245、虎の毛皮の使い道
結局私達が風呂から上がると、隊長は酔い潰れて寝ていた。酒好きだけど案外弱いのか? それならそれで構わないけどね。アレクとピラミッドシェルターの中でイチャイチャするんだから。腹にローブぐらいかけておいてやるよ。ではまた明日。
うぅーん、よく寝た。朝かな。シェルターの外に出てみると隊長の奴、もう起きてやがった。
「おはよ。早いな。」
「おはよう。遅いな。もうすぐ昼だぞ……」
あらら、そんなに寝てたのか。まあいいや。
「何か食べるか? いや、もう食べたか?」
「いや、そのうち起きてくるだろうと待っていたらこの時間だ。今朝は私が用意する。しばし待ってもらおうか……」
へー、騎士の料理か。どんなのか興味あるな。
ほうほう。テキパキと簡易竈門を組んで水を沸かし始めた。いや、違う。水ではない。何かの出汁か。温度が上がってきたらそこに投入されるのは具。豆腐、油揚げ、それからワカメか。ということは最後に……味噌!
「待たせたな。まあ飲んでくれ……」
「もらおう。」
いただきます……こ、この香りは……
味噌汁だ……ヒイズルに来てから何度も飲んだ味噌汁ではない。まるで前世で幾度となく飲んでいたような味噌汁だ……旨い……
一体何が違うというんだ?
「旨いな。オワダでも結構飲んだんだが、微妙に違う。何が違うんだ?」
「おそらく味噌が違うんだろう。ヒイズルの西側、特にオワダではローランド王国の影響が少なからずあるからな。逆に東側ではメリケイン連合国の影響がある。そのせいで東西で味の違いがあるそうだ。私は東側、天都の生まれだからな……」
「天都風の味付けってことか?」
「そんなところだ。他国の者は味噌そのものを嫌がることも多いが貴様は違うようだな……」
旨いもんは旨いからな。
「おはよう。いい匂いをさせてるわね。」
「おはよ。アレクも飲もうよ。美味しいよ。」
「ええ、いただくわね。」
アレクが味噌汁を一口飲む。どうかな?
「シンプルで素朴な味ね。カースはこんな味も好きなのね?」
「そうなんだよ。アレクのハイカラな味も好きだけど、こんな味も好きなんだよね。」
アレクが作ると味噌汁でさえ洋風、いやローランド風の味付けになるからな。それはそれで旨いんだけど。
「ハイカラ……? でも分かったわ。今度挑戦してみるわね。」
「ならば、とりあえず間に合わせに私のを少し譲ろうではないか。」
こいつ酒だけでなくて料理の話でも饒舌になるのか? まあ味噌はありがたくもらっておくけど。
「ありがとな。いただくよ。それにしても隊長さぁ、剣も料理もいい腕してんのね。」
「やもめ暮らしが長い上に、あのような料理もできぬ若造を率いているとな……私が担当せねば焦げたまずい飯を食うはめになるわけだ……正気に戻してくれて感謝している……」
ふーん。人生色々あるわな。
「さあ、こちらも炊けたぞ。ぜひ食べてくれ。」
おっ、炊き立てご飯、野外での飯盒炊飯か。いいねぇ。カレーが食べたくなってしまうな。
ふー、おいしかった。いやー朝からご機嫌だね。
「よし、それじゃあそろそろ行こうか。隊長は適当に後を警戒しててくれよ。先頭はこっちで引き受けるから。」
「分かった。気をつけるのだぞ?」
まあ罠も魔物もまとめて轢いてしまうんだけどね。
『氷壁』
いつも通り氷の円柱をごろごろ転がす。
『われわれの 手先となりて 氷壁 迷宮ころころ 転がっていけ』
ふふ、つい一句詠んでしまった。
おっと、ウェアタイガーだ。こいつらって生意気に氷壁を叩き割りやがるもんな。でも目を狙って『狙撃』
おっ、珍しく魔石を落としやがった。これはキープだな。色々使い道がありそうだ。
そうしてたくさんのウェアタイガーや数々の罠を乗り越えて、ようやくボス部屋に到着した。
「あれだけもの魔法を使って魔力は足りているのか? 途中でポーションなどを飲んだようにも見えなかったが……」
「ああ、問題ないさ。ついでだからここも任せてもらおうか。」
「あ、ああ……」
一割も減ってない。紫弾や白弾を使わない限りそうそう魔力が減りはしないもんな。
お、ボスが姿を現したな。やはりウェアタイガーか。身の丈四メイルってとこかな?
『徹甲魔弾』
終わりだ。てっきり頭がなくなると思ったが意外にも頭がひしゃげる程度で済んでやがる。やはりこの階層でボスを務めるだけあるんだろうな。やるもんだ。
「な……何だ今のは……」
「魔法だよ。どんな魔法かは内緒な。」
ミスリルの徹甲弾をぶっ飛ばしてるだけなんだけどね。
「カースは凄いのよ。ローランドでは魔王と呼ばれて国王陛下ですら一目置くほどの男なんだから。」
「ま、魔王……」
「別に信じなくてもいいのよ? でもローランド王国で魔王カースの名前を知らない者はいないわ。」
顔を知らない者はめっちゃたくさんいるんだけどね。
「そ、そうか……いい事を教えてくれた……」
さて、ここのボスが落としたのは……また虎柄の毛皮かよ。使い道ねーなー。うーん、虎柄ねぇ……
あ、ビキニなんてどうだ? どうせアレクにビキニを作る予定だったし。虎柄のビキニで雷の魔法なんか使った日には……
『カース、おしおきだっちゃ』
ふふ、私は浮気なんかしないからお仕置きされることもないんだけどね。どこで作ろうかな。どこか大きな街に着いたら考えよう。そうしよう。




