218、迷宮の罠
地下二十一階か。ここからは気を引き締めていかないとな。おっ、早速魔物が現れたぞ。ほほぅ、オークか。
『風斬』
おおー! ついに雑魚が素材を落としたぞ! でも少ないな……肉が一キロムってとこか。ご丁寧に何かの葉で包まれてやがる。マジでゲームかよ。ここの神は性格が悪いのか親切なのか分からなくなってしまったぞ。だって芋虫や蛭の肉は地面に直置きだったし。
うーん野菜も欲しくなってきたな。この葉っぱは食べられるのだろうか。まあ野菜なら魔力庫にどっさり入ってるけどさ。
さて、罠に注意しながら進まないとな。赤兜が言うには床に踏んではいけない所があるそうだ。二十〜二十九階は比較的分かりやすいとか。おっ、あれかな。つなぎ目のないフラットな地面にあからさまな色違い。二十センチ四方の赤い正方形が見えるではないか。どれ、踏んでみよう。
ポチっとな。
おおー頭上から矢が一本飛んできた。これに毒が塗られてたり塗られてなかったりするわけね。当然私には当たらないが赤兜にも効かないんだろうな。あいつらいい鎧を着けてるもんなぁ。
「こんな感じで罠があるみたいだから気をつけようね。」
「ちょっと気になるわね。カース、もう一度踏んでみてくれる?」
「いいよ。」
さて、どうなる?
「どうにもならないね。一度きりなのかな?」
「私も踏んでみるわね。」
「何も起こらないね。一度踏んだらしばらくは安全ってことかな。」
「ガウガウ」
カムイが踏んでも結果は同じだった。やはり一度踏んだらしばらくは安全だと見ていいだろう。もっとも、そう思わせて……ってことも考えられるが。
それからは私を先頭に歩き始めた。とりあえず目についた罠は全部踏んでみた。これも勉強ってことで。赤い正方形は足元だけでなく壁にも見えた。そんな所の罠にかかる奴なんているのか? とりあえず不動で押してみた。すると、矢ではなく何やらガスが噴き出てきたではないか。どうせ自動防御を張ってるから関係はないのだが。色んな罠があるものだ。なお、そのタイミングで襲ってきたオークはガスを吸ったらしく倒れてしまった。なんだかなぁ……
つまり、罠であるはずの矢も魔物を倒すのに利用するのがここの迷宮の戦い方ってことかもね。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
えっ!? 遊びに行くって? 一体どこに……
あ、行っちゃった……
「カース、コーちゃん達はどうしたの?」
「うーん、遊びに行くんだって。たぶんここまでが退屈だったんじゃないかな?」
特にカムイは思いっきり走りたかったのかも知れないな。あいつにしてはノロノロとここまで来てしまったし。まあいいか。これなら本当の意味でアレクと二人っきりだ。
「アレク、こっちに来てくれる?」
「ええ。分かってるわ。久しぶりに一緒に歩くのもいいわね。」
そう言って私の左手に腕を絡ませてくれた。やっぱこれはいいね。腕を組んでデート開始だ。
「あ、そこ足元注意だね。」
「でもあれって踏む人っているのかしら?」
「どうなのかな。実はこの階はただの顔見せ的なやつで本番は二十二階からとかね。」
「イグドラシルでのことを考えると、ここの神ってえらく親切なのかしら?」
「それはそうかも。でも油断はできないよね。まあこの階はデートと洒落込もうね。」
「ふふ、カース大好き!」
いやー照れるな。ちなみにこうしている間にもオークはそれなりに現れているが全部風斬一撃だ。この階はもうデートモードだな。あー楽しい。アレクと他愛ない話をしながら迷宮行。うーん、いいね。世界にアレクと私しかいないかのようだ。オークは襲ってくるけど。今夜はオーク肉でバーベキューかな。オークならここでゲットしなくても魔力庫にどっさり入ってるけど。それより地上はどうなってるのかな。少しは混乱してるといいんだけど。
「どうなっておるか! 赤兜どもは何をしておる!」
「わ、分かりません! ほとんどが逐電してしまいました! 残った者どもも平の騎士どもとの戦闘で重傷を負っておりまして……」
「主力の奴らはまだ戻らぬのか!」
「や、奴らは最深部を目指しております……少なくとも地下五十階を攻略するまでは帰ってこないかと……」
「伝令を飛ばせ! 残った赤兜を行かせろ! 奴らを全員戻せ!」
「はっ! ただちに!」
カゲキョーの街は混乱の極みにあった。食料は足りない。赤兜は街中で略奪を働いた末に逃亡。赤兜以外の騎士はほとんどが迷宮に入っていった。方々から押し寄せた冒険者も似たようなものだ。街で一通り無法な真似をしてから、やはり迷宮に潜っていった。
中でも一番迷惑を被っているのは一般の民だった。
「どうする……もう食べる物などないぞ……」
「全部騎士や冒険者が略奪して行きおった……」
「噂では行商人どもはそこらの村からも悉く食料を買い集めたそうだな……しかも売り払った後だとか……」
「一体どうしたらいいんだ……」
カゲキョーの街は一体どうなってしまうのか……




