52、ギルドあるある
一年ぶりのギルド。ここが一番混むのは早朝と夕方。今の時間はそこまで混んでない。うーん、知らない顔ばっかりだ。港町の建設で景気がいいんだろうな。他所からたくさん来ていると見た。
「かぁー! なんだぁこいつぁ? ギルドを舞踏会かなんかと間違えてやがるぜぇ!」
「ここをどこだぁ思うとるんかぁ! 天下のクタナツギルドだぜぇ!」
「おめぇみてぇな坊ちゃんはお呼びじゃねーっつーの!」
「おおっ? でもいい女連れてやがんぜぇ? 置いてけ? なぁ!」
ギルドあるあるだ! 帰って早々かよ!
なんて新鮮な気分なんだ。たった一年顔を出さなかっただけで、もう誰も私を知らないなんて。せっかくだから会話に付き合いたいところだが、今はそんな悠長なことをしている時ではない。
「お前ら金が欲しくないか? 貸してやろうか?」
「かぁー! よく分かってやがるぜぇ! さすがいいとこの坊ちゃんは違うぜ! なぁ?」
「おおよ! おめぇみてぇな坊ちゃんは長生きするぜぇ!?」
「おらぁ、さっさと出せやぁ? もたもたしてっと鼻ぁぶん殴るぜ!?」
「有り金全部だぜぇ? そしたら無事に帰れるからよぉ?」
いつも思うが、よくギルドはこんなあからさまな犯罪を取り締まらないよな。そりゃ冒険者同士のケンカは死に損とかって言うけどさ。私が本当にか弱いオシャレな貴族だったらどうするんだ? たぶん後のことを考える頭なんかないんだろうけどさ。こいつらきっと脊髄反射で生きてるんだな。
「一人金貨百枚でどうだ? トイチで複利の約束だぜ?」
「ぎゃはぁ! トイチだってよぉ! わぁこわーい!」
「魔王気取りなんだぜ! 無理すんなっての!」
「クタナツにぁ怖ぁーい魔王がいるからなぁ!」
「自分まで強くなった気になってんじゃねぇぞ!?」
おや、魔王がトイチで金貸しをすることを知っているのか。あんまり貸してないから意外だな。
「いらねーんなら貸さねーぞ?」
「かぁー! ハッタリはやめとけや! おめぇみてぇなガキが金貨百枚持ってるわけねぇだろぉが!」
そういえばオディ兄が金貨百枚貯めてマリーを買ったのは今の私の歳ぐらいだったかな。あっという間の一年だったなぁ。
では、ちょっとデモンストレーションといこうかね。
手の平を下に向けて、ギルドの床に……ばらまく。
石で出来た床に落ちる金貨。結構いい音がするもんだな。ギルド中が注目してるじゃないか。
「ほれ、ぴったり百枚あるぜ? 貸してやろうか?」
「へっへっへ……素直な坊ちゃあがっっっう!?」
ちっ、こいつ一人にしか掛かってないのか。
「他にはいないのか? 金に困ってたら貸してやるぜ?」
「俺もいたっっだぐぅ……」
「もっとあんだろ? 全部っだせぇえがあっ……」
「金っがっあおぉう……」
うん。時間差で残りの三人にも掛かった。これで安心。金貨をもう三百枚追加。
「大事に使えよ?」
いやーこの流れって久々だよな。つーか金貨百枚でトイチって一ヶ月も放っておいたらもう地獄だよな。強く生きて欲しいものだね。
「お、おい……今のって……」
「まさか……なぁおい!」
「契約魔法……? それも契約書類なし……魔力一発って……」
「魔王……カース……」
「正かーい。しっかり稼いでしっかり払えよ?」
いつも同じ服装なんだからいい加減に初見で気付けよな。たまにはこんなあるあるに出会うのも悪くないけどさ。
「さてと、待たせたなクロミ。登録に行こうか。」
「ひぇーニンちゃんって恐れられてるんだね! でもマウントイーターを退治するぐらいだから当然だねー!」
「ふふん、カースは凄いのよ! 分かったら魔王と呼ぶといいわ!」
アレクがドヤ顔をしてる。
「マオちゃん? それも悪くないけど、やっぱウチはニンちゃんって呼びたいかな。」
冒険者登録費用は銀貨一枚。それぐらい払っておいてやるよ。
ちなみに、クロミの字はかなり達筆だった……負けた……
「まっ、待ってくれぇ!」
「たすっ、助けてくれよぉ!」
「し、知らなかったんだぁ! あんたが魔王だなんてよぉ!」
「いのののっ、命だけぁ!」
さっきの四人が私の足にしがみついている。正確に言えば密着型自動防御を張ってるから私のトラウザーズに触れてはいないが。
「助けるも何も借りた金を払えばいいだろ? 利子を付けてな。」
「はっ、払う! 返すからぁ!」
「いっ、いくらなんだよぉ!?」
私のトイチは十日以内ならいつ返済しても一割だ。つまり……
「一人金貨百十枚な。別に今じゃなくていいんだぞ?」
「払う! すぐに払うから!」
「千杭刺しだきゃあ勘弁してくれぇ!」
「ほ、ほれ! 金貨百十枚だ!」
「まだ死にたくねぇよぉー!」
結局全員その場で全額払った。ほんの数分で金貨四十枚の儲けか。さっき残高をチェックしたら金貨千枚を超えてたんだよな。勲章の年金や酒の売上かな。不労所得って最高だねー。




