562、薬屋からの帰り道
エチゴヤとエチゼンヤ。似たような名前しやがって。
「私も詳しいことは存じません。ただ、聞くところによるとエチゼンヤは表、エチゴヤは裏を担っているとか。しかしその表裏は一体だとか……」
まあどうせそんなところだろうな。
「分かった。表って言うからにはエチゼンヤ商会は普通に店を構えてるんだよな。場所は分かるな?」
「え、ええ。もちろん分かりますが……」
「そのうち案内を頼むだろうよ。」
「あ、か、かしこまりました……」
客室係も大変だね。
さあ、こんなところで帰ろうか。コーちゃんも早く帰って酒が飲みたいと言っているし。
「ピュイピュイ」
あら、そうなの? もー、コーちゃんたら鋭い嗅覚だね。
「なあ店主。気持ちよくなるお薬もあるよな。一番の上物をくれよ。うちの蛇ちゃんが欲しがってるもんでな。」
「あるよ。薬屋だからね。さすがに南の大陸産には敵わないとは思うけど。一番の上物と言えばこれかな。『極楽舞夢』だよ。」
「ピュイピュイ」
匂いは期待できるって?
「じゃあそれで。とりあえず二百万ナラー分ほどもらえるか?」
「はいこれ。若いうちから薬を嗜むのも悪くないけど、ほどほどにね。」
私じゃねーよ。うちの蛇ちゃんがって言っただろうが。
へー、そこそこ量があるのね。これならコーちゃんも満足してくれるかな。帰ったらお酒と一緒に楽しもうね。
「ピュイピュイ」
「まいど。また来てね。」
「ああ、幸い金ができたからな。さっき買ったポーションがなくなる前にまた来るよ。」
いやーラッキーだったよな。使った金がぐるっと回って私に帰ってきたんだから。ちなみにこの場合って店主はエチゼンヤに金を返してないことになるんだろうか? ならないだろうな。だって店主の手元には借用書が戻ってるもんな。あいつらが死んだのは店を出た後、そこで不幸な出来事が起こっただけの話だし。エチゼンヤは薬屋に何かするかも知れないが、それまでエチゼンヤが生きながらえることができるかな? 怪しいものだ。
客室係に連れられて宿へ帰る道中。
「私は小さい頃あの辺りに住んでおりまして、マキさんの両親のこともよく存じております。昔からエチゼンヤのやり口には憤りを感じております……私だけではないと思います……」
先を歩きながら、半ば独り言のように呟きやがった。悔しさが滲んでるな。
「どうせエチゴヤもエチゼンヤも長くないけどな。」
「お、お客様はいったいどのようなお方なので?」
越後のちりめん問屋の隠居……ぷぷっ、エチゴヤだけに?
「ただのローランドから来た六等星冒険者さ。」
「カースは魔王と呼ばれるほどの男よ。ローランド王国では国王陛下にも御目見なんだから。王国一の男なのよ。」
なんだかアレクの言いようがエリザベス姉上みたい。姉上はしょっちゅうウリエン兄上のことを王国一だって言ってたよなぁ。
「ま、魔王、ですか……!? はっ! もしやあの……迷宮を踏破された!?」
おっ、さすがに客室係は神のアナウンスを聞いていたのかな?
「それにオワダではエチゴヤを皆殺しにしたわ。その情報は届いてないのかしら?」
「い、いえ、聞いたことがあります……夏ごろ、何者かによってオワダに巣食っていたエチゴヤが幹部ごと壊滅させられたとの噂を……まさか本当に……」
あー……あの時はまだ夏だったか。ヒイズルに来たばかりの頃か。なんだか懐かしいなぁ。
「カースの仕業よ。ついでにドロガーが迷宮を攻略したのもほぼカースのおかげね。」
「なっ……あの傷裂ドロガーさんの偉業が!? そ、それは本当なのですか!? 言われてみれば聞こえたような……」
「興味があったらドロガーに聞いてみるといいわよ。今ならまだギルドで飲んでるはずだし。」
そのうち宿にも帰ってくるだろうしね。
「さ、さようでございますか……」
「ローランド王国はおろかヒイズルの西側で魔王カースの名前を知らなければモグリね。」
アレクったら。私の情報バラしまくりかよ。本当に姉上に似てきたんだろうか。兄上の話をすればするほど饒舌に、ご機嫌になる姉上のように。
まいっか。アレクがご機嫌なら私もご機嫌なのさ。
さて、宿に着いた。
さすがに腹がへってるんだよね。さっきの料理は旨そうだったし。さーて飲むぞ食うぞ。
その後はアレクと……むふふ。




