63、ヘルデザ砂漠での実験
セルジュ君を訪ねた後はみんなで王都をぶらぶらすることになった。セルジュ君は予定をキャンセルするそうだ。いいのか? 知らないぞ?
適当な屋台で串焼きを食べたり、雑貨屋を冷やかしたり。歩き疲れたらカフェで紅茶を飲んだりと有意義な一日だった。
「じゃあセルジュ君またね。たぶん明後日の朝、王都を出ると思うから。」
「あんまり食べすぎないようにね?」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「うん。みんなも元気でね。見送りに行くからね。」
それから辻馬車を拾ってゼマティス家へと戻った。今夜から明後日の朝にかけては今度こそ何もしないつもりだ。ゆっくりと屋敷の中で錬魔循環でもしていよう。それからアレクとイチャイチャだ。
そして二日後の朝。魔力は八割まで回復した。満タンにしておきたかったが、仕方ない。出発だ。
ゼマティス家の一番大きい馬車に乗って王都の外まで行く。ちなみにセルジュ君、スティード君、そしてサンドラちゃんが見送りに来てくれた。サンドラちゃんは変化ないが、スティード君がゴツくなってたのには驚いたな。その三人から見ても私とアレクは全然変わってないらしい。不思議だ。
王都の外に出たらミスリルボードに乗り換えて一路ヘルデザ砂漠へ。二時間もあれば着くな。
「やっぱりあんたの魔力はデタラメね。どうやったらこの人数でこれほど速く飛べるのよ。」
なぜかシャルロットお姉ちゃんが付いてきた。一人ぐらい増えても問題ないから別にいいけどね。
メンバーは私、アレク、コーちゃん、カムイ、そしてクロミのいつもの四人プラス一名。それから母上とマリーのクタナツ女傑組。ゼマティス家からグレゴリウス伯父さんとシャルロットお姉ちゃん。ちなみにセグノは残った。あれで王立魔法研究所でそれなりの地位があるらしい。マジで?
つまり計九人の大所帯ってわけだ。何泊することになるんだろうか……
「金操で初速をドーンと出して後は普通に浮身と風操だね。本気で速くしようと思ったら風壁の形も大事だよ。」
今は普通に直方体で囲っているだけだからな。
「それぐらい分かってるわよ……」
そりゃそうだ。込めてる魔力量が違うってだけの話だしね。
ボードはムリーマ山脈を越え、クタナツを過ぎ、グリードグラス草原を越えるとヘルデザ砂漠に突入した。春の麗かな太陽などここにはない。何も魔法を使ってなければ普通に暑い、ただの灼熱地獄だ。
そしてもうすぐスティクス湖が見えてくる。
「ほう、あれか。あのように大きな湖が全てスライムとはな。やはり魔境とは恐ろしいな。」
恐ろしいと言ってる割に伯父さんは楽しそうだな。
「あまり近寄ると触手っぽいのを伸ばしてくるんですよ。イービルジラソーレも少し厄介ですしね。」
ここらで運転交代。アレクに浮身を使ってもらおう。スライムと距離をとりつつ実験を始めるのだ。
「植物は食べないタイプのスライムかしらね? それならそこまで珍しいわけではないけど。単にイービルジラソーレが不味いからだったりしてね。」
「奥様、とりあえずあの一帯のイービルジラソーレを刈っておきましょうか?」
母上やマリーからすれば厄介な寄生ひまわりも雑草同然だよな。
「そうね。種が邪魔だし刈っておきましょうか。頼むわね。」
「かしこまりました。」
『風斬』
『風操』
マリーは刈ったイービルジラソーレはそのままスライムの湖へと突っ込んだ。すると、やはり溶けていくではないか。つまり食おうと思えば食えるのだが、不味いか何かの理由で食わなかったってことか。まさかスライムのくせに知能が高めなのか?
「さあ、次の問題はこのスライムが単体なのか群体なのかね。兄上はどう思う?」
「さ、さあな。とりあえず確認してみるか。」
『染色』
『降雨』
おおー、半径三十メイルにも渡って赤い雨が降っている。ヘルデザの赤い雨……
二分後。
「ちっ、群体か……面倒だな。」
上空からスライムを見下ろしているのだが、すごくキモい光景だ。透明だった湖、スライムに無数の目が浮き上がったのだ。まあ目ではなくて魔石なんだけどさ。大抵のスライムって生きてる間は魔石が透明なんだよな。だからいきなり魔石だけを抜きとったり、狙ったりするのは難しい。だからいつかだったかアレクはスライムを丸ごと押し潰したわけだよな。
それを伯父さんは染色することではっきり見えるようにしたってことか。その結果、この広大な湖を埋め尽くすスライムが一匹ではなくて、無数の集合体……ただの集合体ではなく一個の魔物として存在する群体だと分かったわけだ。
ただの集合体ならスライム同士で食い合ってるもんな。
「その分一匹ずつじっくり実験に使えると考えた方がいいわね。」
『風操』
母上が湖からスライムを数匹取り寄せた。制御うまっ!
さて、実験開始だ。




