504、爆裂寸前詐欺
幸いそこまで広い通路でもないし、ここはあの手で一気にやってやるか……こんなんでも先ほどまでの罠を突破した奴らなんだろうからな。
「赤兜騎士団のみなさん! お務めご苦労様です! 差し入れもってきましたんでどうぞ飲んでやってください!」
「なんだぁ? 冒険者ぁ? にしちゃあ妙な格好してんなぁ?」
「うっひょー! いい女が三人もいんぜ! そうかい差し入れかい! 遠慮なくいただくぜ!」
「なるほどな! 差し入れってそういう意味かぁ! おめぇ冒険者のくせに気が利くじゃねぇか!」
「待て待て待て! そんなわけねぇだろ! ちっと落ち着けや!」
ちっ、まともな奴もまざってやがる……
「あ、差し入れってこれです。アラキの酒です。樽でどうぞ。」
『…………』
クロミに伝言で指示を出したぞ。
「あー、あっつーい。ちょっと服脱ぎたくなってきちゃったー。」
さあどうだ? お前らみたいな腐れ騎士は酒と女が大好きだろ? ほぉーら、いくらまともな奴が止めても次々と集まってきやがった。くっくっく。ほぅれ、飲め飲め。
「おっ!? これってアラキの新酒じゃね?」
「おお! マジだぁ! 悪くねぇなぁ!」
「俺にも注げやぁ!」
「バカもんが! 飲むなぁ!」
無駄無駄ぁ。こんな迷宮内では望むべくもない新酒と美女だぜ? 止まるわけないさ。くくく……
よぉし。そろそろだな。魔力特盛で……『解呪』
「んあ?」
「ほっよ?」
「へぇへ」
「たっりょ」
「何をした!?」
大成功! ざっと八割の奴に解呪がばっちり効いたぜ!
「あれ? ここ?」
「何やってたんだっけ?」
「確か迷宮で」
「なんで迷宮に? 俺ら騎士だろ?」
「貴様らぁー! 赤兜騎士団の誇りを忘れたか!」
頭が働かず、ぼけーっとしてる奴らの中に素早くムラサキメタリックの鎧を纏った奴が五人か。それぐらいの人数なら……
「ドロガー! クロミ! カムイ! 一人ずつ相手しろ! アレクはアーニャを連れて退避!」
「結局こうなんのかよ……ったく……」
「はいはーい。」
「ガウガウ」
「分かったわ!」
『紫弾』
まず一人!
これで四対四だ。
「貴様ぁ……何のつもりだ……」
「一体何をした!?」
「怪しげな魔法を使いおって!」
「さっさと解かねばその命貰い受けるぞ!」
「おーっと、旦那の相手ぁ俺だぜ? この傷裂ドロガーとやってみっか?」
「脱がせてみる? ウチって着痩せするタイプだしー。」
『ガウァァァーーーー!』
カムイのやつうるさいな……こいつらに魔声なんか効かないってのに……あぁ、雑魚どもを気絶させておいたのか。私は気にしてなかったがカムイとしては邪魔だったのね。
「ろくに修羅場をくぐったこともないような顔をして……その実、とんだ修羅だったわけか……この天都ヒイズル赤兜騎士団第二隊隊長マヌ・ツゲライシ容赦せん!」
さてと……こうして正対してしまったからには紫弾は使いにくい。避けられたら魔力の大損もいいところだからな。ならばここは不動で……
「ふん……そのような棒っきれで我が愛剣雷切に勝てるとでも? 各々がた! 愚かな冒険者どもに赤兜騎士団の恐ろしさをたっぷり教えてくれましょうぞ!」
「おお!」
「当然ですな!」
「獣ごときが! 斬り捨ててくれる!」
『身体強化』
『螺旋貫通峰』
「ばかめ! 隙だらけぞ!」
ちっ、不動を舐めてるうちに一撃で決めてやろうかと思ったら逆に喉を斬られかけた……くそ……こいつ強い……
「そこだ!」
くっそ! だめだ! 全然回転が違う! 近寄らせたらやられる! なんて嫌な剣術を使いやがる……打ち終わりですら隙がない!
こうなったら……
「くらえ!」
「愚か者! 唯一の武器を投げるとは! 貴様は今、己の命をも投げたのだ! だが苦しませはせぬ。大人しく先程の魔法を解除すれば我も慈悲をくれようぞ?」
「ほんとに? 助けてくれる?」
両手を挙げて話しかける。
「当然だ。我は誇り高き赤兜騎士団! 冒険者ごときを相手に詐術など弄するものか! さあ、先程の魔法を解除してもらおうか!」
「あーそれだけどさ……後ろを見てみな?」
「その手は食わっがっばぁぁ!?」
大成功。投げた不動を風操で戻ってこさせたのさ。ここの通路は狭い代わりにやたら長いからな。遠くへぶん投げた分、勢いがついてるぜ。ムラサキメタリックを貫くほどにな。
『風操』
ムラサキメタリックは操れないが、不動は操れる。隊長をうつ伏せに押さえ込み、不動に手を触れ……
「おのれぇ!」
危なっ。うつ伏せのまま剣を振りやがった。とっさに靴裏で防御。危ない危ない。今度こそ不動を経由して『拘禁束縛』
「がっ……」
よし。終わりっと。他はどうなったかな?
「おーう魔王、やっとかよ。ぼやぼやしてんじゃねーぜ?」
「お、おお……」
やっぱドロガーのやつやるなぁ。手足をきっちり拘束して、そのロープの先を手で握ってやがる。なるほどな……こうすれば赤兜の奴は換装が使えずにムラサキメタリックを纏ったまま。まともな魔力庫だと生物は収納できないもんな。
そうすると魔法が使えずロープを切ることもできないってわけか。後はゆうゆうと手動で適当に気絶させればいいってことね。
クロミは……いない。どこへ行った?
カムイは……「ガウガウ」
あー、頭突きしまくって赤兜を何度も壁に叩きつけたのね。確かにムラサキメタリックよりここの壁の方が頑丈だもんな。つーかお前頭から血が流れてんじゃないか。無茶すんなよ。ほれ、ポーション飲め。
後はクロミか。
「カース、クロミならあっちに行ったわよ。でもクロミのことだし心配はいらないわよね。」
「そうだね。クロミだもんね。」
ではその間に戦利品の回収といこうか。ムラサキメタリックの装備が四つか……どうにか全部収納できるかな。
ふぅ……できた……
残り魔力は三割ってとこか。結構使ったもんなぁ……あー疲れた。
それにしても洗脳されてない赤兜か……どうしたことなんだろうか……




