66、第二段階
それからは風呂だ。ここの風呂はマギトレントだもんなー。あまり気は進まないがパパと入浴。誘われたからね。そういえば初めて来た時も初対面はこの風呂だったなぁ。
パパの背中を流しながら他愛もない話をする。
「あの時、金貸しをすると聞いた時は何とバカな子だと思ったが、バカは私の方だったな。まさかこれほどに名を轟かせるとはな。」
「色々ありましたからね。」
「ふっ、色々か。王都を救い、領都を救い。去年の大襲撃でもグラスクリークを救ったな。大した男だ。」
「ども、恐縮です。」
「アレックスを頼むぞ。」
「もちろんです。」
ちなみに私が泊まるのはアレクの部屋だ。アレクとは数えきれないほど同衾しているが、この部屋にお泊まりするのは初めてだ。昔の思い出が蘇るなあ。
「このベッドにカースと一緒に寝るなんて変な気分だわ。」
「いいベッドだよね。やっぱりアレクはお姫様だもんね。」
「もう、カースったら……」
夜はこれからだ。
こうしてクタナツとスティクス湖を往復すること一週間。ついに用意しておいた毒がなくなった。なお、伯父さんはどうやったのか分からないが、手の平サイズの猛毒スライムを召喚獣とすることに成功していた。今までは召喚獣を持ってなかったの?
母上は少量なら原液すら解毒できるようになっていた。
そして実験は次の段階へと進んだ。
マリーとクロミは協力して『浮身』を使い、持ち上げられるだけのスライムを浮かせる。おおー25mプール一杯分はありそうだ。
母上と伯父さんはそんなスライムに『拘禁束縛』をかけ続ける。空中で暴れたり触手っぽいものを伸ばしてくるからな。
アレクとシャルロットお姉ちゃんは周囲の警戒だ。そして私はいつも通りミスリルボードを全速力で北へと飛ばす。目標は婆ちゃんがいる旧ソンブレア村だ。
さすがにいつものペースとはいかず、時間がかかっている。この分だと日帰りは無理かな。
どうにかノワールフォレストの森を越え、いよいよ山岳地帯だ。まずはフェアウェル村を目指さないとな。
おっ、遠くにイグドラシルが見えてきた! もうすぐフェアウェル村だ。
「すごいわね。天を衝く巨木、あれがイグドラシルなのね。よくあんなのに登ったわね。」
「大変だったよ。母上も父上と挑戦してみるの?」
「そうね。それもいいかと思ってるところよ。」
母上っていかにも上級貴族の貴婦人だけど、体力は大丈夫なんだろうか? まあ登れば分かるよな。
「え? カース、あれに登ったの? 頂上まで?」
「あれ? お姉ちゃんには言ってなかったっけ? アレク達と四人で登ったよ。一年かかったけどね。」
「やるわね……」
「あの剣鬼、フェルナンド先生は三年かかったんだから僕らは幸運だったよ。」
「さ、三年……」
そろそろフェアウェル村だ。立ち寄りはしないけど村長に『伝言』で挨拶ぐらいしておくかな。
と、思ったらエルフ達が空中で待ち構えてるではないか。
『おーい。危なくないよー。大丈夫だよー。』
拡声で伝え、速度を落とす。
「うわっ、エルフ!?」
お姉ちゃんが驚いている。
「警備ご苦労様。僕らは通り過ぎるだけだから、村長によろしく伝えてもらえる?」
「なんだ坊っちゃんか。相変わらずめちゃくちゃやってんな。村長が焦ってたぞ」
「お、マルガレータバルバラじゃないか。また帰ってきたのか」
「この人間魔力どうなってんだ? 村長以上だぜ……」
「無礼者。こちらはカース坊っちゃんのお母上でイザベル様だ。敬意を込めて奥様とお呼びしろ!」
おっとマリーの一喝だ。やっぱ母上はエルフから見てもヤバいんだな。
「イザベル・マーティンでございます。以前はうちの娘エリザベスがお世話になりました。本来ならばご挨拶に立ち寄らせていただきたいところですが、このような状況です。またにさせていただきます。村長様に何卒よろしくお伝えくださいませ。」
「お、おう……」
「奥様……」
「綺麗だ……」
おやおや、人の母親に鼻の下を伸ばしてんじゃないぞ。
「じゃあ、夕方ぐらいに寄れたら寄るから。」
山岳地帯で泊まるならこの村しかないもんな。
「ああ、村長に伝えておく」
「奥様ぁ……」
「美しい……」
よし行こう。
「お前は相変わらずだな。どれだけの男を虜にする気だ?」
「そんなの知らないわよ。蜜に群がる虫に寄るなと言っても無駄でしょ? 兄上は堅物ね。そのくせセグノだったかしら? 初めての妾じゃない?」
「ふん……」
なんだなんだ? 実はこの二人仲が悪いのか? 伯父さんは時々母上にビビってるっぼいし。
まあいいや。北へゴーゴー。フェアウェル村からまっすぐ北へ向かわないと見つからないだろうからな。
「クロミ、警戒をしっかり頼むな。それから村が近くなったら教えてな。」
「任せてー! ここはウチらの庭だし!」
これで行き過ぎることはないだろう。果たして本物の禁術の毒にスライムは通用するのだろうか。




