324、子供とコーネリアス
上には一面の星空。
周囲には漆黒の空間。
世界は私達だけのものだと錯覚しても何らおかしくないな。最高だ。
「ガウガウ」
洗えって? 少しは待てよ。お前もこの星空を楽しんでみろよな。どうだよこの雄大な星空。今にも落ちてきそうじゃないか? いや、むしろこっちが落ちていきそうだ。
「ガウガウ」
いいから洗えって? まったくもう。カムイは甘えん坊なんだから。うりうり、わしゃわしゃ。思えば体が小さくなったおかげで洗いやすさはかなり増したよな。
ふう、疲れた。
「カース、今度は私が洗うわ。カースの体をね?」
「うん、ありがとね。」
石鹸でたっぷりと滑らせたアレクの細い指が私の体表をなぞっていく。快感ぬめーる。
「ねぇカース?」
「何だい?」
「あの子のこと、どう見る?」
「うーん、まあ富農の坊っちゃんって感じかな。何らかの理由で家出しちゃったってとこだろうね。世の中なめてたもんね。」
「やっぱりカースもそう思う? あんな子が一人旅なんてできるはずがないのに。ここが安全な地域で良かったわ。もし魔境だったら今頃魔物に食われてる頃だものね。」
「あはは、その通りだね。ここでも何か出てきそうだけど今はコーちゃんがいるしね。幸運なガキだね。」
「そうね。それよりカース……私もう……」
ぬふふ、アレクが待ちきれないって顔してるな。よし、それなら地上に降りようか。そして目くるめく夜を……
「うりゃあ! とぁ! そこか、てぃっ! くそっ!」
「何やってんだ?」
ガキが棒っきれを振り回している。
「うわっ! お前こそ何だそれ!? あきょっ裸!?」
もちろんアレクも私も裸だ。湯船に浸かってるけどさ。
「見ての通りこれは湯船だ。空も飛べるけどな。おい、あんまりじろじろ見てんじゃねぇぞ。この色ガキが。」
「み、見てねーし! べ、別にきょ、興味ねぇし!」
それでもアレクの剥き出しの肩から視線が外せないのは正直な奴だ。ヒイズルにはここまで美しい子はいないだろうから当然だけどな。
「で、棒っきれなんか振り回して何やってたんだ? 稽古にしてはドタバタしてたもんな。」
「稽古じゃねえ! へ、蛇がいたんだ! お前も気をつけろ!」
「蛇? どんな?」
「よ、よく見えなかったけど! 蛇にしては目がギラついてて! なんかやべぇ感じだったんだよ!」
それはギラついてるんじゃなくて、つぶらな瞳って言うんだよ。やれやれ。
「コーちゃん。出ておいて。」
「ピュイピュイー 」
「あぎゃあーーでたぁーー!」
さてはこいつ、蛇が怖いのか。
「ビビってないでよく見ろよ。こんなかわいい蛇ちゃんがいるか?」
「び、ビビ、ビビってねーし! 蛇なんか怖くねーし!」
「ふーん、怖くないんなら問題ないな。コーちゃん、巻きついてあげたら?」
「ピュイピュイ」
コーちゃんがその気になったらこいつごときじゃ逃げられないよな。
「あぎゃっ、や、やめ! ちか、来るなぁ!」
「いいこと教えてやろうか。蛇ちゃんが怖いんなら友達になればいいんだよ。きちんと自己紹介して、友達になってみな。」
「ガウガウ」
カムイもそれがいいと言っている。
「ピュイピュイ」
「ほらほら、蛇ちゃんは友達になろうって言ってるぞ?」
「とと、友達? 蛇と? ど、どうやって!?」
「さあなぁ? 友達になるためには最初に何をするべきなんだろうな? お前は誰だ? ん?」
「お、俺!? そ、そんなの、シム・サキバルに決まってるし!」
「ピュイピュイ」
うーん、コーちゃんは優しいね。
「この蛇ちゃんの名前はコーネリアス。コーちゃんと呼んでいいぞ。お前の友達になってやるってよ。良かったな。」
「コーネリ? コーちゃん? 友達?」
「ピュイピュイ」
やれやれ、コーちゃんったらもう……
「困ってるんなら僕の友達のカースが助けてくれるから話してみろってさ。あ、カースって俺な。そしてこの子はアレクサンドリーネ、いや、お嬢様って呼べ。それ以外の呼び方したらまたぶっ飛ばす。」
「べ、別に困ってねーし! ちょっと腹が減ってただけだし! もう寝る!」
「おう、おやすみ。そのローブ今夜は貸してやるけど明日は返せよ?」
「ふん!」
いやー素直じゃないガキだねぇ。夜は冷えるがカムイの隣で寝ればまあ問題ないだろう。ふかふかのもふもふだからな。
さ、こんなガキなんかどうでもいい。私とアレク、二人だけの時間が始まるのだ。うふっふー。
おっふ、今夜のアレクは一段と激しいな。私は右手が使えないなりにしっかり応戦したのだが、いかんせん戦力不足は否めなかった。おおっふぅ……アレクがどんどん性豪になっていく……




