405、カース VS アレクサンドリーネ 決着
いくぜアレク……
『換装』
ん? なぜ今わざわざ換装なんか……はっ!?
えっ!? な、何して!? いかん!
『闇雲』
『今のは何だったのでしょうか!? 私の目の錯覚でしょうか!? 女神選手が一瞬にして全裸になってしまったように見えましたが!? しかし! 闘技場全体が黒い雲に覆われて何も見えなくなってしまったぁぁーー! 一体何が起こっているんだぁぁーー!』
それを聞きたいのは私の方だ! アレクは何やってんだよ! なけなしの魔力を換装なんかに使って!
『ゴガアアアアアアーーーーーー!』
ぬっ!? 今のはカムイの魔声!?
『暗視』なぜ私を攻撃してくる!? むっ、いかん!
『鉄壁』
あぶね! カムイの奴、私を殺す気かよ! 魔声で自動防御に穴を空けて突っ込んできやがった。まあ近寄らせる気なんかないけどさ。試合前に何度かアレクが姿を消したのはこういうことか……客席にいるカムイに何らかの密約を持ちかけたわけだな。アレクが頼むことはできても、カムイがそれを聞くとは限らない。だがカムイはこうして動いた。つまり、アレクは賭けに勝ったわけか。全裸になってまで私の動きを止め、なおかつ私に闇雲を使わせるために……
くっ、何て巧妙な手口を……
『鉄壁』
くっそ。最強の防御を誇る鉄壁がカムイの魔力刃でザクザクと斬り刻まれてしまう……これはいかんな。退場してもらおうか。
『竜巻』
私を中心に竜巻で覆う。ぶっ飛びやがれ。ついでに範囲を広げてアレクも……だめだ! 今のアレクは全裸だ! 客席なんかに飛んでいったら大変なことになる! まずはカムイを片付けてからだ!
くっそ! マジかよこいつ! 竜巻だぞ!? 武舞台の床岩が剥げて舞い上がる威力だってのに! 舞い上がった岩を飛び移って真上から……『ガウアアアアーーー!』
『徹甲弾』
だが、真上にいるんだからいい標的でしかない! 今度こそぶっ飛べカムイ!
『ガウブ!』はあぁ!? 徹甲弾を口で咥えただと!? そして縦に一回転して私に投げ返しやがった!?
そんなもん効くかぁ!
『徹甲五十連弾』
『ギャウブァン!』
よし、半分命中。カムイは空高く舞い上がっていった。それにしても、ホーミングがついてるのに半分しか当たらないとは……
さあ、アレクはどうしてる!? ぬおっ!? あぶねっ!? 目の前まで氷河が迫っているではないか! 私の竜巻をものともせず、じわじわと凍てつく氷河を完成させて、私を円から押し出す作戦か! だが、アレクの魔力はこれで終わりだ。決着と同時に服を渡しに行かなければ。もう換装を使う魔力など残ってないだろうからな。
『火球』
『火球』
『火球』
いくらアレクの上級魔法でも、私の極熱火球の前には逃げ水も同然。たちまち蒸発していく。くそ、いくら暗視を使っていても闇の中に立ち昇る水蒸気のせいで前が全然見えない。ならば……
『魔力探査』
アレクの位置と残り魔力を確認する……なにぃ!? アレクの魔力がまだ残っているだと!?
『氷球』
むっ!『火球』
あっぶね! 何だこれ!? 解かした氷球の中からナイフが飛び出してきた! それも私の自動防御を貫く威力の!『徹甲氷弾』
ぐふっ、ナイフに続いて特大の氷弾まで……だが効かん! 私だってドラゴンのウエストコートを着てるんだからな!
お返しだ!
『烈風球』
くっそぉー! 撃つと同時に上から氷塊が降ってきやがった!
『火球』
一瞬にして解ける氷塊。白に埋め尽くされた私の視界に……カムイか!
大口を開けて私を噛み殺しにきやがった! 本当にこいつしぶといな! だが少し遅い! お前が噛んだのは私の左腕だ! いくらお前でもエルダーエボニーエントの籠手は噛み潰せまい!
そして無敵の毛皮も今なら……『拘禁束縛』
口からダイレクトに魔法をかけてやった。よし! ついにカムイを無力化したぞ! はぁ……一瞬でも遅れてたら爪で首をかき切られてたかも知れないな……
あー左手が痛い……骨にヒビいってんじゃないか? どんな咬筋力してんだよ……
アレクは……『風操』
武舞台の上だけ闇雲を払う。あっ! 倒れてる! ついに魔力が尽きたか……『浮身』『風操』こちらまで運んで……
お姫様だっこをしたらコートをかけておこう。まったく……全裸で戦うってことは防具すらないんだからさ。エクストリームすぎるぞ……
その状態で徹甲弾なんか食らったら腹でもどこでも軽く穴が空いてしまうんだからな。はぁ……苦戦させられたよ……
『風操』
これでもう大丈夫。闇雲を全て晴らす。
『ああーっと! やっと! ついに暗闇が晴れました! するとなんと! 魔王選手が女神選手を抱きかかえているぅー! これは勝負ありですね! 魔王選手の勝利でーす!
ただし! 今度こそきっちり説明してください! 暗闇の中で何があったのか! 一瞬だけ見えた女神選手の全裸についても! ヒイズルの恥どもだって知りたいでしょうからね!』
『いいだろう。アレクを医務室に連れていくから少し待っていてくれ。』
カムイも行くぞ。拘禁束縛解除。
「ガウガウ」
はぁー……お前あれだけ徹甲弾くらったくせに無傷か?
「ガウガウ」
あ、さすがに違うのね。外傷こそないものの内出血やら内臓へのダメージやらで歩くのも少し辛いのか。で、なぜこんなことをした?
「ガウガウ」
アレクが一週間毎日二回、手洗いとマッサージをしてくれるからって? まったく……お前ってやつは。
「ガウガウ」
それに? 私に良いところを見せたかったって? バカ……お前が最強の狼ってことぐらい分かってんだよ。今夜は私が手洗いとマッサージしてやるよ。
「ガウガウ」
痛いからいいって? 明後日から? まったくこの贅沢者め。ならとりあえず『浄化』と。
アレクを医務室に連れていくから、カムイはそのままアレクの傍にいてくれ。治癒魔法使いのジジイが不埒な真似したら殺していいからな。
「ガウガウ」
あー疲れた……
魔力的には本日最初の試合ほども使ってないのに。あと二回か。
とりあえず放送席に行くとしようか。




