142、大盛の朝食
さて、見える範囲の火は消えた。遠くの方はまだ明るいようだが、そこまで広範囲でもない。もう大丈夫だろう。
「おい、俺は帰るからな。何かあったら明日の昼以降に海の天国館に言ってきてくれ。」
「お、おい、待……」
待たん。私は寝るのだ。ちなみに水壁は解除しない。まあ、私が眠れば自然と消えてしまうがね。出入口程度の穴は開けておこうかな。ふぁーあ、アレクの隣で眠るのさ。さあコーちゃん帰ろうねー。
「ピュイピュイ」
部屋に戻ってみると、アレクはちゃんと寝ていた。よしよしいい子だ。カムイもありがとな。もう寝ていいぞ。
「ガウガウ」
良いことをした後は気持ちがいいな。すっきり眠れそうだ。
「ガウガウ」
「ガウガウ」
「……ん……どうしたカムイ……」
「ガウガウ」
腹がへったって? もー、もう少し寝かせろよな。今の時刻は……朝の八時ぐらいかな? まあいい、朝食を頼もうか。
呼び鈴の魔道具で担当さんを呼ぶ。
一分と時間を置かずに来てくれた。この人は一体いつ寝てるんだ? おや、他にいい服を着たおばさんまで。
「おはようございますマーティン様。こちら当宿の女将でございます。」
「女将のヤヨイ・ウミノブでございます。この度はご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。また、マーティン様のおかげを持ちまして当宿はほぼ無傷で済みました。本当にありがとうございます。」
「ああ、どういたしまして。無事でよかったよ。それじゃあ朝食を頼むよ。ここの料理は旨いからな。期待してるよ。」
「ありがとうございます。板場の者も喜んでおります。すぐにお持ちいたしますので、しばしお待ちくださいませ。」
そう言って担当と女将は出ていった。そうそう、これだよこれ。一言お礼を言うだけでいいんだよ。これが正しい対応ってもんだ。
そして待つこと五分。
「お待たせいたしました。」
担当さんが料理を運んできた。
おや? 昨日はおにぎりと漬物、そして味噌汁だったが今朝はお櫃ごとかよ。味噌汁も鍋ごと! おまけに香ばしい匂いを放つ焼き魚か。堪らんな。
「食べ終わりましたらまたお呼びくださいませ。」
「ありがとう。ありがたくいただくよ。」
めっちゃ旨そう。お櫃にしゃもじ。私が茶碗によそう。味噌汁はアレクがよそう。
「穀物ってところは同じなのに、随分と味わいが違うものね。」
「だよね。色も結構違うしね。雑味が少ない分こっちの方が美味しい気もするね。」
ローランド王国では麦がメインだもんな。だれかあっちでも米農家をやってくれないものか。あ、私が楽園周辺でやればいいのか。旅を終えた後に始めるのはありだな。必要ならヒイズルで奴隷落ちした元農家とかを買ってもいいし。考えとこ。
「この魚はフォークだと少し食べにくいわね。カースはそれ、よく使えるものね。」
「うん。これだと食べやすいよ。箸って言うそうだね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
二人とも焼き魚が美味しいって? 私もそう思うよ。あ、そうだ。カムイにおすすめの食べ方があるぞ。
平べったい皿にご飯をいれて、そこに味噌汁をぶっかける。つーか私も二杯目はこれでいこう。
「カ、カース……何やってるの……」
「いやーカムイが食べやすいようにと思ったんだけどさ、僕もやってみたくなったんだよね。」
うん。旨い。やはりこれはアリだな。前世ではどこかのラーメン屋で猫まんまラーメンなども食べた覚えもあるしな。そういやローランドでもこっちでも猫って見ないよな。存在することは知ってるし、大きめの山猫なら狩ったこともあるんだが。
「ガウガウ」
食べやすい上に旨いって? そうだろうそうだろう。
「ピュイピュイ」
コーちゃんも? オッケー、待ってね。
「コーちゃんもこのスタイルで食べたいそうだからアレクもどう? 何事も挑戦してみないとね。」
「そ、そうね……お願いするわ……」
味噌汁を半分入れたお椀にご飯を投入する。私も三杯目をいただこう。
「ピュイピュイ」
食べやすくて美味しい? だよね!
「あ、おいしい……」
ちなみにアレクはスプーンで食べている。
はぁ。おいしかった。朝からお腹いっぱいだ。よし、二度寝だ。昼まで寝るぞー!
「ガウガウ」
何? アレクに体を洗って欲しいだと? たまには気分を変えたいだと? この贅沢もんが!
「カムイがね、アレクに体を洗って欲しいんだって。お願いしていい?」
「珍しいわね。もちろんいいわよ。じゃあカムイ、いらっしゃい。」
「ガウガウ」
「乾かす時は微風に火の魔法を混ぜて温風を出すといいよ。」
「分かったわ。やってみるわね。」
よし、では私は寝るのだ。
カムイのやつアレクに洗って欲しいなんて甘えん坊だな。それともスケベ根性なのか? そういやあいつって雄だっけ? まあどうでもいいや。ふぁーあ……




