544、コーネリアス復活の可否
『望みを言え』
「悪食の餌食となった大地の精霊コーネリアスを元通りにして欲しいわ。愛らしい、元のままのコーちゃんを返して!」
『あれは悪食などと言う名ではないが、まあいいだろう。容易いことだ』
なんだと!? 容易いだと!?
「待って! ただの大地の精霊じゃないわ! 私たちの友達! ローランド王国においてフォーチュンスネイクとも呼ばれる! そんなコーネリアスことコーちゃんでないと!」
『容易いと言ったはずだ。望みは叶えた。我が迷宮の入口で会えるだろう。次だ』
叶えただと!? コーちゃんがいるのか!? この迷宮の入口に!? 疑わしいが、出れば分かることか……もしいなかったらこの迷宮マジでぶち壊してやろう。
「じゃあウチいい?」
「おうよ。先に行け行け。」
ドロガーはまだ願いが決まってないだけじゃないのか?
「お初にお目にかかります。私、今はなきソンブレア村のダークエルフ、クロノミーネハドルライツェンと申します。」
『うむ。望みを言うがよい』
だ、誰だこいつ……本当にクロミなのか!? 地面に片膝ついて、祈りのポーズまで……
「では、恐れながら……先ほどの人間、アーニャに祝福をお与えください。願わくば健康に過ごせるよう……」
おお……クロミまじかよ……
なんて事を……こいつこそ女神か!?
『容易いことだ。そしてクロノミーネハドルライツェンよ。自分のためでなく人のために祈れるそなたの心、褒めてつかわす。これは我の気持ちだ。受けとれ』
「ありがとうございます。この御恩は忘れません。」
何だ? 飲み薬か? あ……まさかさっき神にくれてやった万能薬じゃねーか!? 舐めてんのかこの神は!?
『次だ』
「赤兜ぉ、先に行けや。」
「ああ……」
『望みを言え』
「魔力を高くして欲しい……」
『どの程度か』
「可能な限り……」
『対価を示せ』
あー、そういえばアレクの時もそうだったな。魔石をジャラジャラと積んだよな。それで倍にまで増えたんだったか。
「これでどうだ……」
『三割増やしてやろう。次だ』
あっさり終わったな。赤兜のやつ、ここで手に入れたものを全部放出する勢いだったな。数は大したことないが、いいものが揃ってたんだろうな。三割とは幸運な奴だわ。あっ、ちょっと苦しんでる。アレクの時もそうだったよな。
「狼ぃ、先にいいぜ。」
「ガウガウ」
『ほう。フェンリル狼か。望みを言え』
「ガウガウ」
『なに? 正気か? 修蛇渕、そなたらの言うところの悪食と戦いたいだと?』
何ぃ!? カムイまじで!? それなら私だってやりたいけど、今は魔力が空っぽな上に武器が不動しかない。一人でやる気か!?
「ガウガウ」
当然っ……て、まじかよ……やめろって言ってもどうせ聞かないんだろ……
『容易いことだ。死にたければ好きにするがよい』
私の時のように壁に隙間が空いた。余裕たっぷりな態度で歩いていくカムイ。復活するとはいえ、一度は殺されたコーちゃんの仇を討ちたいのか?
「ガウガウ」
違うのか。ただムカついてるだけ……ね。私もなんだけどな……
「ウチも行くー。見るだけならいいっしょおー? ね、狼殿?」
「ガウガウ」
「だめだってさ。本気出すから誰も来るなだって。」
本気……? カムイの本気って何だ? 私たちには見せてない、見せられない何かがあるってのか!?
「もー! 狼殿のケチぃー! ぷん!」
「仕方ないわよ。カムイは言い出したら聞かないから。」
だよね。アレクの言う通り。あらら、アレクったら珍しい。カムイを抱き締めてるよ。女神の祝福だな。こりゃあカムイの勝ちは決まったようなものかな。
「ガウガウ」
おう。お前の勝ちを信じてるぞ。生きて帰ってこいよ。
そして振り返らずに歩いていくカムイ。こいつ後ろ姿も絵になるなぁ……
あ……隙間が、閉じた……
『心配せずともあやつが負けを認めれば逃げ道は開けてやる』
カムイが、ねぇ……
あいつって負けを認めるぐらいなら死を選ぶタイプだよな。まったく……私の召喚獣のくせに言うこと聞かないんだから。まあ、頼りにはなるけどさ。仕方ない。好きにさせてやるか。どうせもう止められないし。
『最後だ。望みを言え』
やっとドロガーの番が来たな。こいつは何を頼むんだろうね。
「俺がこのシューホー大魔洞を踏破したことをヒイズル中に周知して欲しい。」
『対価を示せ。それによって広さが変わる。何もないのであればそなたの生まれ故郷がせいぜいだ』
もしかしてこの神って弱いのか? いや、でもアーニャを治すことはできたみたいだし。向き不向きでもあるんだろうか。
「これでどうだ?」
ドロガーも魔力庫大放出か。ここでゲットした物以外もありそうだな。せっかく渡した金剛石も。
『街二つ分だな。選べ』
「天都イカルガとテンモカだ。『ブラッディロワイヤルの傷裂ドロガーとローランドの魔王がシューホー大魔洞を踏破した』と神の名において周知してくれ。」
『いいだろう。しばし待っておれ』
私もかよ。別にいいけどさ。
神が黙り込んでから五分ぐらい経っただろうか。
「そんな願いで良かったのか? えらく悩んでたみたいだけどさ。」
「ああ。迷ったぜ……だがこれでブラッディロワイヤルの名は国中に轟く。死んだ奴らに顔向けできるってもんだ。あいつらの仇だってとれたしよ。」
ドロガーがいいならいいか。なんせ今までどの迷宮も踏破されたことがないって話だったもんな。そりゃあ偉業だわ。しかもそれを神の口から周知されるとはな。もしかして勇者ムラサキ以上のヒーローになったりするのか!? ヒイズルにも少しは勇者の話が流れてたしな。ついでに私の名前が一国の首都にまで広がることだしエチゴヤ潰しやジュダ退治にちょうどいいかもね。
『終わりだ。イカルガにはケルニャータ様より、テンモカにはデメテーラ様より行っていただいた。これでよかろう』
鍛治と武器の神ケルニャータと土と豊穣の神デメテーラか。やっぱこいつ神々の中では下っ端みたいだな。自分ではできないから上の神に頼んだってわけか。だから対価を要求したのか? 自分でできることなら褒美として与えることができるのに、できないもんだから対価と引き換えに上役に頼むと。
なるほどね……中間管理神ってわけか。だから性格が悪いのか、それとも暇でたまらんから来訪者を見て楽しんでいるだけか。
「ああ。ありがたい。色々思うところはあるが来てよかった。ところで一つ質問がある。この国の北西端に相当危険な迷宮があると聞いたことがある。そこの神はあんたから見て、格上か? それとも格下か?」
なんだ。ドロガーも知ってたのか。確か通称『潮吹き』って言ったかな?
『知らぬな。行けば分かることであろう。帰り道は開けておく。愚狼が戻る時までは開けたままにしておいてやろう。無事に戻れるかは知らぬがな』
ふん。戻ってくるに決まってんだろ。
「またな。シューホーの神よ。」
「ありがとう。」
「ありがとうございました。」
「…………」
「神様ありがとよぉ。」
『さらばだ』
あ、聞くのを忘れてたけど、この部屋にまで魔物が出ることはないよな? ボス部屋とは違うみたいだし。
まいっか。とりあえず寝よう……
頭痛と疲れが限界だ……




