237、クワナ・フクナガの素性
「クワナ・フクナガだと? 貴様その名をどこで知ったのだ!?」
おお、えらく反応してくれるじゃないか。
「ローランド王国でな。とある子供武闘会で優勝してたぞ。で、クワナは何者なんだ?」
ハンデありとは言え、スティード君に勝つほどの奴なんだよな。
「現在ヒイズルにフクナガ家はない。六年前の反乱でお家断絶の憂き目にあったからだ。よって、そのお方がフクナガを名乗っているのならばフクナガ家の最後の生き残り、嫡子クワナ様その人ということになる。」
あれ? 予想と違うな。てっきり前天王妃の息子かと思ったのに。
「そのクワナかどうかは知らんが、そいつからアスカ・フルカワへ手紙を預かってるんだよな。天都に行ったら渡すつもりなんだが。」
「フクナガ家はアスカ妃殿下のご実家だ。ご長女テンリ殿下がジュダ陛下と婚姻しフルカワ天王家をお継ぎになったため、クワナ殿下はフクナガ家の家督を継ぐべく養子に行かれたのだ。」
なんだ、やっぱり前天王妃の息子なんじゃん。クワナの奴も始めからそう言えばいいものを。もったいぶりやがって。
「で、結局お前らの忠誠はどっちに向いてんだ? いまいちよく分からなくなったぞ?」
「くっ……我らはヒイズルの騎士だ。天王家に決まっている……」
「ジュダに忠誠を尽くす価値なんてあるのか?」
どうも胡散臭い奴なんだもんな。
「わ、我らは……ヒイズルのために、お国のため、民のために……」
あらあら。わざわざジュダって呼び捨てにしたのに反応なしかよ。
「民のためか。地上ではカゲキョーの民が食料が足りなくて困ってる頃だと思うがな。お前らほど誠実で優秀そうな騎士を手駒としか思っておらず、民を飢えさせる王に忠誠を尽くすのか?」
「なっ!? それは誠か!? 一体なぜ? 飢饉の兆候などなかったはずだが……」
「さすがにそんな事情までは知らないさ。すぐこの迷宮に入ったんだからな。で、世の中には人民の騎士や流浪の騎士といった苦しむ民のためにこそ力を振るう偉大な男がいるそうだが、お前らは違うのか?」
それにしてもこの隊長、よく喋るよなぁ。聞けば何でも話してくれるんじゃないか?
「民のため……」
「隊長! 迷うことはない!」
「そうだ! 我らはヒイズルという国に忠誠を誓っているんだ! もし天王家が道を違えたならば! それを正すのも忠臣の役目だ!」
「民が飢えているのなら! ここで手に入れた我らの素材が役に立つはずだろう!」
「四十階に降りるのはきついがここから三十階に戻るのはそこまででもない!」
「どうする隊長!」
こいつら揃いも揃って素直だわぁ……私の言うことを信じてるのか? そりゃあ嘘はついてないけどさ。
「もし魔力庫に余裕があるなら肉を何かと交換してもいいぞ。こっちはかなり余ってるからな。何なら酒もあるし。」
「頼めるか……希望の素材はあるか?」
「なら、宝石類、もしくは何か鉱石はあるか? そちらの言い値での交換で構わんぞ。」
私の魔力庫はまだまだ余裕はあるが、いくらなんでも肉が多すぎるからな。
「ならば、こんなのはどうだ? 『火の魔石』『水の魔石』『風の魔石』だ。」
「いいね。じゃあこっちからはこの肉を出そう。」
何階だったか忘れたけど蛭や蛞蝓から手に入れたやつがトン単位であるんだよな。
「ほう……大量だな。ありがたくいただこう。」
契約成立だな。この魔石もやはりアレクに持っていてもらおう。
「こんなもんでいいのか? まだあるが。」
「さすがに魔力庫が限界だ。帰り道でもまた増えるだろうしな。」
「そうか。頑張ってくれ。そして無能な王から民を守ってやってくれ。ローランド人の俺が言うことじゃないけどな。」
「ああ、言われるまでもない。覚悟は決まった。いいな、お前達? まずは民の安全を第一に行動するぞ!」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
「やろう隊長!」
ほんっと単純な奴ら……騙してないけどなんだか悪いことしてる気分になってきたよ。
「それはそうとセキヤ・ゴコウのことは知ってるのか?」
「いや、初めて聞く名前だ。ゴコウ家も聞いたことのない家名だ。」
「自分のことをヒイズルの勇者と呼んでいたけどな。」
「いや、ますます分からん。変わった奴もいるものだな。」
じゃあ一体何だったんだ? セキヤには契約魔法をかけて全て正直に吐かせたんだが。なのにあいつの口からクワナの素性は出てこなかった。私の質問の仕方が甘かったのか、そもそも知らないのか。まあどうでもいいか。
「もう行くのか?」
「ああ、戻ると決めたからにはじっとしておれん。貴様達も気をつけるのだぞ。四十階から下はかなり危険だ。まだ誰も四十五階までしか到達できてないのだから。」
「おお、忠告ありがとよ。ついでに一つ質問。落とし穴があるよな? その中に巨大な鰐が何匹もいるパターンがあると思うんだが、あの鰐ってどんな素材を落とすんだ?」
逃した魚は大きいからな。せめて何だったのか知っておけば少しは小さくなるだろう。
「クルーエルクロコダイルか……あれは落ちたら助からない罠だ……穴が開いて五分もしないうちに蓋が閉まるしな……」
「あー、誰も鰐を倒してないってことな。分かった。それで充分だ。じゃあな。無事に地上に出られることを祈っておくよ。」
「お気をつけて。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「ありがとう。ローランドからの旅人達よ。君達の行く先に栄光があらんことを。」
そう言って六人は安全地帯を出ていった。ヒイズルに来てあそこまでまともな騎士に出会えるとは……
ローランド王国だってバンダルゴウやラフォートの騎士は酷いもんだったのに。あんな奴らがいるとはね。数が少ないとは思うが、戦えば苦戦するだろうな。いい奴とは戦いたくないものだな……




