110、迅速エチゴヤ
自動防御の中にアレク達を入れてと……こいつは適当でいいや。
『水球』
入口をぶち開ける。大抵こういう時って慌てて外に出たら奇襲をくらうんだよな。分かってるんだぞ。だから上から出よう。その前に……
『火球』
燃料を追加しておこう。とことん燃えてしまえ。特に意味はないけど。
『水球』
天井をぶち破った。みんなでミスリルボードに乗って上から外へ。出てみると、建物は誰にも囲まれてなかった。あれ? エチゴヤは?
「誰もいないね?」
「変ね。てっきりぞろぞろと囲まれてるものかと思ったのに。ねえあなた? どういうこと?」
「わ、わか、わからねえ……こんなこと、は、はじめてだ……」
氷壁から出されたばかりでガタガタ震えながら返事をした。たぶん下っ端が知らない災害対応マニュアルでもあったんだろうな。あまりにも手際が良すぎるもんな。
まあいい。とりあえず延焼は防いでおこう。
『水壁』
この街は木造の建物がちらほら見えるからな。いくらスラムでも一帯が丸焼けになるのはあんまりだろう。
火は消えた。そして着陸。しかし、まるで襲ってくる気配がない。マジで拠点を燃やして逃亡しやがったってことなのか?
とりあえず尋問開始。
「俺が昨日シーブリーズを潰したのは誰から聞いた?」
「そ、そんなのスラムの噂で……」
「ここの他に拠点は?」
「し、知らねぇ……ここしか……」
「上役はどこにいる? ムラカとか言ったな。」
「し、知らねぇ……ここにはたまに顔を出すぐらいで……」
はーあ。だよなぁ。下っ端丸出しだもんなぁ……
「俺のことは知らないって言ったな? クタナツの魔王や千杭刺しって言っても分からんか?」
「ひいっ、ま、魔王……賞金が確か白金貨で二十枚とかって……」
賞金? まだあったのか? 一体元締めはどこなんだ? 闇ギルド連合の会長を殺したと思えば今度はヒイズル勢まで巻き込んでさー。どうなってんだよ。
まあいいや、ランディの所に戻ってみよう。
「という訳で、手がかりがぷっつり切れたわ。他に窓口とかないのか?」
「さすがの状況判断だよなぁ。相手が魔王さんと見るや逃げの一手たぁよ。そんで、そいつはどうするんだ? 生かしておくのか?」
「全然役に立たんかったわ。下っ端すぎてな。契約魔法はかけてあるから好きに使っていいぞ。せいぜい使い潰してやりな。」
「そ、そんな……」
「別に殺してもいいけど?」
「ひいっ! はた、働きますぅ!」
「しゃあねーなー。エチゴヤと揉める時の盾ぐらいにぁなるか。お前、名前は?」
「ヨ、ヨシフ・ラズカ……です……」
ほんの一時間前とは態度が真反対だよな。これは下っ端あるあるだな。
「じゃあな。後はがんばれよ。デルヌモンテ伯爵家と騎士長には上手く言っておいてやるからさ。」
「さすが魔王さんだぜ。すげえ人脈だな。どうせやるしかなかったんだしよぉ。助かるぜ。」
「元気でな。もうすぐヒイズルに行くからさ。またな。」
帰りもここに寄るとは限らないけどね。
「あー、魔王よぉ。ヒイズルに行くんなら港街オワダでシーカンバーのナマラって人を訪ねてみなぁ。タムロから聞いたって言えばちったぁ助けんなるかも知んねぇで」
「オワダってここから出る船が到着する街のことか? そこでシーカンバーって組織のナマラを訪ねればいいんだな。ありがとよ。タムロは元気だって伝えてやるよ。」
シーブリーズは吸収されたけどね。さてと、伯爵家に寄って騎士団詰所に寄って、それからギルドか。ギルドで依頼が確定したら、後は宿でのんびり過ごすとしよう。それがいい。
よし、デルヌモンテ伯爵夫人に会ってこの街の状況をしっかりと伝えておいた。憤りを隠せない感じだったが、あれで夫人が黒幕だったら笑うよな。絶対大物貴族の一人や二人が黒幕にいるだろうし、有力貴族の数人ぐらいは顧客にいるはずなんだから。
ちなみに夫人によるとエルネスト君はあれから昇格してないらしい。ヌルいことやってんだろうなぁ。今日も魚釣りに勤しんでいるそうだし。
次、騎士団。
あらあら。前回会ったダメ騎士長はなんと奥さんに追い出されてしまったそうだ。それで必然的に騎士長の座を追われて平の騎士からやり直すことになった。しかし騎士長まで務めた男がそんな境遇に納得できるはずもなく逃亡したそうだ。
奥さんに追い出された理由は浮気がバレたから……相手はあの時の秘書か……
対応してくれた騎士にバンダルゴウの闇ギルドについて話しておいたが、あいつらが知らないはずがないんだよな。どうせ袖の下貰いまくりだろ。フランツもこんな街をゲットして旨味はあるのかねえ。あいつが来る前に少しぐらい掃除しておいてやろうかとも思ったが、無理なもんは無理だな。
よし、ギルドへ行こう。着いたら昼食だな。




