167、凶毒四連殺の行方
「線が消えてるけど、この場合はどこに着地しようとも場外負けにならないわよね?」
アレクがギルドの会長に問いかける。
「待て。今から線を引き直す。おい!」
会長の一声で職員らしき男が土壁で埋まった地面に円を描く。だいたいさっきまであった場所と同じだろう。ならば私も『氷壁』同じ場所を囲っておこう。
「文句はないよな?」
「当然だ。」
そしてアレクは円の内側に着地した。
「で? いつまで待たせる気? このまま毒で死ねとでも言うの?」
「勝敗が確認できぬのならばそうなる。」
「ふぅん? じゃあ私が棄権すれば代表戦が始まるわけね?」
「無論そうなる。」
「後であいつの死体が出てきても勝敗は覆らない?」
「無論だ。」
「よく分かったわ。なら私は棄権する。カース、代表戦を頼むわね。」
「オッケー。さすがアレク、いい判断だね。」
毒が回るまでの時間があるからな。行動は早い方がいい。何の心配もせず全力で私を信頼してくれている。嬉しいではないか。
「勝者、セアリナ! よって二勝二敗のため代表戦を始める! 代表戦出場者は前へ!」
こちらはもちろん私だ。
あっちも出てきたな。全く区別がつかないが二番目の奴だろうか?
「双方名乗れぃ!」
「カース・マーティン。」
「深紫……レイム……」
「双方構え! 始めぇ!」
『榴弾』
『榴弾』
『徹甲弾』
ふん、終わりだ。
「し、勝負あり! し、勝者カース・マーティン!」
数百発を超えるベアリング弾の嵐をことごとく兜に当ててやった。直接的なダメージはなくとも音と衝撃はかなりの物だろう。脳みそを破裂させるつもりで撃ったしな。一発や二発は目にだって当たっただろう。その後の徹甲弾はおまけだ。ただ場外へぶっ飛ばすためだけにな。
「これにて凶毒四連殺第一戦はローランド側の勝利とする! さあ、解毒剤を受け取るがいい!」
ちっ、まずそうな解毒剤だ。
くそ、やっぱまずいな。飲んではみたがこの解毒剤は信用ならんからな。一応こっそりみんなに『解毒』を使っておこう。そもそも私やコーちゃんには毒なんか効かないだろうけどね。アレクが心配だからな。あ、でもアレクにだって天空の精霊の祝福があるもんな。凶津時浸が死汚危神よりヤバくない限り問題ないわな。でも、そのことがバレるのはよくないな。ギリギリまで毒を警戒しているフリをしておかねば。
「さて、さっさと払ってもらおうか?」
まあどうせ契約魔法が効いてるけどね。
「いやぁ恐れ入りました。今回はこちらの負けです。第一戦はね?」
「あ?」
「それでは凶毒四連殺第二戦を始める! 双方四名を選出するがいい!」
あぁ?
「ちょっと待て! なんだそりゃあ! 聞いてないぞ!?」
「凶毒四連殺は古来より伝わる決闘方法だ。正式名称は『凶毒連殺』だがな。今回はそちらの要望により一回あたり四人で行っている。本来ならばもっと大人数で行うべき決戦だ。それを四人ごとに区切ればこうなるのは自明の理であろう。それともやめるか? 今なら何も知らなかったことを理由に一切の賭けを無かったことにして、逃亡しても構わぬだろうぞ。」
この野郎……聞かれなかったから答えなかったってか……クソが……
四対四で決戦って言えばそれ一回で終わるのが普通だろうが! クソったれがぁ……だから番頭どもはゾロゾロやって来たってわけか。
いいだろう……そっちがその気なら……
とことん付き合ってやるよ……
「一応聞いておくぞ……第何戦までやるんだ?」
「こちらは百でも二百でも。会長は今なら逃げてもいいと言いましたが、ひとたび第二戦を始めたならばもう逃げられませんよ? とことんやり合いましょうね?」
こいつが余裕かましてた理由はこれか……
中身が雑魚でもムラサキメタリックの鎧さえ着れば近衛騎士にも匹敵する強者の出来上がりだもんな。所有者登録のせいで他の者は『換装』が使えないにしても地道に手作業で着用すればいいだけの話だからな。それこそ何回戦と行っている間に平のエチゴヤ構成員でも連れてくればいいってことか……
いいだろう……やってやるよ……
「分かった。とことんやろうか。こっちの一人目は俺だ。おっと、その前に場所を変えようか。ここは下が水だからな。」
『氷壁』
土俵のように円を描く。
「これでいいよな?」
「いいだろう。では凶毒四連殺の第二戦を開始する! 双方の四名はこちらを飲むがいい!」
エチゴヤ側はさっきの四人は全員死んだため、新しい四人が出てくる。見えない一人もどうせ生きているはずがない。
くそ……マズいもんを飲ませやがって……
「それでは凶毒四連殺第二戦、第一殺を始める! 双方名乗れぃ!」
「カース・マーティン。」
「深紫、『大滝』のゴンズだ」
『身体強化』
「双方構え! 始めぇ!」
「螺旋貫通峰おぉっ!」
「ぐっ……ま、まさか……ムラサキメタリックの鎧に穴が……」
『火球』
「ぐきゃあぁぁぁぁーーーーーーーあぁぁ……」
「おい会長、終わったぞ。」
「なっ……し、勝者、カース・マーティン!」
ちっ、ムキになってしまったな。体が痛い……肩が外れるかと思ったぞ……
エロー校長先生の技を身体強化の力で無理矢理真似してみた。イグドラシルの棍『不動』を使えばムラサキメタリックにすら穴が空くことは校長が実証してくれた。さすがに私では背中まで貫通することはできなかったが、空いた穴から棍を通して魔法をぶち込むことはできる。鎧は無傷でも中身は炭になってるだろう。あー臭い。そして体中が痛い……ポーション飲もう。
この調子で皆殺しにしてやるよ……




