155、透け透けスケルトン
フジツボやイソギンチャクみたいな無数の生物を踏みしだきながら内部へと立ち入った。
「例の名簿はどこにある?」
「分からん……が、船長室から行ってみよう……」
時おり魚がぴちぴちとのたうっているのが見える。『風操』手元に引き寄せ、雷の魔法で〆て収納。もったいない精神を発揮してしまったな。それにしても歩きにくいな。ゴツゴツだったりヌルヌルだったりグチャグチャだったり。
「たぶんここだ……」
ドアノブを掴みガチャガチャやってるが開きそうにない。そりゃあそうだよなあ……
「どいてな。」
『風斬』
ドアを×字に切った。母上並みとはいかないが、私の風斬もだいぶ鋭くなった気がするな。
「ばぁがぁぁおぉぉぉ……」
アンデッド……それもスケルトンかよ……
『風壁』
とりあえず閉じ込めて……
「どう思う? ここにいるってことはこいつがナマラの夫か?」
「違うと思う……クロマ様は最後まで操舵室から出てこなかったと聞いている……」
「じゃあ別にいいか。」
『重圧』
本当はアンデッドには火の魔法が一番なんだが、こいつがいるからな。半密室で火の魔法を使うわけにもいかないんだよな。金操で魔石のぶっこ抜きをやってもいいのだが、雑魚アンデッドの魔石に金操を使うなんて割に合わないにもほどがある。
へー、スケルトンって圧縮するとこんなに小さいのか。箱に詰めたら一、二リットルってところかな。
『光源』
「さてと、探そうぜ。」
「あ、ああ……」
うえー汚いなあ……『浄化』『乾燥』
うーん、さすがに一発できれいにならない。オディ兄なら楽勝なのだろうか? まあいいや、匂いはどうにか消えたし。
ろくなものがない……
全ての引き出しや収納を確認してみたが、日誌らしき物や本だった物ばかりだ。一瞬これが名簿かとも思ったが、どうせ名簿だとしても到底読めるものではない。
後は小判や小粒が数枚程度。一万ナラー札は朽ちてしまっている。
「だめだな。次行こうか。」
「ああ……やはり操舵室だろうか……」
旦那が肌身離さず持ってる可能性はあるわな。だがその場合、ここの本などと同じでとっくに朽ちてるんだろうな。その上……
外からはさほど大きく見えない船も、中を歩くと広く感じるものだな。歩きにくいせいもあるとは思うが。通路には魚以外に打ち上げられた魔物らしき死骸もあった。アンデッド化しないほどに原型をなくしているのが幸いなのだろうか。考えてみればこの船はあの大タコの巣になってたんだよな。それなら魔物があまりいなくても不思議ではない。
「ここだ……」
ここに来るまでに出会ったスケルトンは三匹。たぶん船員の成れの果てなのだろう。今までスケルトンに出会ったことはなかったが、普通のアンデッドから肉がなくなるとそうなるのだろうか。肉がぐちゃぐちゃに腐ったゾンビよりはキモくないな。
やはりドアは開かないので風斬で切る。それにしても普通操舵室と言えば視界の開けた場所にあるものではないのか? 来る時のサンタマーヤ号もそうだったが、ここのような密室になっているってどういうことなんだろう?
「ごぉぉぉ……」
やはり室内にはスケルトンがいた。
「こいつか? ナマラの夫は?」
「お、おお……クロマ様……」
こいつか。よく他のスケルトンと判別できるな。あれか、首にかけられたごっついネックレス。よくもまあ朽ちずに残ってるものだ。かなり錆びてはいるようだが。
それにしてもこいつ……
「襲ってこないな?」
「さすがはクロマ様……体は魔物となりても心までは魔物に堕ちておられない……」
ふーん。そんなこともあるのか。まあ襲ってこないのは事実だしな。
「じゃあこいつは俺が見ておくから探してみてくれよ。」
『浄化』『乾燥』
今は襲ってこないからって安全とは限らないもんな。
「あ、ああ……」
それにしてもこいつ。さっきまでのスケルトンとは違って服がほぼ残ってるんだよな。やっぱいい服は違うんだろうな。
「ぼごぉぉ……」
静かに唸り声をあげるが、やはり襲ってこない。思えばたくさんの魔物と対峙してきたが、こうやって目の前で穏やかに対面するのは初めてかも知れないな。
「だめだ……どれもこれも朽ちている……」
だよなぁ……見るからにそうだよなぁ……
室内は荒れ放題だし、壁も傷だらけだし。
壁ねえ……
「こんなもんでいいだろう。名簿はなかった。そうエチゴヤには報告しときな。それより外に出るぜ。こいつとナマラの弔いをするからな。」
「わ、分かった……」
「お前も来な。分かるか?」
スケルトンに理解できるとは思えないが……
「ごおぉおおお!」
なんだ? 入口に立ち塞がりやがったぞ?




