40、剣鬼、剣神。そして毒針
ここは……フェアウェル村だよな?
ここから登ったんだから。
「あー! 兄貴! 帰ってきたんすか!」
「お、おお。お前は、えーっと……」
「ビョエルンエドゥアルトゼルヘルね。ただいま。」
なっ! アレク……マジでこいつの名前覚えてんの!?
「はい! 姐さんもおかえりなさい! あっ! そっちの優男って確か!」
「バカやろう! フェルナンド先生って呼べ!」
「はっ、はいっす!」
まったく。エルフの若者は礼儀知らずかよ。先生より歳上なんだろうけどさ。
とりあえず村長のところに顔を出しておこうかな。
「先生、村長のところに行きましょう。」
「そうだね。村長には世話になったことだし、挨拶をしておかないとね。」
『よくぞ帰ってきたの。少し待っておれ。宴を始めるでな。』
うおっと。村長からの伝言が届いたぞ。
「先生、今村長から連絡がありましてもうすぐ宴会を始めるそうです。」
「それはありがたいね。どれだけの間飲まず食わずだったか分からないからね。」
そうだよ……私達もなんだよ。一体どんだけ断食してたんだよ……なのに腹は減ってない。便意もなければ体が臭くもない。意味が分からないが……それが神域なのかな。
ちなみにさっき私は全員を『浄化』しておいた。あまり意味はなかったが気分的な問題だ。それから服装もいつものスタイルに着替えた。やはりこの姿が落ち着くな。
「早かったな。頂上まで登ったのか?」
「アーさん久しぶり。登ったよ。トールカン様の祝福も貰ってきた。悪いけど聖衣は下しか残ってないよ。」
「そのようだ。そのぐらい構わん。それより気になるのが、優男よ。その剣は何だ?」
なんだよ、アーさんまで先生を優男って呼んでるのか。ムカつくなー。
「やあ、アーダルプレヒトさん。ただいま帰りました。トールカン様に望みを尋ねられたので強くなりたいと答えたらこれをいただきました。」
「そうか。名は?」
「神剣セスエホルスだそうです。おまけに剣神を名乗るよう言われました。が、そちらは聞き流しておきました。さすがに私には過分ですからね。」
す、すごいぞ先生……
神剣セスエホルス? もしかして勇者の聖剣デランサイファより上なのか? そして剣鬼が剣神になる!? 剣の腕を認められたのか、それとも登ったことを評価されたのか。神の考えてることって分からないな……
だが、そんなことより。
「先生! 斬れ味を試してみませんか?」
めっちゃ興味があるからね。
「そうだね。何か手頃なものは……」
「これなんかどうですか?」
毎度お馴染み偽勇者の鎧だ。
「ほう、ムラサキメタリックかい。これは面白そうだね。」
鎧の下を氷に埋めて固定しておく。先生は剣を抜き構えた。神剣と言っても見た目は騎士団のロングソードとさほど変わらないんだな。もっとデザインに凝ればいいのに。
あっ、鎧の右肩が落ちた。いつ振ったんだよ……
「ふむ。なるほど。カース君、私に落雷を撃ってくれるかな?」
「押忍!」
『落雷』
先生に雷が落ちる。が、剣で受け止めた。いや……剣が私の魔法を吸収した?
そして今度は見えるスピードで剣を振った。すると……
「飛斬ですか?」
スティード君も使う飛斬が先生から飛んだ。先生は飛斬も飛突も使えないって聞いていたが。
「正確には違う。今のは雷飛斬ってとこかな。アッカーマン先生の師、剣聖と謳われたヘイライト・モースフラット先生が得意とされた魔法剣の一種だね。魔法を受けた後なら一度だけ使えるのがこいつの能力らしい。」
「な、なるほど……」
魔法剣か。使う人が使えば威力抜群なんだろうが私には必要ないな。それより、アッカーマン先生のことを話さないとな……宴会が始まる前に。
「なるほど……そうだったのか。アッカーマン先生も毒針だったのか。どうりで無尽流以外の動きが見え隠れすると思えば、毒針の殺し技だったということか……」
「アッカーマン先生はその辺りを剣鬼様には教えられないと言ってましたわ。剣鬼様に勝つ可能性はそれしかないからと。」
アレクはアッカーマン先生の最期に長話をしてたんだよな……
それにしてもフェルナンド先生は強さに貪欲か。
「そうか……ところでカース君。よく先生に勝ったね。お見事だ。その上、懇ろに弔ってくれたんだね。ありがとう。」
「いえ、大したことでは。場所は旧ルイネス村です。近くを通りかかったらお立ち寄りください。」
「ああ、そうさせてもらうよ。どうせなら私を狙ってくれればよかったものを……そうすれば殺し技の一端ぐらいは見えただろうに。惜しい方を亡くしたものだ。」
先生はそう考えるのか。やっぱ貪欲だな。
アレクが言ってたもんな。アッカーマン先生は「フェルナンドは嬉々として毒針の技を教えろと詰め寄ってくる」と話していたと……




