72、聖女フラン
『ふむ、聖女フランか……我の記憶にはない。詳しく話してみるがよい……』
演技続行。誰だよ聖女って。うちの母上以外に聖女がいるなんて聞いたことがないぞ。つまり偽物だな。
「せいじょ……フランは……じゃっかん十歳で……教団にこうけんを……」
はぁ? 十歳の聖女だぁ? そんな若くして名前を売ってたら私達が知らないはずがない。教団内で厳格に隠匿されてきたのか、ただのでっち上げか。でっち上げだな。幹部どもはおろか一般の狂信者の口からも聖女なんて一言も聞いたことがないし。
確か黒幕エルフの話によると、ジャンに禁術を使わせたのは今から五、六年前だったかな。その当時で十歳ならば、私とほぼ同じぐらいの歳か。
『聖女か……名前を正確に言ってみよ……場合によっては我の加護を与えようぞ……」
「もうし、わけ、ございませ……きお、くが……」
くそっ! 少なくとも私や騎士団が殺した幹部の中にそれっぽい女はいなかった。つまり、生き残った最後の幹部はその聖女フランってことになるのか……
『容姿はどうだ……髪の色、顔の特徴など思い当たることを言え……』
「せいじょの名に……ふさわしく美しい子……でした……髪の色は……まぶしい、金……だったかと……」
くそ、そんなの特徴になるかよ! 何がまぶしい金髪だよ! それってアレクじゃん! アレクよりまぶしい金髪なんかいねーよ!
『出身、その他の特徴を言え……』
くそボケが! 何かいい情報持ってないのかよ! もうこいつが最後の情報源なんだぞ!?
「しゅっしん……フランティア……フランティアでうまれたと、ききました……」
ああ? フランティアだと!?
『フランティアと言っても広い。正確に言え。フランティアのどこか?』
「もうし、わけ、ございま、せん……ぞんじあげ……」
くそ、使えねー奴だな。フランティア出身で金髪の女フラン。そんなので絞り込めるわけないだろ。くそ……
「ここまでだな。こいつの身柄は貰っていいな?」
「ええ、後は伯父さんにお任せします。くれぐれも聖女の情報を頼みます。」
今さら私が王都動乱の原因などを探る気などはない。だが気になるのだ。フランティアの聖女フラン。一体何者なんだ……
「ああ。任せてもらおう。まったく……こんな時にイザベルがおらんとはな。」
「そう言えば伯父さん、母上に何か弱みでも握られてるんですか?」
「い、いや違う……ただ、単にイザベルが恐ろしいだけだ……君ら子供達には同情を禁じ得ない……」
うーん、私から見た母上と伯父さんから見た母上ではかなりの開きがあるようだな。
まあいい。私にとっての収穫は解毒だ。婆ちゃんには安らかに死んでもらおうと思ってたが、命が助かる可能性があるのなら何とかしたいが……
「出ましょうか。吐き気が限界なもんで……」
あー苦しかった。まともに呼吸ができるっていいよなぁ。
「カースおかえり。う……かなり臭いわよ。浄化使いなさいよ……」
アレクは臭いって言うくせに何の躊躇いもなく私に抱きついてくる。可愛いやつだ。
「あ、ごめんよ。臭かったね。」
『浄化』
「すっきりね。どうだった?」
「聖女フランって知ってる?」
「え、聖女? そんなのお義母様しかいらっしゃるわけないじゃない?」
だよな……私もそう思うんだが……
一応先ほどのことをアレクにも話しておく。
「フランティアで私達と同じ年代で金髪の女……とてもじゃないけど特定なんかできないわね。そういえば『悪役令嬢サンドラの憂鬱』に登場するフランソワは黒髪だったけど、同級生に金髪のフランソワっていたわね。」
「あーいたね。フランソワーズ・ド・バルテレモンちゃんだったかな。いつの間にかいなくなってたよね。」
あの子って何年生の時に消えたんだっけ? 確かに私が殺し屋に初めて狙われた年だったような。
「さすがに覚えてないわ。言われてみれば卒業式にもいなかったし。」
記憶力抜群のアレクですら覚えてないんだから、私が覚えてなくてもおかしくはない。
「バルテレモン家って親戚が多いって聞いたけど本家とかあるの?」
「やっぱり王都にあるわよ。あの女は結構本家に近い家だったと思うわ。さすがに王都で見かけることなんかないけど。」
「うーん、歳は同じだけどさすがにあの子が聖女とは思えないね。まあ気にしても仕方ないしね。」
私が考えるべきことは婆ちゃんのことだけだ。明日からはまた旧ソンブレア村に行って……
たぶん長期戦になるだろうな。アレクには苦労をかけてしまうな。申し訳ないが、結果が出るまでだ。がんばろう。




