162、裏切り護衛の妻子
船までひとっ飛び……しようかと思ったらカムイ達がまだだな。
コーちゃん、カムイはどっちにいる?
「ピュイピュイ」
あっちね。
「アレク、カムイと合流してから船に戻ろうよ。それからお昼にしよう。お腹すいたもんね。」
「そうね。私もぺこぺこよ。」
昼をだいぶ過ぎてしまったもんな。今日も朝からハードだったよなー。変だな。私達はヒイズルに物見遊山に来たはずなんだが。やれやれだぜ。
さーてカムイはどこに……ほお……ここの方が立派な建物じゃないか。海の天国館ほどではないがそれなりに大きいし。おっと、入口からいきなり死体が転がってる。喉をひと裂き、カムイの仕業だな。この中にバチオの妻子はいるってことか。
おっと、タイミングよく奥から足音が聴こえてきた。大勢が走っているようだ。端に避けておこう。
女か……それも娼婦のようだ。なるほど、ここは娼館なのね。てことはあいつの妻子は人質のくせにここで働かされてたってことね。無駄のないことをする外道どもだな。どうせ殺すんだから少しでも利益を生むようにってところか。
私達など目もくれず外に走り去っていく女達。私も楽園に娼館があるが、あそこの女達は結構楽しそうにしてたよな。何が違うんだろうね。
そこからやや遅れてバチオが妻子と身を寄せ合うようにして歩いてきた。その後にはカムイと紫の奴がいる。あいつの歩き方キモいわ……足が上手く治ってないんだろうな。当たり前か。
「よし、乗れ。船に戻るぞ。」
「あ、あの、この、この度は……」
「ああ奥さん、話は後にしよう。さあ乗って。」
「ガウガウ」
暴れてないって? 明日な。たぶん強い相手と戦えるぞ。楽しみにしてな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんもがんばるって? 無理しないでよ?
そして今度こそ船までひとっ飛び。おっ、死体があらかた片付いてるじゃないか。まあ海に捨てただけだろうけど。こいつらも後先考えてないよなぁ……頭おかしい。
「おー旦那ぁおかえりー」
「もうエチゴヤ潰したのぉー?」
「なんかけっこう燃えてたよなー?」
「おっ? 熟れた奥さんと若葉な少女じゃーん」
「誰も船の中には入ってないな?」
「こんなくそ熱い船ん中に入れる奴なんいねーってー」
「どんだけ魔力込めてんだよー」
「よっぽどお宝があるってのかぁ!?」
「山分け山分けー!」
今日使った魔力のうちほとんどが『紫弾』の分だ。船の引き上げからさっきの戦闘に至るまでに消費した魔力は三割もない。つくづくムラサキメタリックとは扱いずらい金属だよな。
『炎壁解除』
『水滴』
さーてこんな大きな船だが収納できるかなー。できた!
これで安心して食事ができるってもんだ。
「俺たちはどうしたらいい……」
好きにしろよ、と言いたいところだが……
「バンダルゴウにでも逃げるか?」
「た、頼む……裏切り者の俺を、俺たちを助けてもらった上に……厚かましいが……」
「まあいいさ。乗りかかった船ってやつだ。とりあえず飯にしようか。適当に案内してくれ。」
ローランド王国だと乗りかかった馬車って言うんだけどね。
「あ、ああ……」
「ごちになりやーす!」
「いよっ旦那ぁ太っ腹!」
「あざーす!」
「はらへったー!」
こいつらまで来るのかよ。
着いたのはごく普通の大衆食堂だった。たまにはこんな所も悪くないな。
「あー、奢るから好きに食え。酒は飲むなよ。」
「ピュイー」
おっとコーちゃんは別だよ。好きに飲んでいいからね。
「ピュイピュイ」
「俺らも飲みてーなー」
「ねー旦那ぁー」
「のーみーたーいー!」
「ねっ? ねっ?」
「だめに決まってんだろ。しかもそんなにたくさん頼みやがって。」
残したら許さんぞ?
はー、うまかった。すごく普通の刺身定食って感じかな。満足だ。
さて、それでは状況説明といこうか。アレク、頼んだ。
「……と言うわけよ。カースの慈悲に感謝することね。」
「大国ローランドに名を轟かせるほどのお方が……本当にありがとうございます……」
「ありがとうございます……」
「ありがとうござい……」
「へーさすが旦那だぜー」
「エチゴヤと勝負ぅー? まじかよー」
「あいつら汚ぇーから注意してくれよー」
「まあ旦那なら大丈夫じゃね?」
やっぱこいつらエチゴヤの情報持ってやがったな。
「この際だ。お前らが知る限りの情報を話せ。そっちのお前もな。」
紫の奴までちゃっかり飯食ってんだもんな。
「つってもよー。ろくな情報ないぜー? 賭場とか娼館ぐれーかなー」
「俺もー。一回どっかで残酷解体見世物とかってのに誘われたけどさー。そんなキモそうなもん見たくもねーよなー」
「知ってる奴も下っ端ばっかだしよー」
「もうとっくに死んでんじゃね?」
それにしてもこいつらときたら……
絶対服従の契約魔法がかかっておいてこれかよ。どんだけ怠惰な奴らなんだよ。
「まあいいや。とりあえず方法は任せるからここの全員を守ってやれ。腐っても騎士だし、できるよな?」
「あー、やるしかねーだろー」
「ボーナス……」
「やりたくねーけど魔法がばっちり効いてんだよなー」
「やるっかねーし」
当然だ。
「それからお前には鎧を返してやるからこいつらと一緒に全員をしっかり守れ。生きてバンダルゴウに逃げたいんならな。」
「うぐ、分かった……」
手足がまともに動かんだろうから役に立つかは怪しいが、盾ぐらいにはなるだろう。まったく、このムラサキメタリックってやつは魔力庫に出し入れするだけでも一苦労なんだから。
はー、しっかり食べたら眠たくなったな。宿に帰ってさっさと寝よう。




