109、氷と炎
「こんにちは。毎度お世話になっております。シーブリーズ商会のタムロ・マツモでございます。ムラカ様はいらっしゃいますか?」
おお、タムロが初対面の時の営業モードだ。
「あぁん? おやおや元シー何とかのタムさんじゃねーですかぁ?」
「げひゃひゃ、マジでタムロじゃーん? 昨日の今日でよく顔ぉ出せたなぁ?」
「ウエストコートのガキにあっさり潰されたんだろぉ? よく生きてられるよなぁ?」
おやおや、もうそこまで噂が広まってるのか。それにしてもウエストコートのガキ……そんなに目撃者なんていたか?
「ええ、シーブリーズは潰れてランディさんとこに吸収されました。今の私はシーブリーズ商会のタムロです。それで、ムラカ様は? あ、もしかしてこちらのお方が怖くてお逃げなされたとか?」
おー、煽るねぇ。
「あ? てめぇ何ムラさんにでけぇ口きいてんだ!?」
「なんじゃあ? チャラチャラしたガキぃ連れてよぉ!? ん? その服装……」
「ぎゃはは! もしかテメー! そんなガキにやられたんかぁ!? そんでぶっ潰れたってマジか!? ダサすぎんだろ!?」
「ぎゃっはぁ! それよりもそっちの女だぁ! 極上じゃねぇか! かなりの値がつくぜぇ!?」
「おおマジだ! こりゃ億行くんじゃねぇ!? 俺らにも分け前たんまりだぜ! よーし、タムちゃんよ。帰っていいぜ。今日の暴言は勘弁してやる。お、ランディさんも気をつけてお帰りくださーい」
「おっと、ウエストコートのガキは置いてけよ? お揃いのウエストコートなんか着ちゃってよぉ?」
おーおー。調子の乗り方がエゲツないな。
「おう、タムロにランディ。帰っていいよ。」
まったく、人が友好的に話そうとしているってのに。これだから闇ギルドってやつは。
「おい……いいのかよ魔王さん……」
「お先でーす。お疲れーっす」
タムロって一体どんなキャラなんだ……
「ぎゃっはぁ! さすがシーブリーズのタムロさん! 変わり身はぇー!」
「さっさと帰った帰った! 今ならなんと無傷! ツイてるね、ノってるね!」
「ほれほれ、ランディさんも帰った帰った。げははぁ! お疲れちゃーん!」
苦い顔をしたランディと清々しい顔をしたタムロは帰っていった。外が安全とは限らないけどね。まあカムイを護衛につける必要はないよな。
「さて、お前ら。上のモンを出しな。どうやら俺のことを知らないようだが、それならそれで構わんさ。ま、外国に来てあんま調子に乗るなよ?」
ちなみにローランド王国とヒイズルでは言葉にそこまで違いはない。これはセキヤとクワナで実証済み。ちょっと方言がキツいぐらいかな。
「ぶふっ、ぎゃはははははぁ! こいつ頭おかしいぜ! なに大物コイてやがんだよ!」
「誰がテメーのことなんか知るかよ! どこのお貴族様でちゅかー? 貴族にしちゃあ地味だけどよお? 平民にしちゃあチャラついてんなぁ?」
「上のモンだってよぉ! ムラさんは男ぁ趣味じゃねぇんだよ! ガキにぁいい職場を紹介してやるからよぉ! たっぷり可愛がってもらいなぁ!」
あらー、こいつらマジで私のことを知らないんだな。タムロはちゃんと知ってたってのに。大手のくせに情報収集が甘いな。でもまあ、こいつらが悪党ってのは間違いないみたいだし、遠慮はいらないよね。
『狙撃』
『狙撃』
とりあえず二人殺した。
「えっ? あ……ちょっ、おま、だ、誰かぁーー! エナとヒヨがやられたぁぁーー!」
『氷壁』
あ、アレクも? 首から下が凍ってる。
「私とカースをいいように言ってくれたわね。頭を冷やして反省しなさい。」
頭以外が冷えてるけどね。
おかしいな? 誰も出てこないぞ?
「おい、どうなってんだ? 早く呼べよ。」
「たす、たすけ、エナとヒヨがやられたんだって! 誰か出てこいよお!」
誰も来ないなら仕方ない。家探しは後でやるとして……
「とりあえず、吐け。」
「あぁ!? 舐めんなガキぃ!」
例によって殴る。ぼこぼこ。
「ほれ、さっさと吐け。」
「なめ、ぼ、がばぁ……」
「ガウガウ」
ん? カムイどうした? 焦げ臭い? 言われてみれば。
うわ、証拠隠滅かよ。丸ごと燃やすってか。
「お前も可哀想な奴だな。生きたまま焼けて死ねってよ。どうする? 助けてやろうか?」
「く、な、ふざ……」
「そうか。じゃあこのまま焼け死ぬといい。アレク、出ようか。」
「そうね。正確には焼け死ぬ前に毒気を吸って終わりかしら。良かったわね。苦しまなくて済むわよ。」
あー、一酸化炭素中毒ね。それって私にはどうなんだろう。毒は効かないけど一酸化炭素はなぁ……分からん。
「たす……たすけえぇ……」
やっとかよ。もうだいぶ火が回ってるってのに。
「じゃあ約束な。命は助けてやるから俺に絶対服従な。」
「あぁ……おうぐっ……」
よし、かかった。こんな下っ端の情報なんて大したことはないだろうけど。ないよりマシかな。さあ、出よう出よう。少しだけ顔が熱くなってきたんだよね。




