253、深夜の来訪者
自家製サウナでアレクと一緒にいい汗かいて。
少し涼んでから入浴。それからピラミッドシェルター内でもさらにいい汗をかいた。
ふぅ……今夜もよく眠れそうだ。
コンコン……
シェルターをノックする音だ……
ガンガン……
「魔王、起きてくれ。来客だ……」
なんだよもう……いい気持ちで寝入りそうだったのに……
まあシェルターに穴を開けられるよりはいいか。あの時の穴は土の魔法で塞いではいるが。アレクはよく眠っているから起こさないように……『消音』
「来客? あー、赤兜か。もしかしてあれが例の一番隊?」
「ああ。一応紹介しておこう。赤兜騎士団の一番隊隊長のコグリス・レニタニ殿だ……」
「コグリス・レニタニだ。ナミクサから貴殿が魔王だと聞いたが?」
ナミクサって誰だよ……あぁ隊長か。サザール・ナミクサだっけ? よく覚えてたな私。
「本当に魔王かどうかはともかく、ただそう呼ばれているだけだ。名前はカース・マーティン。六等星冒険者をやってる。」
「ここまで来るような者がただの六等星であるはずもない。ナミクサからはくれぐれも丁重に対応しろと聞いた。当然の話だが私は強者には敬意を払う。」
ま、まともだ……赤兜は上になるほどまともになるのか……
「それはどうも。じゃ、俺は寝る。風呂は好きに入っていいからな。」
「待てよ! まだ隊長の話が済んでねんだよ! 冒険者のくせに調子に乗んなよ!」
おー、活きのいい若いもんか。いや、私の方が若いな。
「何かあるのか?」
「うちの者がすまない。貴殿は食料をたくさん持っているそうだな。いくらか融通してもらうことはできないだろうか?」
「あーなるほど。構わんよ。割高になるがいいか?」
「もちろんだ。このような場所なのだ。相場通りとはいくまい。」
「てめっ! 欲かいてんなよ!」
別に足元を見たり欲に目が眩んでいるわけでもない。
「行商人から街に届ける予定の食料をことごとく買ったからな。それで相場の五倍ほど払ったわけだ。その価格でよければ譲ろう。こちらに儲けはないからな?」
「五倍だぁ! ざけんなよテメェ!」
こいつさっきからうるさいな。
「それならやめとくか?」
「足元見てんなよ! てめ『徹甲弾』えぶっ」
安全地帯の外までぶっ飛ばしておいた。それにしても赤い鎧もそこそこ丈夫だよな。徹甲弾で穴が空かないんだから。
「交渉を有利に進めようとしてんじゃないぞ。お前は平和的に、若い者は威圧的にってか。まさかそれで上手くいくとでも思ってたのか? せっかく五倍でいいって言ってんのによ。」
私も鬼じゃないんだから暴言も三回はスルーした。だがさすがに四回目はアウトだ。
「貴様!」
「よくも!」
「このっ……!」
「待て。そんなつもりはなかったが、あいつを掣肘しなかったのは事実だ。すまない、こちらが悪かった。言い値で買わせてもらおう。」
「分かればいいんだよ。どれぐらいいる?」
とりあえず大きな箱を丸ごと出す。
「ほう。これは助かるな。この一箱だといくらだ?」
「えーと、これは……三百万ナラーだな。」
「貴様!」
「なっ!?」
「このっ!」
奇しくも一番最初の行商人から買ったやつだ。もちろん私に儲けなどないぞ?
「ふむ、確かに相場の五倍か……いいだろう。だがあいにくそれほどの現金などない。鉱石でどうだ?」
「いいぞ。モノによるけどな。」
「この紅柘榴石でどうだ? おそらく四、五百万ナラーにはなるだろう。」
へー、人差し指と親指で作った輪よりは小さいが、悪くないな。クリアな赤褐色ってとこか。これってガーネットかな? 赤系ならアレクに似合うからぜひ欲しいんだよな。髪飾りなんかにちょうどいいかも。
「隊長、適正か?」
「ああ、間違いなくそのぐらいはすると思う。」
宝石の目利きなんかできないからな。知ってそうな奴に聞くのが一番だ。隊長には契約魔法もかけてるし。
「いいだろう。その値段ならもう少しおまけしてやるよ。この肉も持ってけ。」
肉はかなり多めにあるからね。蛭が落とした肉なんてあんまり食べたくないし。どーんとサービスするぜー?
「それはかたじけない。いい魔力庫を持っているようだな。で、あの風呂だが入ってもいいのだな?」
「構わんよ。ちゃんとかけ湯をしてから入れよ?」
必要はないが気分の問題だからね。
「ではありがたく。よしお前達、分担して収納しておくぞ!」
「はっ!」
「うす!」
「はいっす!」
へー。均等に分けるのね。リスクヘッジってか? そんなことするぐらいなら魔力庫の設定を見直せばいいのに。
よし、今度こそ寝るぞ。次はシェルターに近寄らせないように……『氷壁』
こっち来んなよ?




