239、炸裂する氷の上級魔法
扉を開きボス部屋に入る。うわ、めっちゃ広いぞ? 目測ではよく分からないが一辺二百メイルはある立方体か?
おっ、ボスが姿を現した。やはり定番、無数のオーガベアだ。身の丈五メイルってとこか。赤兜の奴らはこんなヤバい奴らにどうやって勝ったんだろうな……
「よし、じゃあたまにはみんなでやろうか。四隅に散らばって目の前のオーガベアを倒すってことで!」
「いいわね! 負けないわよ!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんがどう戦うのか気になるが、まあいい。よし、開始だ!
本当は部屋ごとまとめて真空とかにしてやったら早いんだろうけどね。
オーガベアの上を飛び越えて、右奥の隅に位置する。うお……わらわら集まってきやがるな。
『風斬』
『風斬』
『風斬』
ちっ、やはり斬れないな……おっと、生意気に何かを投げてきやがる。石に棒きれか……どこから出したんだよ。
『風斬』
『風斬』
『風斬』
斬れない……
母上の風斬ならこいつらの強靭な毛皮ですら斬り裂くだろうに私ときたら……
もっと、細く……
もっと、薄く……
そして魔力を減らす……
『風斬』
『風斬』
『風斬』
もっと薄く……
魔力を絞り……
一瞬だけ魔力を……
『風斬』
『風斬』
『風斬』
これはこれで頭が痛いな……
魔力はほとんど消費してないってのに。きっつ……
ふぅ、今回はここまでにしておこう。
『水球』
『水球』
『水球』
いくら毛皮が強靭だろうが呼吸ができなければ死ぬよな。アレクがよくやるやつ、頭部を水で覆ってやる。
もがきながらも色んなものを投げつけてくるが、そんなの当たるかよ。この部屋は天井が高くてよかったな。距離をとり放題だ。
よし、ここはもういいや。みんなはどうかな?
『隠形』
高みの見物しーよおっと。まずはカムイはどうかな。
「ガガァ」
おお、悔しいが私の風斬とはレベルが違うな。オーガベアの毛皮を苦もなく切り裂いてやがる。さすがはカムイだな。
よし、ここは問題なし。次は……
アレクはどうかなー。
『氷弾』
『氷塊弾』
『氷刃』
ほほう、一匹のオーガベアだけに攻撃を集中させているな。だが、効いてない……
さすがにこいつらの毛皮は丈夫だもんな。
『氷棘』
お? 奴らの足元から無数の棘が生えた!
ほほう、グギャグギャ言ってやがる。ダメージはなさそうだが少しは痛そうにしてやがる。
『氷刃旋風』
きたぁ! アレクの必殺魔法!
数匹のオーガベアをザクザクに斬り刻んでいく!
やったか!?
やってない……くっ、こいつらの毛皮ってマジ強靭だよな……がんばれアレク!
よし、次はコーちゃんだ。どうなんだ?
「ピュイピュイ」
うーん、隠形を使ってるのに全然だめだ。私が近付くやいなや頭をふりふりするじゃないか。バレバレか。
「ピュイピュイ」
オーガさんこちら? 尾の鳴る方へ? なにそれ……
コーちゃんは一匹も仕留めてない。そして迫りくるオーガベアを相手に狼ごっこをしている。でもそれって、相手にならないよな……
この体格差でコーちゃんを捕まえるって不可能だよな。よし、アレクの加勢に行こう。
『隠形解除』
「アレク、調子はどう?」
天井ギリギリまで浮かびオーガベアから距離をとっている。さすがアレク、慎重派だね。
「カース……だめ。氷の魔法だけで勝ちたいと思ってやってるんだけど、全然効いてないわ。」
うーん、アレクもテーマを持って戦ってるんだね。偉い。私は早々と諦めてしまったけど。
「うーん、あいつらやたら頑丈だよね。僕も早々と諦めて水の魔法で顔を覆ってやったよ。」
「それはいい手よね。あいつら魔力はろくにないもの。じゃあ、最後に大きな魔法を使ってみるわ。これでダメだったら後は頼むわね。」
「いいよ。頑張って!」
おお……アレクが魔力を練っている……
そして徐々に高まっていく……
「いくわ!」
『ニョーシュースー イニュウカー イーチーミー セシューシン コウジョーゴー 永久なる氷の大河よ 万物を拒絶し 凍え吹き閉じよ 凍てつく氷河』
うおっ、これは珍しい! きっちり詠唱した氷の上級魔法『凍てつく氷河』じゃないか。上級魔法にしてはノロいんだよな……氷の壁が屹立しオーガベアへと迫っていく。もちろんそれで逃げ出すような魔物ではない。壁に立ち向かい剛腕を振るう。
だが、鋭く強靭な爪を突き立てるも表面に傷がつくのみで、氷の壁は壊れない。じわじわと強固な侵攻がオーガベアの群れを追い詰めていく。
そこそこの広さを持つボス部屋が徐々に氷に浸食されていく……
狂わんばかりに暴れるオーガベアだったが、ついに動ける隙間すらなくなるほどに追い詰められたか。それでも無慈悲な氷は侵攻を止めない。ゆっくりと、しかし確実にボス部屋を埋め尽くしていく……




