310、コーネリアスの舎弟
あ、いた。イグサを植えてない田を何やら耕しているな。そこに……
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
二人ともお待たせ。見張りありがとね。
「あ! 魔王様! ようこそお越しくださいました!」
「こんにちは! まおー様!」
「よう、昼から精が出るな。もう悪い領主はいなくなったから、平和に暮らせるぞ。よかったな。」
とりあえず半年ほどは……
「え!? りょ、領主様が、ですか!?」
いきなり言っても話が分からないだろうなぁ。
「まあその辺の話は後で。イグサの様子を見てからな。アレク、幻術を解いてくれる?」
「ええ、いいわよ。」
アレクが手を振ると幻術が解け、青々としたイグサが姿を現した。どれもこれもピンと伸びており、見ていて気持ちがいい。
「ふわぁ……凄いです! イグサがこんなに元気に!」
「まおー様すごいです!」
「こ、こいつぁ……」
ふふん、どうよ。驚いたか。
「イロハどう? この調子なら予定通り収穫できそうかしら?」
「はいお嬢様! 一週間もすれば大丈夫だと思います!」
ふふ、順調だな。これを刈り取って、ヒチベの所へ届けたらミッションコンプリートだ。いやー長かったな。なぜ畳を買うだけなのに領内に革命起こしてんだよ。いや、そりゃあ私がやったわけではないけどさ。ヒイズルが混乱するんなら正直ざまぁ見ろって気持ちがなくもない。でもなぁ……看板娘みたいな普通の人々の生活を乱したくないって気持ちもある。やはり私は甘いな。まあいいや、何が起こっても物見遊山さ。
「水の具合はどうだ? 減っているようだが。」
「そうですね! 追加をお願いできますか? あ、できれば現在の水と同じ温かさ……ってできますか?」
「ああ、問題ない。」
『水滴』
私の水は温度も自由自在さ。
「ピュイピュイ」
え? イグサに魔力を注いだ方がいいって? コーちゃんは無茶言うなぁ。これだけの範囲に魔力って……でもコーちゃんが言うぐらいだからきっといい事があるよね。やってやるさ。
『魔力放出』
イグサ田を覆う風壁の中へ魔力を放出するだけ。普段コーちゃんやカムイが食べる料理に魔力を込めるのと比べるとかなり効率が悪い。でもまあ一本一本に手を触れて魔力を込めるなんてさすがにやってられないからな。これがベストだろう。
「カース? いきなり魔力を垂れ流してどうしたの? 恐ろしく濃密な魔力を……」
「いやーコーちゃんがね。こうした方がいいって言うから。きっといい感じに育つんじゃないかな?」
私の全魔力のおよそ二割を放出してみた。そう言えば私がまだ子供の頃に聞いた話を思い出すな。魔力を使って育てる植物があり、それを使って作る服は値段が青天井だとか。興味深いな。いずれ楽園で農業をやるとするならば、それにも手を出してみようかな。
「いやいや……お見それしやしたぜ……これこそが魔王さんってわけですかい……あれほど濃密で大量の魔力を事も無げに。エチゴヤも恐ろしいお方に目ぇつけられたもんでさぁ……」
あ! こいつに言っておくことを思い出した!
「お前も闇ギルドの人間なら知ってると思うが、ローランド王国から拐われて奴隷になってる者がいるよな?」
「へい、ヤチロにぁおりやせんが、テンモカなんかにゃ居るそうですぜ?」
「通達出しとけ。全てのローランド人は魔王が保護すると。素直に差し出せば倍額で買い取るとな。」
「へ、へぇ……ですがアタシに通達出せるほどの力なんざありやせんぜ? うちのオヤジに頼んでみますわ……」
「後で連れてけ。俺から言う。こちらはお願いする立場だからな。頭を下げて頼んでみるさ。」
残りの魔力は一割もないしね。
「そ、そうですかぃ……」
ヒチベにもこの話をしておかないとな。 まあイグサの納品時でいいだろう。
「よし、みんな! とっくに昼は過ぎたけど肉でも食べないか?」
「いいわね。青々と伸びたイグサを見ながら食べるお肉はさぞかし美味しいでしょうね。」
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
ローランドの肉が食いたいって? カムイめ柄にもなくホームシックか? そしてコーちゃんは酒だよね。もちろん分かってるって。
「おいカドーデラ。何か酒持ってないか? 肉を食わせてやるから出せ。」
「へっへっへぇ。ありやすぜ? ここは一つ、固めの杯といきやすか。これでいかがでやしょ? アキツホニシキの特等純米生原酒ですぜ。」
「ピュイピュイ!」
ほうほう。そうなのね。
「うちの蛇ちゃん、通称コーちゃんがお前を舎弟にしてやるってよ。よかったな。固めろ固めろ。」
まあ舎弟とは言ってないけど。
「ありがとうごぜえやす! 四分六の杯いただきやす! 本日この時より! コーの兄貴と呼ばせていただきやす! 例え生まれは違っても! 死ぬ時ぁ一緒の兄弟杯! 姓はタカマチ、名はカドーデラ! 人呼んで、人斬りカドーデラと申しやす! 万端熟懇にお願ぇ申し上げやす!」
こいつ暑苦しいなぁ……
「ピュイピュイ」
「祝福をやるとよ。俺達がヒイズルにいる間だけ有効だとさ。それより早く飲ませろって言ってるぜ。あ、言い忘れた。この子は正しくは大地の精霊コーネリアスな。こっちはフェンリル狼のカムイね。」
「へいっ! 例え大地は違っても! 大きな空はみな同じ! いつまでも兄貴と呼ばせていただきやすぜ! カムイの兄貴もよろしゅうお頼もうしやす!」
本当に暑苦しいなぁ……
「ガウガウ」
「お前も強くなれだってさ。うちのカムイは最強だからな。」
「へいっ! ありがとうございやす!」
よし、色々あったが焼肉開始だ。それにしてもこいつ、カドーデラか。変な奴。コーちゃんの舎弟と言われて嫌な顔ひとつせず受け入れやがった。あ、これ美味しい。
「ピュイピュイ」
「大地の鼓動を感じるそうだ。特に水の清廉さが素晴らしいと。産地の近所に水の精霊でも住んでるのかってさ?」
「過分なお褒めの言葉をありがとうございやす! 精霊云々に関してはよく知りやせんが、こいつぁヒイズルの北西へグリッチ領はツーホ村で獲れた米から作られた酒なんでさぁ。あの辺にゃあ山を挟んでタイショー獄寒洞がありやすからね。精霊がいてもおかしくありやせんぜ。」
へー。あの辺りってワサビも採れるんだよな。楽しみが増えたな。
「とても上品で澄んだ味ね。まるでゼマティスのおばあちゃんの魔力みたいだわ。」
おおー、酒の味を魔力で例えるとは。アレクったら粋なんだから。
「魔王様、いただきます!」
「いただきます!」
「おう、食え食え。」
焼けたらガンガン食うのがバーベキューのマナーだぜ。
うーん、美味しい!
ローランド王国は魔境産オーク。正確な場所は忘れてしまったが、オークはどこにでもいるもんな。
あれ? 何か忘れてないかな?




