211、省エネカース
あー美味しかった。少し昼寝をしようかな。カムイはボスを頼むな。
「ガウガウ」
分かってるって。夜はちゃんと手洗いてしてやるって。ふぁーあ、アレクの膝枕でおやすみ。この階では私って何もしてないのに。でも眠いんだもん。
あーよく寝た。
「おはよ……」
「おはよう。可愛らしい寝顔を堪能させてもらったわよ。」
「あはは……」
照れるな。さーて、落ちてる魔石はと……一個か。一時間ぐらいしか寝てないんだな。
「よし、じゃあ三階に降りようか。」
「ええ、次も私がやるわね。」
「分かった。任せるね。」
アレクやカムイにばかり戦わせて、私は見物。これはヒモ状態なのか?
ムラサキメタリックは惜しいがほとんどをここに放置していく。どうにか無理矢理一セットだけは収納してみたが……はぁ、寝起きで本当に疲れる……
地下三階。やはり景色に変化はない。相変わらず五メイル四方の正方形を立てたような通路が続いている。遠近感がおかしくなりそうだ。
しばらく歩くと最初の魔物と遭遇した。今度はコヨーテか?
『氷弾』
あ、珍しくアレクが外した。五匹中四匹は仕留めたのに。さすがにコヨーテは動きが速いんだな。
『氷弾』
アレクは気を取り直して仕留めた。四足歩行だけあって、ここの魔物は速度注意だな。まあカムイのスピードに比べたら何ほどのこともないけど。
「お見事。落ち着いて対処できたね。」
「少し驚いたわ。四つ足の魔物って意外と鋭い動きをするのね。油断できないわ。」
「そうだね。油断せずに行こう。」
カムイの背に乗ってるだけの私が言うことではないけどね。
それにしても、だいぶ傾向が見えてきたな。早ければ一分で現れたり、二十分ほど現れないこともある。一匹の時もあれば十匹の時もある。平均すると八分に一回、五匹ほど現れる感じかな。
ちなみにアレクは魔物が一匹の時はサウザンドミヅチの短剣で相手をしている。それなりに苦戦はしているが、それもいい経験だよな。アレク偉い。
そんな感じで歩いているとボス部屋に着いた。
「アレク、頑張ってね!」
「ええ、少し待っててね。」
扉を開け中に入ると早速現れた。身の丈五メイルのコヨーテ。普通ならどう考えても猛獣だよな。もし現代日本に現れたら……猟友会総出動か?
『吹雪ける氷嵐』
いきなり上級魔法か。アレクは本気だな。でもコヨーテの毛皮に低温魔法は効くのか……? おお、見る見る凍りついて動きが止まった!
『氷弾』
そこにじっくり魔力を込めた氷弾を一発。うん、見事な戦闘運びだね。
「お見事だったね。少し慎重すぎる気もするけど、初めての魔物だから丁度いいよね。」
「ありがとう。やっぱりあの大きさには油断できないものね。でもやっぱり魔石しか落とさないみたいね。」
少しは大きいけどね。いくらかな? 三百ナラーぐらいかな? いや、さすがにもっとするだろ。それにしても不思議だよな。ローランド王国では魔石って色んな魔道具の燃料として使われてるけど、海を隔てたここヒイズルでも同じように使われてるなんてなぁ。
よし、次は四階だ。そろそろ私も動こうかな。あまり座りっぱなりも疲れるしね。そろそろ夕方な気もすることだし、この階はスパッと終わらせよう。
鉄ボード。
「アレク、乗って。ささっと終わらせるよ。」
「あら、そうなの?」
カムイは先導を頼むぜ。私が追いつける程度の速度でな。
「ガウ」
外なら私が飛ぶ方が速いが、さすがに迷宮内を全力で飛ぶことなんかできないからな。
ふふ、笑えてくる。五分ちょいでもうボス部屋に着いちゃったよ。カムイは反則だな。雑魚はスルーしちゃったし。
「ボスは僕がやるね。」
「ええ、任せたわ。」
よし、部屋の扉も問題なく開いたな。さーて、ここのボスは何かな?
おっ、サファギンだ。半魚人が出てくるとは意外だな。やはり身の丈五メイルか。『狙撃』
よし終わり。
「今夜はここで寝ようとも思ったんだけど、またカムイに番をさせるのも悪いから次の安全地帯まで行かない?」
「私はどっちでもいいわよ。カムイにばかり負担をかけるのも悪いものね。」
「ガウガウ」
手洗いさえしてくれるならどっちでもいいって? お前はタフだなぁ。よし、降りようか。
地下五階か。やはり変化なし。さーて安全地帯はどこかなー。地道に探すしかないんだよな。とりあえず適当に歩こう。この階の魔物は何が出るのかな。
おっ、出た!
緑の芋虫、クロウラーか。統一性がないなー。マジでここの神は何を考えてるんだろうね。
『風斬』
脳や心臓がどこにあるのかよく分からないから縦に三等分してみた。これなら確実に死ぬだろ。うん、問題なく消えた。
ここまでを思い起こしてみると、私達は魔物にほとんど先制攻撃を許したことがない。やっぱり索敵が敏感ってのは有利だよな。防御のことなど考えず先に殺してしまえばいいんだから。むしろ魔物に不利すぎて悪い気さえする。まあいいか。
さーて安全地帯はどこかなー。




