61、王宮にて
結局この日は全員でミーティングをしていた。思い思いの意見が出され有意義な時間と言えよう。その中で私が気になったのは、総代教主ジャンを閉じ込めている部屋の全面に施された魔法処理だ。
厳密には超強力な防水加工のようなイメージらしい。あらゆる液体を弾くことで壁や天井が溶けることを防いでいると。職人が服などの装備に施す『防汚』や『防水』の強力版と考えれば分かりやすいか。
あの黒幕どもはエルフの面汚しではあるが使った魔法は一流、やはりフェアウェル村の長老衆に匹敵するだけのことはある……とマリーが言っていた。
あのエルフどもって遊びには本気だったからか。あの部屋が溶けて毒が流失したら遊べないもんな。変なところで真面目な奴らだ。その割には婆ちゃんは普通の地面に池ができてたな。本家の禁術は何かが違うんだろうな。ある一定の範囲からは広がらないとか? その分、毒が消えるまでの時が長くかかる……ありそうだ……
そして夕方。
私達は王宮に招かれている。
私、アレク、母上、マリー。クロミ、コーちゃん、カムイ。ゼマティス家のみんなは来ていない。
国王一家と晩餐だ。
「カースよ、よく来てくれた。イザベルも再び会えて嬉しいぞ。」
「お招きありがとうございます。」
「国王陛下、遅くなりましたがご即位おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。」
そうやって一人ずつに声をかける国王。クロミが失礼な口をきくんじゃないかと心配だったが普通でよかった。クロミってうちの母上にも丁寧な口調で喋るんだよな。
国王との一通りの会話が終わると今度はこちらの話を聞きたがった。好奇心旺盛なおっさんだぜ。
イグドラシルやフェルナンド先生のこと。先生の剣のこと、そして婆ちゃんのこと。特に隠すようなことはないので、そのまま話してみた。
「ふむ、寿命が二倍か。惹かれるものがあるな。余も退位したら登ってみたいものよ。なあアントワーヌ?」
「それはいいですわね。あなたと二人で木登りだなんて。側近達が聞いたら目を回しますわね。楽しみだわ。」
「神の祝福によって寿命が延びるのは神官には珍しいことではないが、そのように確実に手に入れられるとなると面白いな。興味深いものよ。」
王族も大変だよな。いくら行きたくても退位するまで全然暇なんかないんだろうな。それにしても王族の身体能力が並じゃないのは知ってるが、王妃にはキツいんじゃないか? まあいざとなったら背負ってでも登るか。勇者の血筋って反則だろ。
それからは無礼講となり人数も増えた。王太子ブランチウッドやソルダーヌちゃんまで現れ楽しいひと時。特にアレクはソルダーヌちゃんとの久々の再会だもんな。嬉しいよな。
私のところには王太子弟フランツウッドがやって来た。もう第二王子じゃないよな。
「久しいなカース。お前も落ち着かぬ男よ。」
「ホントはさっさとヒイズルに行くつもりだったんだけどね。まさかダークエルフの村があんなことになってるとは思わないからさ。」
「そのダークエルフの村長は幸せ者よな。カースほどの男がこれだけの人間を動かしてまで救おうとしているのだから。」
「何が幸せなもんかよ。たぶん死ぬより辛い拷問を受け続けるに等しい時間を過ごしてるんだ。少しでも早く……な。」
死にたいと思っても死ねないから考えるのをやめた、とはいかんよな。ずっと苦しみ続けてるんだから。想像もつかない……
「お前も大変だな……少しこちらの報告をしておこう。この一年でバンダルゴウを含むタンドリア伯爵領を手に入れる目処がついた。キアラが魔法学校を卒業する五年後にはおそらく間に合うだろう。あそこを手に入れれば……私は大公だ。」
「たった一年でかよ……すごいな。あそこに潜伏してるであろうヒイズルの勢力には注意な。もしかしたら、また偽勇者みたいなのが出てくるかも知れんし。」
まずあり得ないと思うがね。
「ああ、心しておこう。カースをも手こずらせた相手だ。油断はできんな。」
こいつが大公になったらキアラは大公妃か……いまいちキアラの考えが分からん。王様になるとか言ってるし。まあそれをこいつに伝えても仕方ないか……放っておこう。
周りを見渡して見ると……
母上は国王と談笑をしている。顔と顔の距離が近すぎないか?
マリーとクロミは王妃を挟んで盛り上がっているようだ。
アレクはソルダーヌちゃんと王太子に挟まれている。えらくアレクの顔が赤いな。
カムイはメイドさん数人に囲まれ餌付けされてるのか? 大人気だな。
そしてコーちゃんは……「ピュイピュイ」
ずっと私と一緒だ。まるで逸る私の心を鎮めようとするかのように。
大丈夫、大丈夫だよ。確かに婆ちゃんは心配だけど、焦っても意味がないことぐらい分かってるさ。
大丈夫。




