152、サルベージ開始
ナマラの遺体を魔力庫に収納し、アレクの所へ戻る。
護衛の奴はどうにか一命をとりとめたようだ。見た目ほど重傷ではなかったようだしな。
「お前なら昨日の場所は分かるよな?」
「あ、ああ……あの、ナマラ様は……」
「手遅れだった……」
「そ、そんな……」
「夫の弔いを頼まれた。仇討ちは頼まれてない。」
「あ、ああ……」
「行くぞ。案内しろ。」
「あ、ああ……」
護衛を乗せ、沖へと移動する。
「シーカンバーにはお前以外の生き残りはいるのか?」
「い、いる……オワダ中から集めれば……もう二十人ぐらいは……」
「名簿があってもたったそれだけの人数でエチゴヤに勝てるのか?」
「……無理だ……手も腕も足りない……」
人数も実力も足りないってことだな。
「さっき襲ってきたのは何人ぐらいだ? 紫の鎧はいたか?」
「いた……総勢は五人ぐらい……うち二人が紫の鎧を纏っていた……あれが多分『青紫烈隊』と見える……」
あー、バンダルゴウでタムロから聞いた気がする。エチゴヤの鉄砲弾的な?
「なぜこのタイミングで襲ってきたと思う?」
「たぶん……今日のことを嗅ぎつけられた可能性がある……あの名簿はそれほど奴らにとって痛いようだ……」
ふーん。タイミングいいね。普通に考えてスパイがいたんだろうね。
「ところで、助けて欲しいんだよな? 約束を守るなら今後も少しは助けてやるが?」
「約束? そりゃあもちろん守るが……」
「よし、そんじゃあ約束だ。質問に正直に答えてくれよ?」
「あ、あぁっごぉっ……」
ヒイズルに上陸して初めての契約魔法だ。知らなかっただろ? 私の契約魔法は紙面への署名を必要としないからな。
『拘禁束縛』
口以外を封じ込める。
「お前が情報を漏らしたのか?」
「そ、そうだ……」
やっぱりね。紫の鎧を相手に生き残ってるのが怪しかったんだよな。
「お前はエチゴヤのモンか?」
「ち、違う……人質を取られてて……」
「ついでに、もし俺が船を引き上げたら名簿を始末する任務もありそうだな?」
「そ、そうだ……」
なるほどね。
「誰を人質に取られてんだ?」
「つ、妻と二人の娘を……」
「そいつは可哀想に。だがもう手遅れってことぐらい分かってんだろ?」
エチゴヤみたいな外道組織が女を三人も人質に取っておいて無傷で済ませるわけがない。客でもとらせるか、自分らで好き放題してるんだろうな。今のところ生きてはいるだろうが、この件が終わったらこいつごと処分する気だろうな。
「わ……分かってるよ! でも! どうしようもなかったんだ! アンタみてぇな強ぇ奴には分かんねぇんだよ!」
「分かってるんならいい。ではさらに約束だ。俺に全面的に協力しろ。そうすれば俺も家族を助けることに協力しよう。もう間に合わないかも知れないが、全力を尽くすことを約束する。」
「ま……魔王さん……」
「どうすんだ? もうすぐ現場に着くんじゃないのか?」
「する! するっうぐっごぉ……」
「いいだろう。とりあえず正確な場所を指示してもらおうか。」
「あ、ああ……もう少し西だ……」
こいつのせいでナマラが無惨に殺されたとも考えられるが、こいつを責めても意味がない。やはり巨悪はエチゴヤか……
「ここだ……」
「分かった。じゃあアレク、待っててね。退屈だろうから、こいつからあれこれ情報を聞いておいてね。」
「ええ、そうするわ。いってらっしゃい。」
カムイはアレクを頼むぞ?
「ガウガウ」
行こうコーちゃん!
「ピュイピュイ」
私は魔力庫から適当な岩を取り出し、ロープを巻き付け海に落とす。後はそのロープに掴まっているだけで海底まで一直線だ。こりゃ早いな。魔力の節約にもちょうどいいしね。
そして二分ちょい。海底に落ちる直前に岩は収納しておく。少しズレたが、どうにか見える位置に船はあった。
全長四十メイル……一体何トンあるんだろうな。どうやって浮かせようか……やはりここは『浮身』
うーん、まあまあ魔力を食うなぁ……この感触からすると百トンぐらいかな。陸上だと大した重さではないのだが、海中だとキツいな……
浮力があるから軽くなるはずなのにキツいってのは変な話だが、キツいもんは仕方ない。
うーん、やはりどうも効率が悪い。工夫が必要だな……
そうだ! 『風球』
巨大な空気のドームで船ごと覆ってやる。うん、これは凄い! 風球の維持にそれなりに魔力を使うが、浮身を使う必要が全然ない。ぐんぐん上がっていくな。
これならスムーズに行くかと思えば、なんだあれ? 船の内部から赤い触手が出てきたぞ? 吸盤だらけでキモいな……
あ、もしかしてタコ? それも結構大きな……




