148、様々な子供達
それからナマラおばちゃんの家に戻って昼食をご馳走になった。ワカメご飯にワカメの味噌汁、これがオワダの味なのか。ワカメは沿岸部のやつをささっと採るのがポイントだそうだ。塩もオワダで作っているそうで、焼き魚にぱらりと振った海塩がいい味を出していた。
「ところでオワダにエチゴヤの拠点とかってあるの?」
「いや……それがなぁ、分からんでよぉ。おおかたどこかの商会に偽装してるんだとは思うんだども……」
なんとまあ……徹底してるんだね。
「だからこそ名簿が必要なんだな。表の顔を見つけることができるわけか。」
「そうだで。それが分かればギルドや騎士団とも協力してエチゴヤをオワダから追い出すこともできるだで……」
ふーん。上手くいけばいいけどね。
それからおばちゃん宅を出て、再び散歩を開始した。今度はコーちゃんやカムイも一緒だ。
「ねえカース。海の底ってどんな感じなの?」
「うーん、そうだね。真っ暗な砂漠って感じだったかな。でも自動防御なしだと、グチャって潰れてしまいそうだったよ。」
「潰れるの? 不思議な所なのね。怖いけど行ってみたくなるわね。」
「じゃあ明日の用事が終わったら行ってみようか。底まで潜れるかは分からないけど、行ける所まで深く行ってみるよ。」
アレクも自動防御内に入れてもいいし、各々で水中気を使う必要があるから水球で覆ってもいいかな。魔力的には水球で二人を覆う方が節約になりそうだが、魔物への対応がしにくくなりそうかな。まあいいや。明日明日。
「深いと言えば暗夜海道だったかしら? あそこってどれぐらい深いのかしらね。想像もできないわ。」
「だよね。あそこに潜るのはちょっと怖いよね。」
こうして他愛もないお喋りをしながら歩いていると、路上で遊ぶ子供達を発見した。
「あなた達はどんな遊びをしているの?」
珍しくアレクが話しかける。
「えー? 小鬼抜きー!」
「小鬼抜きも知らんのー?」
「変なねーちゃーん!」
「ねーちゃんだれぇー!?」
『こおにぬき』だと? ゴブ抜きみたいなものか? それならば缶蹴りもどきか。だったらやりたいな。
「教えてよ。どんな遊びなの?」
「にーちゃんも知らんのー?」
「バカやなー!」
「よーし教えちゃろーやー!」
「えっとねー! まずはねー!」
ふむふむ。やはりゴブ抜きや缶蹴りと同じだな。缶の代わりに人間が一人座り、助ける側はそいつ、つまり人質に触れたら勝ち。防御側、つまり小鬼役は助ける側を見つけたら名前を呼びながら人質に触れる。そうやって救出側を全員防いだら勝ちってわけか。
よーし、やるぞー! ちなみにカムイとコーちゃんを参加させたら勝負にならないから人質役として座っていてもらおう。
うーん。これは楽しい。地域の子供達と同じ目線で子供の遊びをする。これはマジで楽しいな。私の中身はかなりのオッさんのはずだが、こんな子供の遊びが楽しいだなんて。精神年齢が低いのか? いや、まあ、どうでもいいけどね。
さて、楽しい時間はすぐに終わるもの、もう夕方か。
「じゃーなにーちゃーん!」
「おもしろかったでー!」
「また遊ぼうなー!」
「ねーちゃんなかなかやるな!」
「君らもなかなかやるね! じゃあまた。」
「楽しかったわ。またね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
いやー楽しかったな。オワダに滞在してる間にもう一回ぐらい遊ぶのもいいな。あの時の浜辺の子供達と違ってやけに素直だったし。
ちなみに帰り道は結構迷うかと思ったが、適当に下へ下へと降りていくと海沿いの道へと出ることができた。よし、沈む夕日を見ながら宿に帰ろう。
「楽しかったね。アレクが子供達に声をかけるなんて珍しい気もしたけど。」
「なんとなくよ。浜辺でのことがあったからここの子供達の印象が悪かったけど、あの子達はどことなくいい子みたいな気がしたのよね。」
「アレクは子供に人気だしね。」
エルフの村でもそうだったな。アレクの周りには子供達が集まるんだよな。美少女の上に心優しいんだから当然か。
「カース……あいつらだわ。」
「あいつら?」
十人に満たない野郎どもがこちらに向かって歩いてくる。見覚えがあるような……
「浜辺で怪我をした子供達の父親がいるわ。文句でも言いに来たのかしらね?」
「あぁー、そいつらね。」
待ち構えてたって雰囲気ではないが、全員で宿に文句でも言いに行って、私達がいなかったので帰り道ってところかな?
「見つけたでぇガキぃ!」
「おんどれぇ舐めた真似してくれよったのぉ!」
「ウチの子ぁ海ぃ怖がるようになってしもうたでぇ! どうねぇしてくれんなぁ! おぉ!?」
「ウチの子もじゃあ! オワダもんが海ぃ怖がっちゃあ生きていけんどぉコラ!」
「お前らのガキはバカなのか?」
「んじゃコラぁ!?」
「誰んガキがバカじゃあオラぁ!」
「舐めた口ぃきいてんやないどぉ!?」
「よそもんが調子ん乗ってんじゃねぇどぉ!」
「質問を変えよう。お前らは常々ガキに海で遊ぶなと教育してないのか? 海が危険なのはローランド王国では常識だがヒイズルでは違うのか?」
親子そろってバカばっかりかよ。こんな所で暮らしてて海の危険を知らないとでも言うつもりか?
「ざけんなや! 言いきかっしょるに決まってんだろが!」
「そうじゃあ! てめぇこそ子供の前で悪ぃ見本ぉ見せやがってよぉ!」
「恥ずかしくねぇのかよ! お前のせいで子供らぁ酷ぇ目におうたんでぇ!?」
「おらぁ! 何とか言うてみろやぁ!」
どいつもこいつも口汚く私を罵ってくる。
「これ以上は時間の無駄だな。これを見ろ。」
私は魔力庫から白金大判を取り出し、地面に落とす。
「欲しけりゃ奪ってみろ。それとも金より謝罪の方がいいか?」
まあ謝罪なんかする気はないけどね。一番手前にいた男は一目散に飛びついた。『金操』
私の手元に戻る大判。
「お前らの考えはよく分かった。なんだかんだと文句を付けてるが、要は金が欲しいってことだな? 外国からやってきた金持ちの子供だしちょいと脅せば簡単に有り金出すと踏んだわけだ。うっわ、さいてー。」
「最低の大人ね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは頷いているが、カムイは腹がへったと言っている。
「ふざけんなや! そいつぁ置いてけやぁ!」
「そうじゃあ! 今なら勘弁してやんぞぉオラ!」
「外人の一人や二人殺したぐれぇで問題んなるぅ思うちょるんじゃねぇでぇ!」
「海の男を敵に回してみぃや! おどれらぁ死体も残らんけぇのぉ!」
ふーん。そんなこと言うんだ。そいつはちょっと聞き捨てならないかな。




