199、深夜の御用改め
カムイ達三人が風呂から出てきた。
「きもちよかったです! ありがとうございます!」
「お先でした。ヒイズルでは見たこともない木材を使った素晴らしい湯船、ありがとうございます」
「ガウガウ」
カムイの奴、あの子の洗い方が気に入らないから私に洗い直せと言っている。まったくもう。
「それはよかった。この湯船はローランド王国の上級貴族でもそうそう持ってないからな。木材を手に入れるだけで一苦労さ。」
「それはそれは。では、私達はお先に休ませていただきます。おやすみなさい」
「おやすみなさーい!」
さて、ここからはアレクと二人だけの時間だ。いや、カムイを洗うのが先か。この贅沢もんが。
風呂を出て、アレクと愛欲の時間を過ごしていたら……突如シェルター内にドンドンと音が響いた。うるせぇなぁ……誰だよ……
「ちょっと見てみるね。」
「何なら殺してやりなさいよ……」
アレクのお怒りはもっともだ。いいところだったんだから。特にアレクは……
唯一の出入口、天頂部を取り外して顔を出す。
「何か用か? いいとこなんだから邪魔して欲しくないんだがな。」
「御用改めだ! 大人しく調べを受けよ!」
騎士か? こんな場所でこんな時間に御用改めって意味が分からん。まったく……『換装』
「何を調べるんだ? 言っとくが、中は見せんぞ。うちのハニーは今裸だからな。」
そう言って騎士の手に小判を握らせる。十万ナラーは大金だからな。どうせヒイズルの騎士はどいつもこいつも腐ってんだろ?
「ほう? 分かっておるではないか。で、行き先は?」
他にないって分かってるだろうに。この道を通ってるってことはカゲキョーに行くか、カゲキョーから帰るか、どっちかしかないだろ。
「カゲキョー洞窟だ。あぁちょうどいいや。相談がある。これを見てくれよ。」
『光源』
周囲を明るくしてから身分証を見せる。
「なっ? ローランド王国の……」
「国王直属……?」
「な、なぜこのような場所に……」
「まあまあそれはいいから。カゲキョー洞窟に潜りたいんだけどさ、中で手に入れた物の八割が税で持っていかれるらしいな? それをもう少しどうにかして貰えんかな。」
「む、無理です……迷宮に関する事は天王陛下直属の騎士、赤兜達の独壇場なのです……」
「ゆえに我らも手出しができないわけで……」
なるほど。普通の騎士は美味しい餌にありつけないのね。だからこうやって小銭を稼いでいるってわけか。
「分かった。でもお前らだって美味しい思いをしたいんじゃないか? 今みたいによ。迷宮は宝の山って聞いたぜ?」
実際には聞いてないが。
「そ、そりゃあ命の危険はありますが、当てたら大きいですから……」
「それをあいつらばっかり……しかも迷宮の素材を使って武器なんか作るから……差は広がるばっかりで……」
「俺たちだってやれば出来るってのに……」
ふーん。騎士も潜りたがってるのね。ふふふ、いい事を思いついたぞ。
「迷宮に潜りたがっている騎士は何人ぐらいいる?」
「そりゃ俺たちの仲間はみんな……百人ぐらいです……」
「ローランド王国の力でそんなことが?」
「お、お願いします! 俺たちだってやれば出来るってところを……」
「一週間ほど待ってな。その間に仲間に周知しとくといい。いや、仲間だけじゃなくて近隣の冒険者どもにもな。自由に迷宮に潜れる時が来る、だからカゲキョーに集まれってな。」
迷宮がどれほど危険かは知らないが、面白くなってきた。
エチゴヤも天王もローランド王国にケンカを売ったんだ。その報いはしっかりと受けてもらわないとな。まずはカゲキョーからだ。ふっふっふ。
「分かりました!」
「ありがとうございます!」
「期待してますから!」
まあこんな腐った騎士が何人集まっても役に立つことはないだろう。せいぜい枯れ木も山の賑わい的な? いないよりマシ程度の役に立てばいいだろう。
さて、アレクを待たせてしまったな。早く戻ろう。ちなみにコーちゃんとカムイはまたどこか遊びに行ってしまってる。徹夜で遊ぶ気なんだろうか?
そして翌朝、昨日の親子や他の数人にも噂を流しておく。一週間後、カゲキョー洞窟に自由に潜れるようになると。信じるかどうかは知った事ではない。でも、こんな荒唐無稽な噂だけに広がるのは早そうな気がするんだよな。
それからのんびりと歩いた私達がカゲキョーの街に着いたのは日没と同時だった。




