284、魔王の慈悲
だいたい予想通り、街の中心部からほんの少し外れた所に治療院はあった。
さほど混んでおらずささっと診てもらった。初診料二万ナラー。やっぱどこの国も治療院は高いな。なんだよ初診料って……ローランド王国にはそんなのないぞ。
「手の施しようがありません。よく生きてますね。神の霊薬エリクサーでもない限り治らないと思いますよ」
魔力を全身に廻らせて何やらチェックをしてから治癒魔法使いは言った。
「どこが悪いんですかね?」
「ほとんどの臓腑ですね。ほぼ働いてませんよ。本当によく生きてますね」
「なるほど。ありがとうございました。」
まあ当然か。これって母上なら治せるのかな? よく分からないな。分からないけど、フォルノはラッキーだったね。ちなみに診察料ってことでさらに五千ナラー払った。まあいいけどさ……
そのまま自宅へ連れ帰った……
「アレク、覚醒を使ってよ。」
「いいわよ。」
『覚醒』
さて、効くかな?
「ぬ……」
「起きろ。起きてこれを飲め。」
直径一センチほどの黒い球。
「ぬっ……あぁ……?」
「いいから飲め。」
『水操』
無理矢理口を開かせて水で流し込む。気管に入ったらどうしよう?
「ぬべえぇ……にげええぇぇ……」
吐きそうな顔をしてやがるが吐かせないぞ。
「ぬぐっうっ、はらが……熱い……くぬぅーー!」
へー。そんなことが起こるのか。
あらら、畳の上をのたうち回ってるぞ。大丈夫なのか? うわ、めっちゃ汗かいてる。うげぇ汗がドス黒い……畳に染みまくってるじゃないか。けっこう臭いし。あーあ、せっかくの畳が……仕方ないなぁもう。『浄化』
きれいにしてやるよ。
「ぬぶぅ……くぅぬう……あぉっげっ……」
気休めにポーションを水で薄めて飲ませてやろう。水分が必要と見た。ついでにオラカンやリモンの実も絞って飲ませてやる。これ絶対健康にいいやつだよな。
「ぬっぼ……ぐあっば……あぁ……」
のたうち回ること十五分。ようやく落ち着いたようでスヤスヤと眠ってしまった。今日はここまでだな。
「これなら問題なく治りそうね。さすがは神の恵み『万能薬』ね。たぶんエリクサーなら一瞬にして痛みすらなく治ったんでしょうけど。これでも充分過ぎる効き目だわ。そんな万能薬を迷わず使ってあげるなんてさすがカースね。やっぱり慈悲深いのね。名目上の身分は平民でも心は貴族! 本当に素敵だわ。」
ボロは着てても心はクタナツってね。まあ私達はボロどころか錦、いや龍を着てるけどさ。
「いやぁ照れるなあ。どうせ僕らには使い道がなさそうだしね。じゃあ帰ろうか。こいつはこのまま寝かせておいた方がいいだろうからね。」
「ええ、特に見張っておく必要もないと思うわ。枕元に水をたっぷり置いておけばいいわね。」
そして外に出るためにぼろい扉を開けようとしたら、取手が私の手からするりと離れた。
「おっとっと。ん?」
「ま、魔王様……これはどうしたこと……ですか!?」
客室係が帰ってきた。こいつは仕事じゃなかったのか?
「ああおかえり。フォルノが倒れたから寝かせてやったんだよ。」
「違うわよ。治療院に連れて行ってあげたら手の施しようがないと匙を放られたわ。それをカースがカゲキョーの神から授かった『万能薬』で救ったのよ。カースに感謝することね。」
おおアレク。的確な説明だ。
「なっ!? 万能薬……ですか!? もしや迷宮の品ですか!?」
「ああ。カゲキョー迷宮で神から直々に貰ったものだ。別に対価を寄越せなんて言わないから気にするな。こいつにはその分働いてもらうだけだ。」
「うっ……うおおおおおーーーー! うおおおおおーーーーん! あなたは! なんて! なんて慈悲深い! あなたがそうなのか! それともローランドの方は皆そうなのか! たった一つしかない万能薬を! 行きずりの兄貴のために! なんて! なんて心優しいお方! 魔王様、いや大魔王様と呼ばせてください!」
「やめろ。さすがにそれは恥ずかしい。魔王でいいよ。じゃあ俺達は帰るから、看病してやれよ?」
「はい! ありがとうございます! やはり休みなのに無理に出勤して……お願いして正解でした! 何も返せるものなどありませんが! 兄貴が目を覚ましたらよく言い聞かせておきます! 本当にありがとうございます!」
万能薬が一つしかないと勘違いしているけど、それはそれでいいだろう。こうやって素直に感謝されると使って良かったって思えるしね。
「ついでだからこれも置いていく。この実や水で割って飲ませるといい。ローランド産の高級ポーションだからな。一気に飲ませるなよ?」
先ほど封を切ったポーションと果実を置いていく。私の魔力庫なら劣化などしないが、まあ気持ちだ。
「ありがとうございます! このご恩は終生忘れません!」
「ああ、また明日の夜にでも顔を出すわ。だから朝は起こすなよ?」
「は、はいっ! 失礼しました!」
これでいい。
「さてアレク。だいぶ待たせてしまったね。まだ昼には早いから中心部を散歩してみない?」
「待ってなんかないわよ。私、カースの素敵な姿が見れて本当に幸せよ。と言うよりカースが素敵じゃない時なんかないのが本音なんだけどね?」
「はは、もうアレクったら。そんなこと言われたら照れるよもう。アレクだっていつも綺麗で輝いているよね。きっと暗闇にいても目立ってしまうよね。」
「カースったら……ありがとう。大好き……//」
ぬふふ。街中だってのに容赦なく私の頬に口付けしてくれるアレク。可愛さがとどまるところを知らないな。
「ヒュー! こぉーんな街ン中で見せつけてくれんじゃねぇかー」
「ヒヒッ、見かけねぇ面だぜ? どこのモンよ?」
「女の方ぁメリケインのモンか? たまんねー面ぁしてんなあー」
街でイチャイチャしてると絡まれる。イチャイチャあるあるだな。




