51、仮説と対策
「村長、マウントイーターが現れた時、もしくはその前から行方が知れない奴っていない?」
「うーん、どうだったか……」
「ニンちゃん、クロコがいなかったよ……」
クロコか……
「そいつは監禁されてたんじゃなかったっけ?」
「うん、だからウチが二日に一回ぐらいお喋りしに行ってたんだけど……言われてみればあの日の朝、クロコが居なかった……朝食を持って行ったんだけど……」
クロコ……
「クロコはそれっきり見てないのか?」
「うん……てっきり脱走しただけかとも思ったけど……」
「よく分からんが、クロコが監禁されてた所は簡単に脱走できるもんなの?」
「無理……だと思う。ねえ村長?」
「無理だな。魔力を封じられた状態で閉じ込めるんだからな。力尽くで扉を開けられるとも思えん。ただ今となってはその独悔房も消失しているからな、判断などできん。」
私の仮説は、クロコ母体説。
あの時クロコはマウントイーターに結構な量の魔力を吸われていた。そう、奴と接触をしていたのだ。ならば、その時体内に種か何か植え付けられた可能性がある。魔境において他の生物の体内に何かを植えつけて繁殖する魔物はザラにいる。マウントイーターの繁殖方法がそうだとしても何の不思議もない。
しかも、今分かったことだが奴は魔力を封じられていた。そうなるとますますマウントイーターが体内で育ちやすくなるじゃないか。人間もエルフも魔力は免疫みたいな一面もあるのは同じだろう。
または、クロコ犯人説。
どこかで身を潜めるように生き残っていたマウントイーター。そいつと何かが共鳴したクロコ。両者が合体して新生マウントイーターに……さすがに無茶か。
もしクロコ母体説を採用するなら、他にも寄生されているダークエルフがいるのかも知れない……
それから、私の仮説を話しておいた。信じるかどうかはともかく、方々の村に散ったダークエルフから同じことが起こったら山岳地帯のエルフはおろか、イグドラシルまで全滅してしまうからな。
「なるほど……あり得ない話ではない。我らの魔力探査ならば感知もできようが、それは本気で検査をした場合だ。普段から同胞に対して細かく魔力探査などするものではないからな。」
「後は頼むよ。今ならどうにでもできるだろ? こっちはこっちで色々とやることができたからさ。」
「ああ、任せてくれ。ヨランダ様の犠牲は無駄にはしない。」
これでいい。
さてと、寝るか……
呑気な旅のつもりだったのにハードすぎるぞ……でもこうしている間も婆ちゃんは苦しみ続けている……くそっ……
翌朝。食事を済ませたら出発だ。
「カース殿、魔力探査をしてみたところ、この村にいるダークエルフ族は全員無事だ。私達はこれから手分けして他の村にも訪れるつもりだ。」
「それはよかった。後は頼んだ。じゃあ、お互い無事でまた会おう。」
この村長は責任感が強いしな。任せておけば大丈夫だろう。
「じゃあ村長、ウチも行くから!」
「うむ、カース殿をしっかり補佐するのだぞ。」
こうして私達はフェアウェル村を出発した。キアラの卒業式、どうしよう……出席してやりたいけど……
「あ、クロミさ。その耳、隠しておいた方がいいな。人間の国でエルフってバレたらロクなことがないからな。」
「そうなのー? じゃあ変化の魔法でも使えばいいかな。」
「へえ、どんな感じ? ちょっとやってみ。」
「いっくよー?」
『変化』
おお、とんがり耳が人間と同じ耳になった。これならちょっと色が黒いだけの美女でしかないな。野郎どもが目の色を変えることに変わりはないが。
「幻覚魔法の一種……さすがだわ。触らなければまず気付かないわね。何の違和感もないわ。」
「ちょ、ちょっと金ちゃん、くすぐったいって。あっ……ちょっ……あん……」
おや、エルフは耳が感じやすいのかな? アレクが楽しそうに責めているではないか。そういえばアレクって女の子もイケるタイプだよな。いつだったか領都の屋敷でリゼットを責めてたし。悪い子だ。
さて、そんなこんなでクタナツ北門に到着。そこで気付いた……クロミの身分ってどうすればいいんだ? ローランド王国と国交などないダークエルフだ。困ったな……
「次!」
「お務めご苦労様でございます。本日はメイヨール卿はいらっしゃいますか?」
困った時のスティード君パパ。私とアレクの身分証を見せながら尋ねてみる。
「おられる」
「相談事があるのです。こちらの女の子ですが、故郷を追われた外国人なのです。私が保護しております。クタナツに立ち入るにはどうしたものかと。」
「待っておれ。お呼びしてくる」
今日はアレクが一緒だから貴族用の通用口からするっと入ってもよかったのだが、後のことを考えると、ここはきっちりしておくべきだもんな。
「やあカース君。一年ぶりなのに全然変わってないね。元気そうで何よりだ。スティードの卒業式以来か。あの時はありがとう。」
「おじさんお久しぶりです! 実はですね……」
スティード君パパには本当のことを説明した。少し長くなってしまったが大事なことだからな。
「なるほど……私の理解を超えていることは分かった。だが彼女の身分については何ら問題はない。カース君とアレックスお嬢様が保証しているんだ。この紙を持ってギルドに行くといい。こんな時は冒険者として登録しておくのが無難だからね。」
「ありがとうございます! あ、近いうちに王都に行きますのでスティード君に手紙か何かありましたら届けておきますよ。」
「それはすまないな。家内にも伝えておくよ。いつもありがとう。」
「いえいえ、それでは待ってますね。」
よし、次はギルドか。やはり一年ぶりか。今の組合長はゴレライアスさんなんだよな。




