18、リリスの選択
アレクの長兄の借家を出た私達はウリエン兄上の家に向かっている。道中でアレクのファンに囲まれたり私を妬む輩に囲まれたりしたが、何事もなく到着した。
母上から預かった物もキッチリ姉上に手渡した。「ふっふっふ、これで私も……」とか何とか言ってたなぁ。そのまま夕方までお喋りをして城門が閉まる前にゼマティス家へと戻った。明日は領都に帰って、明後日はダミアンとリゼットの結婚式か。イベントだらけだな。しかし、それが終わったら今度こそ誰憚かることなくエルフの村に行くぞ。旅に出るんだ。
もう王都に用はないよな? パスカル君とかもいるけどわざわざ会いたいってほどでもないし。ナーサリーさんも別にいい。センクウ親方の所はこの前行ったし。よし、今夜はデビルズホールで遊びたおして明日領都に帰ろう! ねーコーちゃん!
「ピュイピュイ」
そして翌日。ゼマティス家を出て領都の自宅へ帰り着いた。マーリンやリリスとはしばらく会えなくなるな。
「旦那様、お話がございます。」
「おう、リリスどうした?」
「先日の件です。私に好きなことをさせてくださると言う件ですが、決まりました。旦那様のご協力が必要ですが。」
「おお、決まったか。何をやりたい?」
「旦那様の領地、楽園で娼館を経営したいと思います。」
娼館だと!? ニーズはかなり強いが……
「建物や女はどうするんだ?」
「ええ、そこでご相談です。リゼット様から聞いたのですが、あちらでの旦那様のお屋敷もここと同じぐらいの広さだとか。使わせていただけないでしょうか? 娼館だけでなく宿としても利用できそうではありますが。」
「それは構わん。誰も住まないのはもったいないしな。で、女はいるのか?」
「はい。これもリゼット様が。利益を分配する約束でリゼット様が買い集められた女奴隷と、遠くに逃げたい女が合わせて十五人おります。」
「うーん、金の取り立てとか大丈夫か? 女しかいないんだから簡単に踏み倒されるぞ? それに食糧の問題もある。」
「旦那様のゴーレムを警備に使わせていただきたいと思います。食糧は僭越ながら私が魔境で狩りをしてでも調達いたします。足りない分は冒険者からサービスと引き換えに現物支給でしょうか。」
すっかり忘れてた。執事ゴーレムのバトラーとメイドゴーレムのアン、ドゥ、トロワ。もう辺境伯家での行儀見習いは十分だろう。
「うーん、穴だらけな気もするけどいいんじゃないか? そんなら俺は女達に契約魔法でもかけたらいいのか?」
「その通りです。あちらで私に絶対服従するようかけていただきたいのです。」
「いいだろう。うまくやりな。それで、俺の取り分は?」
「だいたい純益の半分ぐらいかと。リゼット様に二割、女達への支払いが一割、蓄えとして一割、残る一割を私がいただきます。」
「いいだろう。他に足りないものはないか? 例えばリリス専用の男奴隷とか。」
「いえ、私は適当な冒険者を見繕うつもりですので。ご心配をありがとうございます。」
うーん、これは面白いことになったぞ。私が何もしなくても金が入ってくるではないか。まああれだけの建物を魔境の真っ只中に建てたんだから当然と言えば当然なのだが。
「期待してるぞ。じゃあ餞別をやろう。舐めた冒険者がいたら殺していいからな。」
渡すのはナイフ、それもスパラッシュさんの形見のナイフだ。それから霞の外套だ。この二つがあれば暗殺も楽勝だ。リリスには楽園の治安維持もしてもらおう。
「ありがとうございます。有効に活用してみせます。」
リリスも変わった奴だよな。わざわざあんな過酷な所に行かなくてもさ。
「そうなりますと、留守を預かるのは私一人ですね。どんなに遅くなってもいいですから、必ず帰って来てくださいな。」
「ああ、マーリンには心配をかけるが頼むよ。ちゃんと帰ってくるからな。ね、アレク。」
「ええ、お土産持って帰るわね。マーリンも元気でね。」
「お嬢様も。ご無事でのお帰りをお待ちしております。さあ、今夜はご馳走ですわよ。たくさん食べてくださいね!」
ここにはダミアンも顔を出すだろうし、マーリンが一人で寂しいってこともないだろう。後顧の憂いなく旅立てるな。ちなみに今日はダミアンの奴来てないのな。さすがに明日が結婚式ともなると暇じゃないってか。どんな結婚式になるんだろうな。ちょっと楽しみだ。




