102、バンダルゴウで寄り道
前世で言うところの中、もしくは大ハンマーってところかな。ホームセンターで売ってそうな五キロぐらいのやつ。それを振りかぶって私に振り下ろしてきた。普通に殺す気かよ。
『金操』
自分の足でも潰してろ。
「ぎぃやぁぁぁー!」
隙を見せたら誰か襲ってくるかと思ったら本当に襲ってきたな。バンダルゴウらしいとでも言えばいいのか。とりあえずハンマーは没収。いつか使い道があるかも知れないから貰っておこう。あ、これ素振りするのにいいかも。剣の代わりに。
さて、かがみ込んで足を押さえてる奴の頭を蹴る。よし、気を失ったな。
『金操』
普通こんな奴らの金を拾うのはこの魔法だよな。地面に屈んでまで拾いたくないもん。うーん、こいつも金貨三枚しか持ってない。ギルドの口座にたくさん持ってるパターンかな?
「おい、見物してるお前らは挑戦してこないのか? 俺は今なら金貨八枚持ってるぞ?」
誰も動かないな。ざわざわしてるだけだ。
「カース、お待たせ。」
「全然待ってないよ。聞けた?」
「ええ。どこかでゆっくり話したいわね。宿をとるにはまだ早いかしら。」
「じゃあ移動しようか。ちょっと寄りたい所もあるしね。」
待たせておいた馬車に乗り込み、行き先を指示する。
「だ、旦那……そこはちょっと……途中まででしたら……」
「あー、それまででいい。」
「カース? どこへ行くの?」
「ちょっと知り合いの所にね。それより聞かせてよ。どうだった?」
「ええ。内容はね……」
ふむふむ。
一つ目:出発は八日後の早朝か。報酬は往復で一人金貨三十枚。拘束期間はおよそ一ヶ月ね。
二つ目:出発は二週間後の昼前。報酬は片道で一人金貨十二枚、または百二十万ナラー。拘束期間はおよそ二週間か。ヒイズルに帰る船ってことだな。
あいつが受けようとして保留にされていたのが三つ目か。
最新の巨大貿易船で出発は五日後。報酬は往復で金貨五十枚。しかも拘束期間が二十日程度とは。
なるほど。そりゃあ美味しい依頼だわな。巨大船であるほど魔物も襲ってこないだろうし。拘束期間が短い割に報酬もいい。
まあ私達が受けるなら二しかないんだけどな。なんせヒイズルで降りるんだから。あのバカはライバルを減らしたかったのかも知れないが、完全に藪蛇だったわけか。バカ丸出しだな。
「ありがとね。よく分かったよ。」
「どれにするの?」
「もちろん二番目だよ。」
「そうよね。どんな船なのか後で見ておかないといけないわね。」
「それもそうだね。まあそれは明日でもいいよね。今から食事でもして宿をとって。ゆっくり休もうよ。」
「それもそうね。あ、着いたのかしら?」
馬車が止まった。
「旦那……ここまででさあ……」
「おう。ありがとよ。じゃあ気をつけて帰れよ。」
金貨一枚を渡す。
「こ、こんなに! あざーっす!」
さーて。どっちだったかな。適当に歩いてみよう。
「カース……ここって……」
「うん。スラムだね。」
「ガウガウゥ」
カムイが臭いと文句を言う。臭い理由は……スラムあるある。すぐに怪しい奴らが襲ってくるんだもんな。よし、ちょっと練習。魔力庫からイグドラシルの棍『不動』を出してと……
突く、叩く、下から跳ね上げる。棍っていいな。間合いは広いし扱いやすい。 もしかして剣より私に向いてるのかな?
「いょぉーどこのお貴族様だか知んねーけどよー? あんまチョーシん乗ってっと大怪我すんぜー?」
おっ、比較的まともな格好の奴が現れた。こいつなら話が通じそうだな。
「よお。ランディの兄貴はいるか? 案内してくれよ。」
「あ? てめー何モンよ? なんでランディの兄貴を知ってんだぁこら?」
「この服装を見て分かんねえか? 俺の名を言ってみろよ。」
バンダルゴウには前にも来て暴れたんだから知ってるよな? 知らないとか言いやがったらぶっ飛ばそう。
「まさか……魔王……」
「まあ正解。名前を言えって言ったんだけどな。とりあえず案内してくれよ。一度行ったことはあるんだけどさ、とても覚えてないからな。」
「ランディの兄貴に何の用だ……」
「用ってほどのことはないな。ちょっと世間話ってとこか。ほら、駄賃やるから案内しろよ。」
そう言って私は金貨一枚を弾く。
「ランディの兄貴に手出しはしねぇんだな……?」
「しねーよ。俺がその気になったらスラム丸ごと更地にしてんぞ?」
ちゃっかり金貨は受け取ったくせに。
「こっちだ……」
よーし出発。ちなみに棍で倒した奴らの懐は探ってない。どう見ても貧乏なんだもんな。
「ここだ……」
「あー、見覚えあるわ。」
「ランディの兄貴! 客人です!」
「おう、マユゥミどうしたぃ?」
「よう、ランディの兄貴。久しぶりだな。」
「ランディって呼んでくれよ……魔王……」
「ピュイピュイ」
コーちゃんはさっそく飲みたいんだね。
「とりあえず再会を祝して乾杯しようじゃないか。いい酒出してくれよ?」
こいつに聞きたいことがあるから来たのだが、まずは飲んでからだな。




