39、剣鬼フェルナンド
帰ろうにも出口はどこだ? あたり一面に渡って真っ白で何も分からないぞ。
『よくぞ参った』
トールカンの声だ。こいつ何言ってんだ?
「カース君か?」
はっとして後ろを振り向いたアレク。つられて振り向く私。
そこにいたのは……
「先生!」
フェルナンド先生だった……
「妙なところで会うものだね。私より先に登頂していたとは恐れ入るよ。」
「先生こそ。普通なら五年はかかるそうですが、二年半ってとこですか?」
いや、違うか。私達がどれだけ時間かかったのか、降りてみないと分からないもんな。
「どうだろうな。では少し待っていてくれるかい。」
「押忍!」
先生がトールカンと会話をしている。
先生の言葉は聴こえるが、トールカンの方は聴こえない。
やがて先生は地面に跪き、恭しく何かを受け取った。剣か!?
ため息が出るほど神々しい光景だ。ホントこの先生は何やっても絵になるんだよな。
どれほど時間が経ったのか。先生が立ち上がった。
「待たせたね。さあ帰ろうか。」
「押忍! 帰り道って分かります?」
「ああ、端まで歩いてから飛び降りればいいそうだよ。」
あの野郎……私達には何も教えてくれなかったくせに……贔屓か!?
「剣鬼様、お久しぶりです。アレクサンドリーネでございます。」
「やあ、アレックス嬢。久しぶりだね。おっと、それはいけないな。これを羽織るといい。」
さすが先生。自然な動きでアレクに自分の聖衣を譲った。全然汚れもなければ破れてもない。どうなってんだ?
「あっ、ありがとう、ございます!」
うわー、アレクの顔が真っ赤だ。かわいいなぁ。やはり先生は見た目も中身もキラキラ王子様だもんな。アレクがそうなるのも無理はない。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんもカムイも先生にジャレついている。
「おや、コーちゃんは以前より白くなってないか? カムイは明らかに小さくなったのかな?」
「そうなんです。何やら祝福をもらったようで。」
コーちゃんは脱皮して純白になっている。白さが違うね。
雑談しながら歩くことわずか五分。さっきまで見えなかった白いエリアに端が見えた。下に何も見えないが、ここから飛び降りるのか……
まあ、神域を出たら『浮身』を使えばいいよな。
「じゃあ僕が先に行きますね。コーちゃんはアレクを頼むね。」
「ピュイピュイ」
ジャーンプ。
うーん、フリーフォールだな。これはこれで気分がいい。しかしおかしい。登った時と全然景色が違うではないか。というか何もない。ただ底の見えない青空を落下しているだけだ。どうなってんだよ。
人間がフリーフォールをした場合、速度はおよそ時速二、三百キロだと聞いたことがある。そんなの私の飛行速度からすればノロいもんだ。つまり、もう魔法を我慢するのはやめだ。ここからは好きにさせてもらう。今さら魔法を使ったからって祝福を取り上げるなんてケチなことはするまい。
『浮身』
とりあえずアレク達を待つ。すぐにでも落ちてくるはずだ。
来ない……
おかしいぞ……
私の一分後に踏み出したとしても、もう来てもいい頃だ。
まさか神域あるあるか? 私達がフェルナンド先生を知らない間に追い越していたように、帰りも全く違う空間を通っているとか?
意味は分からんがそうだと仮定して私も降りよう。自由落下なんてヌルい速度ではない。
下に向かって全開で降りてやるぜ。
でもいきなり地表にぶつかったら怖いから自動防御をめちゃくちゃ張っておくぜ。
下向きに進んでいると、ゴールらしきものが見えた。光る入口、あそこに飛び込めってことだな。少し速度を緩めて……自由落下程度のスピードでゴー!
出た!
目の前にはイグドラシル!
いや、イグドラシルを遠目に見つつ落下している。やっと現実に帰ってこれたのか!
地面だってバッチリ見える。地表まで残り数百メイル。すぐじゃねーか!
到着。私が一番乗りかな。
次は誰だ? 優しく受け止めてやるぞ。つーか、この落ち方ってフェルナンド先生にはヤバいよな。浮身が使えないとアウトじゃん。
来た! カムイか。
『浮身』
おかえりカムイ。
「ガウガウ」
次は……先生だ!
『浮身』
「助かったよ。ありがとう。」
「いえ、大したことでは。」
アレクとコーちゃんはまだか?
「私達は全員同じように落ちたんだが、時間差があるものだね。」
「不思議ですね。途中で待ってたんですけど誰も来なかったもので。」
「なるほど。だがあそこは神域だ。何があってもおかしくないのだろうね。」
「ですよね。」
そうこう話しているうちに、見えた! アレクだ!
『浮身』
あ、私が使うまでもなくアレクは自分で使っているではないか。当たり前だな。
「おかえり。」
「ただいまカース。」
「ピュイピュイ」
無事に全員集合だ。ああ、長い試練だったなあ。どれぐらい時間が経ったんだろう。どうか浦島太郎ではありませんように。




