145、サルベージ
『ココロココ』を書かれております『名もない、ただの鳥』さんから24件目のレビューをいただきました!
ありがとうございます!
昨日は海岸沿いを南に下ったから今日は北に進んでみよう。右手に街並み、左手に海を見ながらお散歩さ。
「こっちの方は焼けてないね。」
「そうね。海の天国館周辺ばかりが焼けたようね。」
あの周辺ばかり……まさか私たちを狙った? あの程度の炎で……? まさかな。でも殺し屋は来たしなー。あの坊ちゃんが依頼でもしたのかねえ。現在私にかけられている賞金は白金貨二十枚だそうだが、こっちで言えば二十億ナラー。人生捨ててる奴らがトチ狂うには充分な金額だよな。いや、まともな奴でも狂うかな。一体だれがかけてるんだ?
「こっちは船がたくさん泊まってるね。サンタマーヤ号は見当たらないようだけど。」
「バンダルゴウよりたくさんあるわね。サンタマーヤ号はまたどこかへ行ったのかしら?」
忙しいね。海の男も大変だ。再び航海に出たとは考えにくい。私たちがオワダに着いてから何日も経ってないからな。積み下ろしとかあるだろうし。どこかドック的な所にでも入ったかな?
そんな港を横目に散歩は続く。見る物全てが珍しいからな。歩くだけで楽しい。
港が見えなくなっても防波堤は続く。昨日と同じようにこのまま進めば山に突入してしまうだろうな。
「ねえカース? このまま山に登るの?」
「それもいいんだけどね。今日はちょっと方向を変えてみるね。」
まだ街並みは続いているが、方向を右に九十度変えてみる。密集した集落へと。
そこはやはり狭い路地だらけだった。
「こんな所でセルジュ君たちと狼ごっこをしたら楽しそうだね。」
「それはいいわね。それにゴースト狩りも良さそうよ。」
前世で言うところの鬼ごっことかくれんぼ。かなり楽しそうだな。童心に帰りたくなるじゃないか。遊んでる子供達でもいたら交ぜてもらおうかな。そして一緒に狼ごっこか何かを……
そんな私たちの行く手を塞ぐように現れた数人の男。そろそろ来る頃だろうと思ってたんだよな。
「シーカンバーに何の用だ?」
「どこでナマラさんのことを知った?」
「素直に吐けば無事に帰してやるぞ?」
狙い通り。ギルドでああやって話をすれば、これ系の奴らは必ず聞きつけてくる。そして私の正体を確かめるべく接触してくると睨んでいたのだ。無駄金を使わないで正解だったな。
「あぁ、シーブリーズのタムロからだ。用事はないんだがな。せっかく紹介してくれたんだから顔ぐらい出しておこうと思ってな。俺はカース・マーティン、六等星冒険者だがこんな身分でもある。」
そう言っていつもの身分証を見せる。
「タムロさんのか……」
「ローランド王国……国王直属だぁ!?」
「よくこんな所まで来やがったな……」
「まあせっかくだからヒイズルやオワダの闇ギルド事情でも知れるもんなら知りたいところではあるな。あぁ、話せないことまで知ろうとは思わねーさ。で、どうする?」
「来な……」
そう言ってさらに奥へ奥へと案内された。クタナツでもそこらの民家が闇ギルドの出張所ってことはよくあるらしいし、ここでもそうなのかねえ。他には小汚い酒場とかさ。
ぐるぐると狭い道を歩く。普通に考えて迷子になるよな。そういった目的もあってこんな所に住処があるのかねえ。
歩くこと二十分。どうせ同じ所を何回か通ったんだろ。
「ここだ。入んな」
やはりごく普通の民家だった。周りの建物と何も変わらない。絶対覚えられないな。再び来ることはないだろうから構わないけどね。
内装も普通。いやヒイズルらしく玄関があり、そこで靴を脱ぐことになっている。ちなみに脱いだ靴は魔力庫に収納しておく。愛用のドラゴンブーツを盗まれたらたまらないからな。悪いがカムイは玄関前で待っててもらおう。すまんな。
「ガウガウ」
コーちゃん、カムイと遊んであげてよ。
「ピュイピュイ」
よし。お邪魔しまーす。
通されたのは和室っぽい部屋。畳が敷いてあり、囲炉裏があるではないか。いいなぁ……
ほぅ、座布団まで……前世が懐かしいのか、それともカルチャーショックと言うべきか……不思議な気分だ。
「アレク、ここにはこうやって座るんだけど、できる?」
正座、ローランド王国では奴隷座りと言われる座り方だ。郷に入っては郷に従うさ。
「そ、そうなのね……やってみるわ……」
ちなみにアレクは今日もミニスカート。ムチムチした太ももが堪らんぜ。慣れない正座を頑張るアレク。うーん、かわいさが爆裂してるな。これはきっと足を痺れさせてふらつくパターンだな。ならば私が優しく支えてやらねば。頼りがいのあるところを見せてやるぜ!
「よぉ来ぃさぇたなぁ。」
入ってきたのは、昨日オラカンをくれたおばさんだった……これは転校生あるあるか? いや転校生じゃないけどさ。
「こんにちは。昨日は美味しいオラカンをありがとうございました。改めましてカース・マーティンと申します。」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルよ。昨日はありがとう。」
「まぁまぁ。ようこげな所まで来てくれちゃったでな。ほれほれ、足ぃ崩して楽にしぃな。」
アレクは素直に足を横に流したが私はそのままだ。正座が苦ではないタイプだからな。
「まぁこれでも飲みぃな。旨いでのお。」
「いただきます。」
どれどれ……あ、ほんとに美味しい。
「オラカンの皮から抽出したお茶かしら? 丁寧な仕事をしてるわね。」
「ほっほっほ。分かりなさるかぁ。さすがはローランド王国建国以来の名門アレクサンドル家の娘さんだでな。」
アレクすごい。そしておばさんもきっちりリサーチ済みかよ。
「ところで、シーカンバーってのは闇ギルドなのか?」
もう敬語は必要ない。そこらのおばちゃんなら丁寧に接しもするが、タムロと同じ裏の人間じゃあな……
「ほっほっほ。そんな大層なもんではないわぇ。冒険同業者協会がギルドなら、シーカンバーは漁業協同組合ってところだで。もっとも、どこでもそうだが漁業っちゃあ……やるには命がいくつあってもたらんでの。」
「ふーん、漁協ってところか。海は危険だもんな。」
「ほっほっほ、古い呼び名を言ってくれるでな。魔王さんは物知りだで。ところで、一つ魔王さんに頼みがあるんだがなぁ。どうか助けてくれんもんかのぉ?」
魔王ってことまで知ってんのかよ。
「オラカンの礼だ。何でも言ってくれ。無理なら無理って言うから。」
こっちは栄螺をあげたのだから礼をする必要を感じないが、このおばちゃんは嫌いじゃないしね。
「ここから沖合およそ二十キロル地点に船が沈んでおる。その船を引き上げることはできんもんかのぉ……?」
「その辺りの水深は?」
「分かるわけなかろうで。わしの夫が沈んでおるでなぁ……できることなら……引き上げて弔ってやりてぇだでよ……」
「分かった。潜ってみないと分からないが全力を尽くすことだけは約束する。それで無理だったら諦めてくれ。」
「おお……ありがとうなぁ。こんな見ず知らずのババアのために……魔王は太っ腹で慈悲深い……話に聞いた通りだでぇ……」
「とりあえずだいたいの場所を教えてもらおうか。現場に行こうか。」
外に出て鉄ボードを出す。さあ、乗るのは誰だ?
ココロココ
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