53、用心棒貴族ジーン
ギルドあるあるを堪能した後は実家だ。母上が居てくれるといいのだが。
「ただいまー。」
「お邪魔いたします。」
「ちぃーっす!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「はーい、あ! カース君!? アレックスちゃんも! みんなお帰りなさい!」
「やあ、ベレンガリアさん。久しぶりだね。母上いる?」
「奥様はお出かけされてるわ。夕方にはお戻りになると思うけど。」
「そっか。じゃあそれまでゆっくりしておこうかな。色々あったんだよ。」
「とりあえずお茶でも飲む? また新しい美人さん連れちゃって。」
「それも含めて説明するよ。母上の助けが必要なもんでね。」
ベレンガリアさんと話したらマリーにも説明しないとな。
「なんとまあ……カース君もアレックスちゃんも寿命が二倍になっちゃったのね……しかも若い期間が長く……」
「それは今はどうでもいいよ。肝心なのは禁術をどうにかしたいってことなんだよ。だから母上とマリーの協力がいるんだよ。」
とりあえずマリーを呼ぶことにした。お使いはカムイだ。
お茶を飲みながらお喋りしていたらマリーが来てくれた。
「坊ちゃん、お嬢様、おかえりなさいませ。そしてそちらの方、ソンブレア村はダークエルフ族の方とお見受けしました。ようこそクタナツへ。私はフェアウェル村出身のマルガレータバルバラと申します。」
「ただいま。」
「マリーさんお久しぶりです。」
「どーもー。ウチはクロノミーネハドルライツェン。気軽にクロミって呼んでねー。」
紹介も済んだところで早速本題へ。
「なんと……あのインゲボルグナジャヨランダ村長が禁術を……それほどまでに危険な魔物が……」
「いつか話したマウントイーターがまた出たらしくてね。どうしようもなかったらしい。」
「なんということを……さぞかしご心配なことでしょう……」
「そこでマリーや母上に協力を頼もうと思って帰ってきたんだよ。王都には禁術を使った人間が今も地下に埋れてるはずなんだよ。そいつを使ってあれこれ実験をしてみようと思って。何かヒントでも掴めればいいってとこだね。」
「了解いたしました。何ができるとも思えませんが全力でご協力いたします。」
よし。単純に人手が必要な事態だってあるかも知れないしな。
「ウチだって協力するし!」
「頼りにしてるぜ。」
クロミが燃えている。自分とこの前村長だしね。
それから少し早い昼食。食べたら道場に行ってみようかな。先生から稽古をつけてもらったことだし、動ける時に体を動かしておくのもいいよね。
このメンバーで行くと男臭い道場が一気に華やかになってしまうな。
当然のように全員付いてきた。
道場にはそんなに大勢おらず私達が増えても窮屈になることはなかった。むしろ男女比が逆転、男子諸君は集中を乱されている。まだまだだね。
「カ、カース君……」
おっ、すっかり忘れてた。ジーンじゃないか。
「やあジーン。一年ぶりかな。元気?」
「カース君のバカっ! なんで今ごろ……」
あーあ。どっか行っちゃったよ。
「カース、ちょっと来い。」
「押忍!」
父上がお呼びだ。
道場の別室、休憩室って感じだな。
「父上ただいま。フェルナンド先生にも会ったよ。詳しくは夜にでも話すね。」
「無事でよかったぜ。それよりな、ちょっと言いにくいんだけどよ……」
「うん、何?」
どうした父上。まるで浮気がバレた亭主のようだぞ?
「ジーンなんだがな……手を付けちまった。すまんな……」
「なーんだ。全然構わないよ。ジーンがいいならそれでいいよ。てことは今ジーンは父上の妾って扱い?」
「お、おお……お前が旅立ってからうちに住み込んでな。あんまり寂しそうにしてるのと、ベレンが勧めるもんでつい……な。」
それにしてもこのオヤジはやり手だよな。王都でもモテモテだったし。尊敬するぜ。
「さすがだね。母上は大丈夫なの?」
「ああ。あいつは最高の女だからな。細かいことに目くじら立てたりしないさ。」
うーん、おもしろい夫婦だよな。でも、これでジーンの心配はいらないな。ソルダーヌちゃんも王太子と結婚するし、ジーンは片付いた。あとはリゼットかな。一年経ったことだし私のことなんか忘れて本当のダミアン夫人になっていてくれるといいのだが。
「それにしてもカース、お前は器が大きいのか小さいのか分からんな。アレックスちゃん以外はとことん興味がないんだな。」
「そうなんだよ。どうも興味が湧かないんだよね。父上も兄上も凄いよね。」
言われてみればオディ兄と私はそっくりだな。オディ兄だってマリー一筋なんだから。それに興味が湧かないものはどうしようもないよな。
そして夕方までいい汗を流した。ちなみに今日は夜間の部があるらしく父上とジーンは道場に残っている。ジーンの縮地を無尽流に組み込むと面白いことになりそうだな。フェルナンド先生なんかは普通に使えそうだけど。
道場の裏手にある実家に戻ると母上もキアラも帰ってきていた。




