569、クロノミーネとのデート
『公妾/maîtresses royales』を書かれております『水上栞』さんより31件目のレビューをいただきました。
ありがとうございます!
帰りも馬車で送るという話だったので乗り込もうとすると、やけに牛が暴れるものだから歩くことにした。思えば来る時もやたら早かったよな。あ、なるほど。牛の視線で分かったぞ。カムイのせいか。そういや来る時はカムイが後ろから歩いてたんだもんな。だから牛は恐れてペースが上がったってわけか。体重だと自分の一割にも満たないカムイを正しく恐れることができるとは、やるなぁ牛くん。
「ニーンちゃん! デートする約束だし! 早く行こーう!」
そうだった。仕方ないか……クロミにも迷宮ではかなり世話になったしな。福利厚生ってことで。
「いいわよカース。たまにはクロミにもいい思いをさせてあげて。私はアーニャを連れて宿に帰ってるから。」
アレクがそう言うなら……
「分かった。夕方には戻るからね。」
むしろもっと早く戻りたいんだけどね。
「ガウガウ」
分かってるって。ブラシだろ? お前も来るよな。本当はカムイにはアレクの護衛をして欲しいんだけどなぁ……
「ピュイピュイ」
おおコーちゃん! アレクを頼めるかい?
「ピュイピュイ」
ありがとうコーちゃん。頼んだよ。
「うふふ、コーちゃんたら。私と一緒に宿に帰るのね?」
私の首を離れ、アレクの首へと巻き付いた。
「ドロガーとテンポはギルドに行くのか?」
「おうよ。今日こそはとことん飲むからよぉ! そうだろぉ!?」
「ああ……」
ならばデートの仕上げはギルドに寄るとしよう。そしてクロミをドロガーに引き継げばいい。
「悪いがその前にアレクたちを宿まで送ってくれよ。お前らが一緒だったら変な虫も寄ってこないだろ。」
「あーいいぜ。ったくおめぇも心配性だぜなぁ? まー無理もねぇけどよぉ。」
当たり前だ。アレクは太陽。光に集まらない虫などいないのだから。虫か……グリードグラス草原でオディ兄の腕を探した時のことを思い出しちゃうね。夜の草原ってめちゃくちゃ大量の虫がいるんだもんなぁ……
幸い楽園内にはほとんどいないけど、一歩ノワールフォレストの森なんかに立ち入ったらこれまたわらわらといるんだよなぁ。自動防御がなかったらとても歩いてなんかいられないね。
「じゃ金ちゃんごめんねー。ニンちゃん貸してねー?」
「いいわよ。楽しんでらっしゃい。」
微塵も動じないアレク。さすがだね。
「じゃあニンちゃんどこ行こっかー?」
野暮ったいローブ姿のまま私の腕に抱きついてきたクロミ。お洒落な私と妙な組み合わせになるなぁ。
「ガウガウ」
「まずはカムイのブラシ探しからだな。じゃあアレク、後でね。悪いけどアーニャを頼むね。」
「ええ。こっちは気にしないで。カースも楽しんできてね。」
なるほど。クロミの世話と考えずに私も楽しんでこいと。一理あるね。よし、なるたけ楽しもう!
騎士団本部を出てアレクたちと別方向に向かった私たち。どこに何があるかなんてさっぱり分からないが、まずは適当に歩いてみよう。
「あー! ニンちゃんあれ何ぃー!?」
「何だろうな。食べてみれば分かるかな。」
屋台がたくさん並んでるエリアを通りかかった。
「三本もらおうか。」
「へい毎度ぉー! 三本で三百万ナラーでさぁ!」
「ほらよ。」
「へいっ、千ナラーのお預かり……って! ええええええーーーー!? こ、これ、一千万ナラー大判!? ちょ、ちょっと待ってくだせぇやお客さん!」
さっき赤兜からゲットしたのは十万ナラー金貨で百枚。今屋台の親父に渡したのは薬屋でゲットした一千万ナラー大判だ。なんか前にも似たようなことがあったよなぁ。これはヒイズルジョークなんだろうか。
「三百万ナラーって言うからさ。ほら、これならいいだろ?」
「へ、へい、三百ナラーのお預かりで……」
まったく。冗談に冗談で返しただけなのに。さーて、これは何の肉かなー。あえて質問しなかったんだよな。
少し硬いな……でもこの歯応えは悪くない。味は……うーん、タレでごまかしてるけどあんまり旨くないなぁ……
でも全部食べるけどね。
「ニンちゃんこれまずーい。」
「でも食べろよ?」
「分かってるしー。」
「ガウガウ」
カムイも文句を言いながら全部食べた。うーん、屋台の串焼き肉ってのは安くて旨いのが定番なんだけどなぁ。
「親父、こいつは何の肉なんだ?」
「こいつぁナラー鹿でさぁ。そこいらの山にわんさといる鹿でねぇ。悪ぃけど味の当たり外れが激しい鹿なんでさぁ」
ナラー鹿?
「ヒイズルの貨幣単位ってナラーだよな。その鹿と何か関係あるのか?」
「おっ? お客さんさては外国の方ですかい? こいつぁですね。その昔、まだヒイズルが東西に分かれて争ってた頃よりもっと昔のことでさぁ。この国にぁとにかく鹿が多かったそうなんでぇ。その中でも一番多かったのがナラー鹿なんでさぁ。なもんで、そのナラー鹿の肉や角や皮で物々交換するのが当たり前だったみてぇなんでさぁ。そんでフルカワ王家が東を仕切るようになった頃から金の単位がナラーになったってわけでさぁ」
へー。鹿の名前が金の単位になったのか。おもしろ。ならばローランド王国ではなぜ貨幣単位が『イェン』なんだ? 帰ったら調べてみようかな。たぶん忘れてるだろうけど。むしろ後でアレクに聞けば普通に知ってそうだよな。
「ありがとよ。当たり外れは食べてみるまで分からないのか?」
「そうなんでさぁ。あっしらにしても見た目で区別が全然つかねぇんでさぁ。なもんで新年の最初にナラー鹿の当たりを食べたもんは無病息災だなんて言われたりもしてまさぁね」
へー。ヒイズルの鹿ってそうなんだ。
ローランドだと野生動物っていうか魔物の鹿は旨いんだよな。ギャングエルクとかさ。カスカジーニ山でよく見る印象だよな。
とりあえず屋台を片っ端から食べ歩きしてみようかな。たこ焼きっぽいものやイカ焼きみたいなのもあることだし。カムイもクロミも異国の食べ物に興味津々だしね。もちろん私も。
公妾/maîtresses royales
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