサダーニの目を気にして私がギルドから出るまで待ってたのか。
仕方ないな。それなら訓練場で適当に金でも賭けて……「ガウガウ」
あぁ分かってるって。さっさとしろってんだろ。
『麻痺』
『風斬』
『点火』
体には一切傷を付けていない。下半身の装備のみを切り刻み、燃やしてやった。もちろん火傷すら負わせていない。我ながら完璧な魔法制御だぜ。
ギルド入口に下半身を露出した汚い野郎どもが立っている。麻痺のせいと偶然にも三人が互いに支えあってしまったせいで倒れることもできないようだ。そのまま道ゆく人の目を楽しませてやるといい。私は見たくないけど。
だからこいつらが今どんな顔をしているのか全然分からない。声が出せない代わりに魔法が飛んでくるが、全然当たらない。下手くそめ。そうとう動転しているようだな。
でもいいのかぁ? 街の中でそんなに魔法をバンバン使ってさぁ? 私は知らないぞ?
ぷぷっ、ギルドの前で下半身を露出して魔法を無差別に撃ちまくっている汚い男三人組。クタナツなら奴隷落ち案件じゃないか?
さ、帰ろうぜカムイ。今度こそブラシを買いに行こうな。
「ガウ」
宿に戻って客室係に聞いたらあっさり解決した。店まで案内してもらい、カムイに感触を確かめながら三つほど選んだ。
チャージボアと呼ばれる猪の毛を使った高級ブラシと毎度お馴染みT字のスリッカーブラシ。そして私たち人間が使うような、いわゆるコームと呼ばれるタイプ。まったく、カムイはオシャレさんなんだから。
まずスリッカーブラシで大まかに毛を梳いて、次に高級ブラシで仕上げ。
それで充分きれいな毛並みなのに、さらにコームで向きを微調整しろときたもんだ。こいつ完全に野生の誇りを忘れてやがるな。
さあカムイ。宿に帰ったらしっかり手洗いしてからブラシをかけてやるからな。お前も迷宮では大活躍してくれたんだからさ。
「ガウガウ」




