570、甘味屋シュガーベイビー
うーん……腹いっぱいだ。見た目が違う屋台の料理はほとんど食べてしまったもんで。カエルやイモリっぽいやつの丸焼きまであったし。私はこの際だからと嫌々ながら食べたのだが、カムイもクロミも普通に食べてた。カエルっぽい方がおいしかったそうだ。そりゃあ確かに私もそう思うけどさぁ……
「ニンちゃーん、どこかで休もうよぉー!」
「そうだな。そうしよう。」
腹が膨れると眠たくなるんだよな。でもアレク以外の膝枕で寝る気はないぞ?
とりあえず適当な店でお茶か何か飲みたいところだな。食ってばかりだったしね。
とりあえずお茶が飲めそうな店は……あれなんかどうだろう。甘味屋シュガーベイビー。甘そうな店名だなぁ。まあいいや、入ってみよう。
「いらっしゃいましー!」
おお、元気な女の子だ。
「二人と一匹だけど大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ! どうぞこちらにー!」
うーむ、やっぱ店内には女の子が多いなぁ。しかも気のせいか、何だか派手な子ばっかり。
「こちらにどうぞー!」
おお、個室か。ありがたいね。
「ありがとう。これ、とっておいて。」
「まあ! お兄さんたら太っ腹! ありがたくいただきますね!」
いい扱いをされると嬉しくなりチップを弾む。あるあるだな。あれ? テンモカでも同じようなことがなかったっけ?
「おすすめの飲み物を三つ、甘いものも適当に三つ頼むよ。」
「はーい! かしこまりましたー!」
初めて入る店なんだから適当にお任せしておくのが無難ってもんだ。
「ねーニンちゃーん。この店ってやたらいい匂いがするよねー。なんて言うかさー。山の中だとそうそう感じることないようなさー。」
「分からんでもないな。なかなか甘い匂いってないもんな。あ、でもフェアウェル村なら近くに蟠桃があるじゃん。あの甘味は強烈だよな。」
「無理無理ー。あそこってカカザンってヤバい猿がいるらしいしー。ニンちゃんや狼殿ぐらいでないと超危ないしー。」
「それもそうか。でも探せばまだまだ甘いのっていくらでもありそうだよな。山岳地帯って超広いし。」
それこそローランド王国より広いんだから。
「そーねー。ウチらもソンブレア村から半日ぐらい離れたところに 甜甘瓜ってのが生ってたしー。」
「へー。どんなの?」
「うーんとねー。実は木から垂れててー、楕円形でー、縞々模様があるよ。で、瑞々しくてすっごく甘いんだー。あーあ、また食べたいなー。」
へー、ウリとかメロンみたいな感じかな? 気になるな。
「で、それはどんな危険な魔物の縄張りなんだ?」
甘味が好きなのは人間もエルフも、そして魔物も同じだからな。よほど強力な魔物の縄張りでもない限り、たちまち食い荒らされてまともに育つはずもないよな。
「食虫植物って言うのー? そこらの森全体がそうなっててー。甜甘瓜だけじゃなく色々と甘い実が生ってるんだけどー。実を捥いだら辺りの木が一斉に襲ってくるんだよねー。トレントとかもいるしー。で、捕まったら栄養にされちゃうしー。半分生かしたまま寿命で死ぬまで魔力を吸い続けられる感じ? だから結構グロいしー。色ぉーんな魔物が木みたいになっててさー。時々キモい声で鳴いたりもするんだよねー。」
うわぁ……そんな実かよ……
キモっ、行くのやめようかな。
「ダークエルフは大丈夫なのか?」
「ウチらはそんなヘマしないしー。あ、でもー、たまーに若いダークエルフも取り込まれちゃったりするんだー。数時間以内なら助かりもするんだけど、助けるのが遅かったらもう体中びっしりと根を張られちゃってさー。どうにもならないよねー。だから殺してあげてるよー。」
殺してあげてる……ま、まあ、確かに善行だよな……
うーん、エルフもダークエルフもやっぱ危険な環境で暮らしてるだけあるよなぁ。覚悟が違うね。フェアウェル村の村長も、自分たちの仲間に弱者も愚者もいらんって言ってたしなぁ。
「お待たせしましたぁー!」
おっ、来た来た。
「タピオカミルク紅茶とタピオカミルク抹茶とタピオカ蜂蜜茶でーす!」
へぇー。タピオカがあるんだ。意外だな。現代日本だと私が生まれる前に流行ったと聞いたことがある。飲んだことがないんだよな。
「えー? なにこれぇー! ソリチュードポイズンフログの卵みたいだしー!」
「そうなの? ソリチュードポイズンフログは知ってるが卵までは見たことないな。とりあえず飲んでみたらどうだ? きっと旨いぞ。」
私はタピオカミルク抹茶にしようかな。
カムイはタピオカ蜂蜜茶にしたのか。グラスごと口に咥えて一気に流し込みやがった……器用だけど風情がないなー。ストローが付いてるってのにな。このストローは何かの茎みたいだな。タピオカを吸い込むのにちょうどいい太さじゃん。
「あっ、おいしーし! へー、これ芋じゃん。芋には味がないくせにー、甘い飲み物と一緒に飲ませるなんておっもしろーい! 人間ってやるんじゃんねー!」
普段は人間ごときとか言ってるくせに。
「お待たせしましたー! 柿餅と桜餅と蜂蜜餅でーす!」
おお、餅攻めかよ。でもどれも美味しそうだな。まずは柿餅からいってみようかな。
おっ、ほんのり甘いな。よく熟れた柿の甘さと餅の食感が一体となっている。タピオカミルク抹茶との相性も悪くないな。
「ガウガウ」
甘すぎるって? この贅沢もんが。
「うーん、すっごい美味しーし! 人間ってすごいんだねー!」
すっかり手のひら返しやがった。つーか、甘味ならローランドだって負けてないんだならな。あ、でも種類では負けてる気もするなぁ。あっちは砂糖が手に入りにくいからな。果実の甘味か蜂蜜がメインだもんな。
それにしてもさっき屋台でたらふく食べたと思ったけど、やっぱ甘い物は別腹なんだなぁ。今度こそ本当に腹がぱんぱんだわ。
「よし、それじゃあ行こうか。」
カムイのブラシを探しに。
「ガウガウ」
「えー? もう出るのぉー?」
これ以上ここにいたら寝てしまいそうだからな。
「ありがとうございまーす! お会計四万三千ナラーです!」
テンモカの時より高い気がするな。ちらっと見たギルドの定食が五、六百ナラーだったことを考えると、やっぱ甘味って贅沢品なんだろうなぁ。どこでも同じか。はぁーうまかった。今度アレクも連れてこよっと。
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