257、分断
待て待て……天井が閉まってんじゃないか! いつの間に!? そんなのアリかよ! 嘘だろ!? マジで!?
とりあえず水面には出た……出たけど……
「困ったねコーちゃん。あの上ってすり抜けられる?」
コーちゃんってどこでも通過できちゃうもんね。
「ピュイピュイ」
だめ? あそこを抜けても変な所に出る?
マジかよ……
「ピュイピュイ」
あー、カムイが落ちたのを知らせてくれた時はギリギリ閉まる直前だったのね……
だが、あの時は上から床をブチ抜けば解決できた。ならば、下から天井をブチ抜いても同じはずだ。だが、それはまだ後の話だ。今はまだ焦る時ではない。上にはアレクがいるんだ。つまり、ある程度の時間を置けば再び落とし穴を開くことができる。私はそれをのんびり待っていればいいだけだ。ね、コーちゃん。
「ピュイピュイ」
再び落とし穴が開くのはだいたい一時間後ってとこだろう。そのぐらい待つのは何てことない。せっかくだから内部調査といくかな。でもその前に……『伝言』
アレクに心配いらないってメッセージを送ろうとしたのだが……届かない……
距離的には数メイルしか離れてないはずのアレクに……これはつまりコーちゃんが言うように蓋が閉まってる間は別空間ということだろうか? 意味が分からん……
まあいい……とりあえず……
『光源』
改めて見てみると……広さは一辺十メイルの正方形ってとこか。ここを埋め尽くすほどのキモい蛇がいたんだよな。いや、ウナギかな? 深さも気になるよな。下から新たなウナギどもが現れて、私の氷壁すらぶち抜いてきたんだから。
『浮身』
ミスリルボードを取り出して水上の一メイル辺りに浮かべる。水からは離れておかないとな。
そして『乾燥』
装備のおかげで大して寒くはないが、不快だからな。とりあえず魔力ポーションを飲んでから、錬魔循環でもしていよう。こんな時こそ平常心が大事だからな。
あ、コーちゃん。魔物が出たら教えてね。
「ピュイピュイ」
時はサザールが水面に到達した時まで遡る。
サザールは水面に到達と同時に自らの魔力でカースの風壁を破っていた。
「はぁっ……はあ、ふぅはぁ……」
『浮身』
「うおっ!?」
荒く呼吸をしている最中に身体が浮き上がり、いささか取り乱すサザール。
「無事みたいね。カースに感謝しなさいよ。」
「はぁ……あぁ……もちろんだ……いくらムラサキメタリックの鎧を纏っていると言っても……先ほどは死を覚悟した……」
「で、カースは何してるの? どうせカースのことだから心配するだけ無駄なのは分かっているけど……」
そう言うアレクサンドリーネの足が微かに震えていることは、サザールでなくとも気付けるほどだった。
「正確には分からん……下から魔物が現れたように見えた……」
「そう……アンタを逃すための盾になったのね……カースのバカ……」
「ガウガウゥ!」
突如吠えたカムイ。何が言いたいのか……
「どうしたのカム……なっ!?」
アレクサンドリーネの目の前では、先ほどまで開いていた落とし穴が閉じようとしている。まるで窓が閉まるかのように、そうある状態が当然とでも言うかのように。
『氷壁』
『氷壁』
『氷壁』
何でもいい。隙間に噛ませれば穴は閉じない。そう考えたアレクサンドリーネだったが……無情にも、まるでそこに何もないかのように蓋は閉じていく……
「そんな!」
『氷塊弾』
『氷壁』
『降り注ぐ氷塊』
そんな抵抗も虚しく、穴は閉じていく。
「くっ! これなら!」
サザールは自らの鎧を魔力庫から取り出して隙間に噛ませた。だが……
「バカな!? この鎧ですら!?」
そこに何もないかのように、蓋が閉じるのを止められない……鎧は無惨にひしゃげ、半分になってしまった。
「カース!」
自らの手を間に挟もうとしたアレクサンドリーネだったが……
「バカ! やめろぉ!」
サザールによって引き剥がされた。
「私に触るなぁ!」
激昂したアレクサンドリーネの拳がサザールの頬を打つ。魔力も何も込められていない拳が歴戦の騎士に通じるはずもなく……
「落ち着け。あいつは魔王なのだろう? 問題あるのか?」
「そ……そうね……カースだもの……問題なんかあるはずないわ……」
「ガウガウ」
カムイの言葉を理解できる者はこの場にいない。だが、心は伝わったようだ。
「そうよね……カースだもの。それにコーちゃんだって一緒だし……心配するだけ無駄……分かってるんだから!」
「とりあえず一時間ほど待って、再び落とし穴を発動させるぞ……」
「分かってるわよ! それぐらい……」
アレクサンドリーネとカムイ、そしてサザール。三者三様の考えがある中、時は過ぎていく……




