479、赤い宝石
そもそも私だって金属加工は得意な方だからな。バッチリやれるってとこを見せてやるぜ。あ、そうだ……
「金具はいる? いるならこれ使ってよ。」
残り少ないオリハルコンだ。
「んー? いや、なくていいや。今回は原石をカットするだけで終わりだな。」
「へー、それはすごいね。楽しみ。」
金具のないイヤリング? どうやって耳につけるんだろう? 金属加工がないなら私の出番が……
「そんじゃこいつに魔力込めてくれよ。ゆっくりなー。」
「はいよ。」
そういえばそうだったな。作業に何やら魔力を使うようだが、一旦この箱に溜めておくんだったか。
錬魔循環をしながら箱に触れて魔力を注ぎ込む。
「待て待て待て! ちったぁ加減しろって!」
バカ言うな。私のような繊細な魔力制御ができる人間はそうはいないぞ?
「もう満タンになったのか?」
「おお、お前の魔力はやべーんだって! マジで加減しろや!」
違うな。この箱がしょぼいんだよ。まったくダークエルフの技術も大したことないな。
「よし、そんじゃカットいくぜ。まずは灰簾菫石からだ。まったくよぉ、魔王はいい原石持ってんよなぁ。」
貰いもんだけどね。
「おう、これを空中で固定しといてくれや。できんだろ?」
「できるに決まってんだろ……」
『金操』
まったく……鉱石に金操を使うのは消費が酷いんだぞ。
「よーしそれそれ。いいぜー。動かすなよー?」
『旋回転磨』
うおっ!? なんだそれ!? 手元で何かが……まるで小型の竜巻!?
もしくは私の水鋸だな。ただ、威力や回転数が桁違いだな……くっ、これが一流の職人の技か。
おおっ!? 一瞬で原石を真っ二つに!? うお……切断面がピカピカ!?
しかも……なんだこれ!? なんて複雑なカットを……
あ……これ、知ってる……ラウンドブリリアントカットだ……
あいつから飽きるほど聞かされた……
ダイヤモンドとルビーが好きなあいつ……
七月生まれで……
「おう、できたぜ。次いくぜ!」
「お、おお……」
次は紅柘榴石、ガーネットか。苦労しそうだが……
「おらぁ! がちっと固定しとけ!」
「おう!」
『金操』
やはり原石をがっちりと固定すると……
『旋回転磨』
すごいなこれ……
かなりの高速回転だ。そして原石が見る見る輝きを増していく……
「おらぁ! 魔力が足りねーんたよ! 追加だ追加ぁ!!
「おうよ!」
面倒だな。私から直に吸い取れよ!
「加減しろや! 壊す気かよ!」
うるせぇなぁ……作業に集中しろよ……
「よぉーし! いい魔力が溜まってんな! こりゃあ捗るぜ!」
それにしても変な格好だよな。両足は裸足、そして足の裏で変な箱を挟み込んでる。その箱の上に私は原石を浮かせつつ固定しているわけなんだが……
ぬっ!? このカットは……確かフラワードリームダイヤモンド? この石はガーネットだが……それをわざわざ……
職人のセンスは分からん……
だが、クライフトさんがアレクに似合うと確信してやってんだ。私は信じて固定を続けるだけだ。
「よぉーし! できたぜえ! これでどうよ?」
「いいじゃん。すごい出来栄えだね。これならアレクもきっと喜んでくれるだろうさ。」
灰簾菫石、そして紅柘榴石からそれぞれ二組ずつ。都合四組のイヤリングが出来たわけだが……いや、見た目はむしろピアスか?
「これ金具もなしにどうやって耳に付けるんだい?」
「まあ慌てんな。おもしれーもん見せてやるぜ?」
「お、おお……」
「ほらほらぁー! また魔力が減ってんぞ! もっとくれや!」
えーい! 足りんと言ったり多すぎると言ったり! 注文の多い奴だな! もうカットは終わってんのに次は何だよ!
『限定付着付与』
「おーし完成だ。んあー疲れた……」
「最後の魔法は何なの?」
「へっへっへ。こいつを付けたい場所に当てて『付着』と唱えてみな?」
どれどれ……手の甲に付けてみるか。
『付着』
おおー。これはすごいな。魔力なしできっちりくっ付いてくれるのかよ。
「外す時は『離脱』だ。そいつに指先で触れてから唱えろよ?」
ふむふむ。
『離脱』
おー。これは便利だ。穴を開けず磁石もいらないピアスって感じか。むしろ耳の裏表両方に別々の宝石を付けるのもありだな。
「一応聞くけどこれ他の魔法と干渉したりしないよね?」
「するわけねーだろ。そのぐれー計算済みだっつーの。おめーとさっきの女の声にしか反応しねーぐれーの機能だって付けてんだよ。どーよ。すげーだろ?」
「マジか! それりゃすごいな! あの一瞬でそんな機能を付与したってのか? すごい!」
「へっへっへー。どーよダークエルフ舐めんなよ。んあー疲れた……」
本当に凄いな。ただの職人ってだけじゃない。魔道具作りの腕まで凄いじゃないか。
疲れてるところを悪いが……
「じゃあ次いこうか。」
「んあー? なんだぁ?」
赤い宝石を見てたらちょっとな……
「これを首飾りにしてくれる?」
「んあー紅玉石かよ。やたらいい石ばっか持ってんじゃねーか。作ってもいいけど何も付与しねーからな?」
そう。真っ赤なルビー、赤兜の隊長から貰ったやつだ。あいつの好きだったルビー……
「ああ、構わんよ。その分カットをしっかり頼むよ。」
「まあいいけどよー……」
「あとこの金属で鎖を作りたいんだけど、大丈夫?」
アイリックフェルムだ。
「んあー? 何だこりゃあ!? 全然魔力が通んねーじゃねーか! どうなってんだこれ!?」
「無理矢理やれば通るさ。魔力ならガンガン補充するからまあやってみてよ。」
「んんー……マジかこれ……どんだけ魔力込めさせる気だよ……後だ後。先にカットすんぞ……」
『金操』
がっちり固定する。
『旋回転磨』
「あー……これでどうよ……」
「お見事。寸分の狂いもないな。じゃあ鎖と金具いこうか。」
これはブリオレットカットだったかな。やるなぁ。やっぱいい腕してんなぁ。
「まったくよお……」
『金属成型』
おおおーー! 見る見る細かいチェーンが連なっていく! 見てて面白いなこれ!
「はあぁーはぁ……ぐふぅ……んあーもー……二度とやんねーからな……」
アレクに贈ったアルテミスの首飾りにはオリハルコンでチェーンを作ってもらったが、それに比べると少し太いかな。あっちの繊細なチェーンもいいけど、これはこれでいいな。
これをあいつに……
「ありがとね。いやー助かった。ありがとありがと。あ、これ置いてくよ。」
肉をどっさりプレゼント。無茶させちゃったからね。私も魔力がどっさり減ったけどさ。
よし。これで心置きなく帰れるかな。




