99、楽園の宴
ほどなくしてリリスが現れた。
「旦那様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。これお土産な。後で着てみるといい。それからこっちがリゼットから預かった女達ね。」
「ありがとうございます。良い品かと。旦那様の温情にはいつも感謝しております。」
その割には冷静なんだよな。
『きゃっほー! うっれしーい! やったー! えーっ!? サウザンドミヅチのメイド服!? やだーもー!』
などと弾けるリリスを見てみたくはあるな。
「じゃあ後は頼むな。よく話を聞いてから適材適所で使ってやるといい。」
「かしこまりました。」
「あと、一時間後に宴会を始めるから希望者は自由参加で。酒がどれだけあるかは分からんが肉は食べ放題な。」
「かしこまりました。伝えておきます。」
結局、空中露天風呂にした。
うーん、すっきりした。やはり風呂はいいなぁ。眺めもいい。空飛ぶ魔物も襲ってきたけど何ほどのこともなかった。肉ゲットだ。
「おう。待たせたな。それじゃあガンガン焼くからよ。たっぷり食べてくれよな。」
冒険者達は五十人ぐらい集まっていた。昼間から……こいつらは暇なのか? ここに素材をゲットしに来てるはずなのに。まあいいや。ミスリルボードを浮かせて『点火』
油を引く必要などない。ミスリルは焦げ付かないからな。便利だわー。
「魔王様ぁ? アタシ達も食べていいんですの?」
ん? うちの従業員かな?
「おう。ガンガン食べな。肉はたっぷりあるからな。」
「魔王様はぁ、アタシ達に手をお付けにならないんですかぁ?」
私は悪徳娼館の楼主かよ。そんなことするかよ。研修すらする気はないぞ。
「悪いな。お前らに興味はないよ。仕事がんばれよ。」
「ちっ……」
正直なやつだな。私に取り入りたかったのかな。無駄なことを。あー肉がおいしい。ちなみに今はルフロックを焼いている。どっさりあるからな。
「カース、これは何のお肉なの?」
「ルフロックだよ。いつだったかカムイが仕留めたんだよ。大きかったよ。」
「ルフロック……? ってまさかあの大きな鳥の魔物……?」
「そう。アレクとも見たよね。あの時と同じ奴かは分からないけどね。」
アレクとノワールフォレストの森にある高地で見たんだよな。タラコットの新芽とかゲットしたよな。あそこはいい所だ。ヒイズルに行く前に寄っておくか……いや、やめよう。出発できなくなってしまう。とにかく飲もう、食べよう。
「よぉ魔王、こいつを飲んでみねぇか?」
「おお、いただくよ。こいつは何だい?」
「センクウ親方の酒だぜ! ターロンズ・ラームってんだ!」
へぇ。センクウ親方の。踵の刃?
うま……
「いいなこれ。親方らしい繊細で上品な味わいだな。うまいよ。ありがとな。」
「今度はこっちだー! これも飲めー!」
「次ぁこれだぁ!」
「俺の酒が飲めねぇってのかあ!」
まだ十分ぐらいしか経ってないのにペースが早いな。私は肉も焼いてるから忙しいんだぞ? あ、この酒もおいしい。
ふぅ。ひと段落したかな。みんなの腹は満ちたようだな。時刻は夕方へと移り変わるが、まだまだ日は高い。そろそろ夏かなぁ。
少しずつ人数が増えている。ノワールフォレストの森に出ていた冒険者達が帰ってきたか。
「ん? えれぇ集まってんから何かと思ったら……魔王かあ!?」
「マジ!? もしかして宴会!?」
「え!? 俺らも食ってええんか!?」
「いいんか魔王!? 腹へってんぞ!?」
「おお、食え食え。肉はまだまだあるぞ。食ったら遊んで行けよ。新人が入ったぜ?」
「新人だと!? 魔王の館に!?」
「マジかよ! こりゃあ早いもん勝ちだぜ!?」
「まあ待てや。先に食おうぜ!」
「いいんだな!? いただくぜ!?」
「おう。どんどん焼くから食いな。」
私の自宅は『魔王の館』と呼ばれているのか。そのまんまだな。正確には『娼館・魔王の館』って感じか。リリスは宴会に参加しないのかな。今ごろは新人の研修中とか?
「旦那様。改めてお礼申し上げます。素晴らしいメイド服をいただきありがとうございました。」
噂をすれば……いや、してないのにリリスが現れた。
「おう。サイズはぴったりだな。よく似合ってるじゃないか。楽園を頼んだぞ?」
「お任せください。 旦那様は心置きなく旅立たれてくださいませ。」
今さらだが、リリスのこの忠誠心はどうしたことだ? 確かに私の奴隷だし、嘘がつけない契約魔法はかかってるけどさ。そこまでのことをしたっけな? したかもね。
「おぉい代官リリスぅ! お前を買いてぇぞぉ! 相手しろやぁ!」
おっ、酔ってるな?
「いいですよ。前金で大金貨一枚いただきます。」
おお、リリスは自分も売るのか。大金貨一枚は高いような気もするが、代官としての職務を放棄して一人に時間を割くわけだから決して高くないよな。
「ふざけんなぁ! 三十過ぎの女に金貨百枚も払えるかぁ! 金貨三枚にまけろやぁ!」
やっぱ酔ってんのか。それにしても市場価格とは無情なもんだな。三十女の奴隷ならば金貨三枚も出せば買える。それがここでは一晩の値段にすらならないとは。
「ここの法を犯した者の末路を知らないと? 知らないのならば教えて差し上げますが?」
普通はリリスによって暗殺されるだけで済むが、最近はアンデッドの檻に生きたまま放り込むのが定番みたいだけどね。もちろんここに来るような冒険者ならアンデッドが何十匹束になろうとも敵ではないだろう。だからリリスなら手足の筋を切ってから放り込むぐらいするだろうな。
「俺が何したってんだぁ! 何が法だコラァ!」
おっ? まだ収まらないのか?




