251、擬態魔物
地下四十五階を進み続けておよそ二時間が経過した。現れる魔物はウェアウルフ。いわゆる人狼かな。ウェアタイガーやウェアパンサーと比べて手強いかと言うと微妙だ。接近さえさせなければ。
カムイの例もあるし、きっと牙や爪はかなり鋭いはずだ。動きだってそれなりに素早い。絶対接近戦で相手なんかしてられない。
ちなみにここまでで宝箱は一つ。中身は爆裂するスライムだった。私じゃなければ死んでるな。まったく……
そして現在、行き止まりで二つ目の宝箱に遭遇した。開けてみよう。どれどれ……
『キョカカカーー!』
なんだこれ!? 箱の中からキモい舌が伸びてきて私を拘束しやがった! ぐっ、自動防御ごとかよ! しかも……舌から魔力を吸ってやがる! マジかこれ!
『金操』
手を使わず魔力庫から直接クリムゾンドラゴンの短剣を取り出して……
『ギャオオオーー!』
舌を切り取ってやった。
そして『徹甲弾』
箱ごとぶち壊す!
それからおまけだ……『豪炎』
全部燃えてしまえ。
ふぅ、終わった。擬態魔物ってやつか。おっ、何か落としてる。鉱石、原石かな? 艶やかな紫に輝いてるな。
「アレク、これ分かる?」
「あら、灰簾菫石の原石じゃない。珍しいわね。」
「ほう……それはすごいな。確か……」
あ、それってもしかしてタンザナイトのことかな? うん、きっとそうだ。
「なるほどね。いい使い道を思いついたよ。」
宝石の加工とくればダークエルフのクライフトさんだよな。こいつをオリハルコンと組み合わせて……指輪なんかいいんじゃないかな?
「それにしても危険な魔物だったわね。でもカースにかかればどうってことないわ。」
「いやー魔力を吸われて少し焦ったよ。」
思えば自動防御を張ってなければ直接私の胴体に巻き付いたはずなんだよな。そうすると直接素肌に触れるわけでないから吸い取れなかったはずだ。この程度の魔物がドラゴン装備越しに魔力を吸い取れるとはとても思えないからな。
もっとも、それで顔面に巻きつかれた日には一発アウトな気もするし。やっぱ安全第一だよね。
その点ムラサキメタリックのフルプレートならめっちゃ楽勝なんだろうな。身動きはできなくなりそうだけど、膠着してしまうだろうな。その隙に他の奴が舌を叩き斬ればいいだけだし。もしかして赤兜が二十人ぐらいいたらマウントイーターにも勝てたりしないか?
「それにしても、あのミミックに襲われて無傷とはな……やはり魔王と呼ばれるのは伊達ではないのだな……」
「お前らでも楽勝だろ?」
「相手があれだと分かっているのならな……」
あー、そりゃ魔力を吸い取るタイプの擬態魔物とは限らないのか。確か金属による攻撃が効かない魔物もいるって話だったな。てことは魔弾や白弾も効かないってことか。にわかには信じがたいが、会えば分かるよな。
それからさらに二時間。ようやく安全地帯を発見した。赤兜の一番隊はいないようだ。私達の方が早いのか、それとも遅いのかどっちだろう。どうでもいいや。あー疲れた腹減った。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
分かってるって。コーちゃんはまず酒ね。カムイは手洗いしてやるから待てって。それは飯の後。まったく、カムイは甘えん坊なんだから。さーて、何を焼こうかなー。
「カース、私が何か作るわ。たまには手の込んだものも食べてもらいたいもの。サザール、手伝いなさい。」
「ああ、分かった……」
ここには当然キッチンなどというものはない。だからアレクは氷の魔法で台になるものを作ったり、手持ちの道具をあれこれ出して料理を始めた。アレクとしては使用人を使う感覚なのだろうが、隊長と並んで料理をされると……どことなく新婚仲良し夫婦感が……出るわけないか。高貴な人間が自然と人を使ってるだけだな。よし、ならばその間にカムイを洗ってやろう。コーちゃんはこれでも飲みながら待っててね。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
今日は少し趣向を変えて……洗う前に……
『風壁』
『水球』
『点火』
お手製のサウナルームだ。さあカムイ、一緒にいい汗かこうぜ。洗うのはひと汗かいてからな。
「ガウ……」
くぅう暑い。我ながらいい魔法の使い方してるよな。汗がポタポタ落ちるよ。なーカムイ。
「ガウガウ」
喉が渇いた? ほれ水球。私も飲もう。ふー、冷たくて旨い!
さーて、だいたい十五分ぐらい経ったかな。少し休憩な。
『風壁解除』
『水壁』
うおー冷やっ! めっちゃ冷たい!
「ガウガウ」
そうでもない? そりゃお前の毛皮のせいだろ。こいつは暑さにも寒さにも強いんだから。アレクの料理はまだ時間がかかりそうだし、もう一回いくぜ!
「ガウガウ」
『風壁』
『水球』
『点火』
あ、ついでに『風操』
内部に気流を発生させた。こりゃまた……効くなあ……あっつ……
ふぅー……何分経ったかな……
暑すぎて時間の感覚がよく分からなくなってきた。
「ガウガウ」
さっきの半分も経ってない? カムイは平気なのかよ……まあいいや。さっきと同じ時間が経過したら教えてくれよ。
「ガウ」
「ピュイー」
あらコーちゃん、おかわり? 私の強固な風壁だろうと普通に入ってくるんだからもー。
「ピュイピュイッピ」
おおー、ここが気持ちいいの? それはよかった。そういやコーちゃんは熱いの好きだもんね。お湯は好きじゃないくせに。
「ガウガウ」
おっ、やっと十五分か……『風壁解じ……』やめた。私が外に出よう。コーちゃんが楽しんでるからな。カムイ、出るぞ。洗ってやるから。
「ガウ」
『水壁』
ふぅー! 冷たっ! 常温の水だけどめっちゃ冷たい! はぁー気持ちいい……
こりゃマギトレントのサウナルームを作ることも視野に入れないとな。毎回魔法でも構わないが、どうせならいい設備が欲しいし。もしくは領都と楽園の自宅に据え置いてもいいな。帰ったら検討だな。あー気持ちいい。
さて、水に浸かってリフレッシュしたことだし、カムイをしっかり洗ってやろうかね。
『無痛狂心』
まだ全身痛いんだからな。それでも手洗いするんだから感謝しろよ?
「ガウガウ」
その代わりボスの相手はしてやるって? それはお前が戦いたいだけのくせに。
「カース、お待たせ。できたわよ。」
「おおー! 今行くね!」
うほー! いい匂いが漂ってるじゃないか! 今夜はご馳走たーい!




