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異世界金融 〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件 〜 #いせきん  作者: 暮伊豆
第4章

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536、レブナントの戦法

「クロミ……どうして……はっ! クロミじゃない!? まさかレブナント!?」


ぎらりと見開かれた目には黒紅色しか見えない。


「ク、ロ、ロミ……」


クロノミーネの端正な口から歪な言葉が漏れる。ドロガーはぴくりとも動かない。


「そう……あなたもうクロミじゃないのね……なら、容赦しないわ!」


火球(ひのたま)


「ガウッ」


するりと火球を避けたレブナントの腹に、狙いすましたカムイの頭突きが命中した。部屋の端まで吹き飛ぶレブナント。


素早く追撃をせんと立ち位置を変えるアレクサンドリーネ。だが、射線上にカムイが立っている。


「カムイどいて! そいつはもうクロミじゃないわ!」


「ガウガウ」


一瞬だけアレクサンドリーネの方を振り返ったカムイ。そして再びレブナントの方を向き、近寄っていく。


「カムイ! 近寄ったら! あいつに乗り移られるわ! だめよカムイ!」


クロノミーネなら殺せるが、カムイは殺せない。そんな計算もあるのかも知れない。


「ガウガウ」


アレクサンドリーネの方を見もしないが返事はする。


「カ、ム、ムイ……ガアァァァァァーー!」


歯を剥き出しにしてカムイに襲いかかるレブナント。いくら魔物が乗り移っているといえどその歯も顎もクロノミーネのもの。カムイの毛皮には傷ひとつ付くはずもない……だが、カムイは身動きひとつせず、その鼻面をレブナントが噛むに任せている。


「カムイ! どうして!? くっ……」


一瞬カムイごと業火で燃やそうかと考えたアレクサンドリーネだったが、すぐにその考えを捨てた。カースの炎ならともかく、自分の炎ではカムイを燃やすことなどできないためである。しかもカースの分身とも言えるカムイである。人質ごと殺す常識を持つクタナツ女性たるアレクサンドリーネであっても躊躇いを見せるのは無理からぬことだろう。


しかし、このままレブナントがカムイに乗り移ったら終わりだ。アレクサンドリーネ一人ではとても勝ち目がない。今しかないのだ。

レブナントがクロノミーネの体からカムイを狙っている最中の今しか。


『身体強化』


ボス部屋に入る前に飲んだ魔力ポーションで魔力は全快している。だが、この階層での魔力の消耗を考えると決して余裕とは言えない。

アレクサンドリーネは倒れた赤兜のところまで迷わず走り寄り、ムラサキメタリックの剣を拾い上げた。現状でカムイに通用する攻撃手段は他にないだろう。


カムイの背後まで忍び寄り、剣を高く振り上げる。今なら殺せる。今しか、ない。


「カムイ……どっち……どっちなのよ!」


クロノミーネの体が地面に倒れ込む。レブナントの乗り移りが終わったのだ。ついにカムイへと……


ゆらりとアレクサンドリーネの方に振り返るカムイだったもの……


しかし、その目は元のカムイのままだった。


「カムイ? カムイなの!?」


『グオオオオオオォォォォォーーーーーゥゥ!』


魔声(ませい)だ。アレクサンドリーネに向けて放たれたものではない。ただがむしゃらに吠えただけのように聞こえた。


「くっ、カムイ……いったい何を……」


魔声の余波をくらい壁際まで飛ばされたアレクサンドリーネ。それでも意識は保っている。


それからもカムイの魔声は止むことがなくボス部屋に響き続けた。アレクサンドリーネはよほど消音を使おうかと考えたようだが、それでもカムイに何かあった時にすぐ対応するべく使わなかった。一切の魔法防御なしで、カムイの魔声に相対(あいたい)し続けたのだ。合間にドロガーとクロノミーネの介抱もしながら。二人とも意識は戻らないものの、どうにか傷は塞がった。




そして何十分が経ったのか、ふいにカムイの魔声が途切れた。部屋内を恐ろしいほどの静けさが襲う。


「カムイ……」


「ガウ……」


カムイが鼻先で何やら指し示している。アレクサンドリーネがそちらを見やると、小さな立方体の箱が落ちていた。さらによく見ると、先ほどまで倒れていたはずの最初のボスがいない。ドロガーがハルナと呼んだ存在が。


「まさか、カムイ……わざとレブナントを乗り移らせて……体内で始末したの!?」


「ガウ……」


「もう……こんなに消耗して……ほら、これ飲んで。」


魔力ポーションを差し出すアレクサンドリーネ。


「ガフガフ」


一息で飲み干した。そして鼻先に通常のポーションを受けた。


「カムイには悪いけどカースを呼びに行ってくれる? たぶんカムイが行くのが一番早いわ。」


「ガウガウ」


アレクサンドリーネはその間に二人の介抱の続きだ。クロノミーネの方は浅い傷だからポーションをかけるだけで済んだが、問題はドロガーだ。内臓にまで達する傷は表面にポーションをかけるだけでは治らない。ポーションを飲むか治癒魔法使いに内部を治してもらう必要がある。もちろん確実なのは後者だ。


そこでアレクサンドリーネは……


『覚醒』


クロノミーネを叩き起こした。今のクロノミーネには危険なため、あまり褒められた行為ではないがドロガーの命には代えられないだろう。


「うっ痛ったぁ……頭いたいし……」


「起きたわね。ドロガーが危ないわ。診てあげて。」


「あれぇ金ちゃん……あ、もしかしてレブナント倒したの?」


「ええ、カムイがね。で、あなたがドロガーのお腹を刺したのは覚えてる?」


「えぇー!? ウチがぁー!? うっそぉーー!?」


「まあそれはいいから診てあげて。この辺りよ。」


ナイフが刺さっていた場所を指示するアレクサンドリーネ。


「うっわー、ヤバいし。金ちゃんせめてポーション飲ませてあげればよかったのにー。」


「それもそうね。」


そうは言いつつもアレクサンドリーネはカース以外の男に口移しをする気はないだろう。たぶんドロガーが死にそうになっても。




「お待たせ。ボスは強かった?」


ようやくカースがやって来た。ボスを倒したことで普通に通れるようになったのだろう。

ミスリルボードの上ではカムイとアーニャが寝転んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強敵だったなぁ・・・
[一言] アレク大活躍。カムイも大活躍。 うんうん。(満足。 それにしても、厄介なやつでしたねー。
[一言] >「お待たせ。ボスは強かった?」 強かったと言うか、性質悪かったわ。
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