296、ヘルタスケルタのポルトニー
さすがにそろそろ時間だな。
「おい会長、その辺にしとけ。時間切れだ。」
「ん? 血の匂いで魔物でも寄ってきたか?」
「いいや、冒険者だ。何等星かは知らんが五人組だな。ここはいいからさっさと消えろ。三、四日後にまた来る。」
「分かった。よろしく頼む。お前たち、撤収だ!」
死体と致命傷の盗賊を残して会長達は消えた。逃げ足はそれなりに早いな。統率も取れてるし。大事なことだ。来る時はダラダラだったくせに。あ、ダラダラだった奴らが死んだからか?
「じゃあアレク、首をとっておいてくれる? 僕は穴を掘るから。」
「逆よカース。私が穴を掘るわ。首はカースに任せるわ。」
あ、そっか。魔力の残量的にはその方がいいのか? ならば手作業で首をとるとしようか。ちょっと面倒だけど……じゃじゃーん。クリムゾンドラゴンの短けーん。これなら雑魚の首なんかトマトのように切れちゃうんだぜ。
オリハルコンのナイフやムラサキメタリックの刀は出し入れするだけで魔力を相当消費するからな。今は出番なしだ。それに比べたらクリムゾンドラゴンの短剣はそこまでではないんだよね。
髪を掴んで頭を起こし、短剣で横薙ぎ一閃。私程度の腕でも容易く首が切り落とせる。儲けが予定の二割程度まで落ち込んでしまったが、まあいいだろう。これも畳のためだ。
「カース、終わった?」
「うん。お待たせ。じゃあポイポイ捨てようか。」
その後は現場に落ちてる小銭拾いだな。普通盗賊ってのは死んだら魔力庫が消滅する設定にしてそうなものだが……下っ端は違うってことかな。
「てっ、てめぇら……」
「いつの間に……」
「それに血の跡、その首……」
朝出会った冒険者達か。意外と早く着くもんだな。少し驚いたぞ。
「遅かったな。もう盗賊はいないぞ?」
「おい……どうする……」
「行きがけの駄賃だ……」
「こいつらごと……」
ひそひそと何やら相談してやがるな。
「おいガキぃ……この盗ぞ『狙撃』
「ここは街中じゃないんだ。失言一つで命が消えるぜ? 分かったら丁寧に喋れ。」
まあ殺してないけどね。大腿部を撃ち抜いただけ。まったく、余計な魔力を使わせるなってんだ。
「てめっ!」
「うぐっぎぃ……」
「おい、大丈夫かよ!」
「下がってろ。手当してやれ」
「やってくれたな……いつでも臨戦態勢ってわけか……」
そうでもない。ただ魔法の発動が早いだけだ。
「お前ら今朝は城門で舐めた口きいてくれたな? 俺らのことを知らないんだろ? 盗賊ごときでもちゃあーんと知ってたのによ。そうそう、ギルドの会長も知ってたぜ?」
どうでもいいけど会長多すぎじゃない?
オワダのクウコ商会、オワダのギルド、ヤチロのクラヤ商会、元ユメヤ商会。そしてギルドのおばさん会長。
「お前の正体だと?」
おっ、リーダーっぽい奴が反応した。そうそう。リーダーは冷静じゃないとね。
「説明してやる気はないがな。舐めた口きいてごめんなさいって謝ったら許してやるさ。約束するぜ? 今後俺らに手出ししないんならな。」
殺して有り金全部奪うことだってできるのに、私って寛大だぜ……
さあ、どうする?
「なめたくちきいてごめんなさっっいぇぬぅべっ!」
え? 今なんて? 大声の上に早口でよく聞こえなかったぞ……でも契約魔法が反応したってことは謝りやがったのか……何て奴だ……
「わ、分かったならいい。それならせっかく来たんだ。落ちてる小銭ぐらい拾っていいぞ。俺らは帰る。」
「おいポルトニー何を!」
「何考えてんだよ!」
「こんなガキあい『狙撃』ごびゃっ!」
「説明は後だ……帰るって言ってんだ……気持ちよく帰ってもらおうぜ……」
「分かってるならいい。契約魔法が効いてるのはお前だけだ。だから約束を守るならお前だけは助けてやる。他の奴らは知らんぞ?」
まあ私の契約魔法は破れないだろうけどね。
「分かった……」
とりあえずこいつらから見えない所まで歩いていこう。飛ぶところを見せる気はない。さて、これなら余裕で夕食に間に合うな。残り魔力は一割を切って八分ってところか。これでもアレクの満タンよりかなり多いってのが無情なところだな。ん? それならやはり私が穴掘りをするべきだったのか? まあいっか。
「どうしたってんだポルトニー?」
「ようやく思い出したぜ……あいつぁ魔王だ……」
「はぁ? 魔王だ? 何だそれ?」
「オワダでエチゴヤが潰れた噂ぐらい聞いてんだろ? あいつだ……」
「はあっ!? マジで!? あんな魔力も感じねぇガキがかぁ!?」
「天都の六等星パープルヘイズの『乱武』ジンマもイチモクらしいぜ……俺らぁヤバかったんだぜ?」
「あんなガキがエチゴヤぁ潰したってのか……」
「魔王だとぉ……?」
「くそが……」
「おらぁ! 手当は済んだんだろぉが! さっさと立てや! せめて落ちてる金ぐれぇ拾わねぇとタダ働きんなんぞ!」
リーダーであるポルトニーの機転により彼らヘルタスケルタは一命をとりとめた。




