143、二度寝後の出来事
「むっ?」
範囲警戒に反応あり。誰かが部屋に入ってきたようだ。まったく……誰だよ……いい気分で寝てたのに……
ここの従業員なわけがない。となると……
「何やってんだ?」
寝室から出てみると、そこに居たのは服装だけは担当さんと同じ、見知らぬ顔の女だった。
「お部屋のお掃除に参りました」
「頼んでないぞ?」
食器類は寝る前に回収に来たし、私は掃除魔法も使えるからな。わざわざ掃除を頼む必要などない。
「いえ、確かに頼まれました。目障りなゴミを片付けてくれとね!」
そう言って中居の服装をした女は短剣を抜き、流れるような動作で突き込んできた。
『金操』
中段にしっかり構えた短剣だが、関係ない。いつものように足の甲に刺してやる。しかし、わずかな躊躇いも見せず懐から何かを取り出して投げてきた。針か? もちろん自動防御を突き抜けることなどない。
さらに懐から丸く黒い球を取り出しポイっと放った。あれはまさか!?
『氷壁』
ふう、間に合った。丸ごと氷壁に閉じ込めてやった。ついでに中居も氷壁の中だ。そして、氷壁の中でソレが爆発した。終わりだ。
「カース? 何かあったの?」
「おはよ。殺し屋っぽいのが来たよ。なんと魔石爆弾を使いやがったんだよね。」
「まあ! 魔石爆弾を!? それは驚きね。今時そんなの使うだなんて。」
魔石爆弾は名前の通り、魔石を加工して爆弾にしてしまうものだ。威力はそれなりにあり、魔力がある人間なら誰でも使うことができるため、戦乱の時代にほんの一時期だが活躍をしたらしい……味方もろとも敵を始末するために。
魔力に反応して爆発するため事故が後を経たず、いつしか周囲を巻き込む自爆目的でよく使われたそうだが、たった一人での自殺になることが多くやがて廃れていったと聞いている。
だが、先ほどの私の金操やその前の範囲警戒に反応していないってことは、改良されたってことか?
あっ!? 所有者登録か!
ムラサキメタリックを自分だけが収納できる所有者登録。その技術を応用して魔石爆弾を自分の魔力にしか反応しないようにしたってことか? まあいい。検証しようがないからな。あんなのを持ってるのはどうせどこかの闇ギルドだろう。
「とりあえず担当さんを呼ぼうかな。」
「そうね。よくカムイに気づかれずにここまで入ってきたものね。」
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
えー!? 二人とも気付いてたけど眠かったから放っておいたって? 大した相手じゃないからって? もー。そりゃそうだけどさ。
「ガウガウ」
もし、寝室に入ってきたら咬み殺したって? まあ、それでもいいけどさ……自由すぎるだろ! アレクにも説明しておこう。
「……だってさ。」
「そうなのね……中々楽をさせてくれないわね。物音がするまで起きなかった私が言うことじゃないけど。」
腹いっぱいの状態からの二度寝だからね。私だって範囲警戒がなければ起きられなかったしね。
「なっ!? こ、これは一体!?」
さすがの担当さんも驚くわな。
「……ということがあってね。この氷壁は後で解除するから騎士か役人を呼んでもらえるかな?」
「か、かしこまりました……」
そりゃあ自分とこの最上級部屋で殺人事件なんか起こったら冷静じゃあいられないよな。警備がザルであることと同義だし。まあ宿なんてどこもそうだから仕方ないけどね。
とりあえず氷壁は庭に出しておこうか。部屋で解除するのは嫌だが、きれいな庭で解除するのも嫌だな。騎士団詰所とかならいいかな。街のイメージからすると無能で腐ってそうな騎士団って気がするが、どうなることやら。
「また貴様か!」
あの赤い女騎士がやって来た……




